「穢れた手」(16年 堂場瞬一 創元文庫)
「刑事・鳴沢了」シリーズ、「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズなど、腕利き刑事が活躍するシリーズものは多作ながら楽しめてきたのだが、この「穢れた手」はちょっと違った。騙されて罪に問われることになった同僚刑事を信じ、名誉を取り戻すために私的な捜査をすすめるという刑事友情物語なのだが、主人公の刑事の動きも思考もウジウジしていて、この本を途中で投げ出したくなった。堂島の普段の切れ味がない。地方都市の暗さと警察組織を背景にしてはいるものの、それが普段の鳴沢の「面白さ」につながっていないことが、ベストセラーにもなっているシリーズものとの大きな違いか。
「ユニット」(05年 佐々木譲 文春文庫)
ハードボイルドでは北方謙三と並んで好きな作家で、近年は「うたう警官」など警察官を主人公にした作品も書いて、ワタシ的にはどれを選んでも面白い・・はずだったのだが、全くアテが外れた。少年犯罪で家族を殺された男と家庭内暴力を逃れた刑事の妻が出会うという映画なんかでありそうな話なのだが。カミさんによればこの少年犯罪が実際にあった事件だったという。おお、そうか、佐々木の今回作品の失敗はソコだったのかと。ワタシなりの解釈だが、佐々木はこの事件を調べこれをネタに筋書きを描こうとしていたのではないか。この物語の主人公は3人、犯罪を犯した少年、被害者の男、刑事の妻。うーん、主題に置きたかったのは少年か、男か、妻か。どれも中途半端に終わっているのが残念。
「モンスターU子の嘘」(14年 越智月子 小学館文庫)
相容れない本というのがワタシにはある。セリフばかりが多く、スキマの多い本がそれだ。そして、そのセリフが短くて今風のどっちもとれるようなものだと、もういやになる。例えばこうだ、3行目に、
”「鎌田くんありがとう」
すっかり小さくなった寺本の母親が白いハンカチで洟をかんだ。・・”
ワタシならこうする。
”すっかり小さくなった寺本の母親が(鎌田に)礼を言いながら白いハンカチで洟をかんだ。・・”
こう書けば、セリフのあとの無駄な空白も、文頭の鎌田をまたここで繰り返すこともないだろうに。勝手なことを書くが、この作家は小説を書くために、編集者から朱筆を真っ赤に入れられたり、原稿を突き返されたりといった「修行」を積んでいないのではないかと思う。
喫茶店経営者の詩子(U子)が賭博常習犯で逮捕され、これを追っかけるフリーライター鎌田が詩子について記事を書くという題材も、物語の構成も素晴らしい。この素晴らしい材料が、書き手の力不足のためにこれだけのものになってしまうことを惜しいと思う。悔しい。
読書メーターというブログサイトでは好評だと。さすれば、オカシイのはワタシのほうなのか。
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