2018年8月7日火曜日

ロバの耳通信「ツィゴイネルワイゼン」

「ツィゴイネルワイゼン」(80年 邦画)

女優が一番輝く作品があるとすれば、大谷直子はこの映画だ。芸者と人妻の2役を演じる、というよりこの自然さはこの人の本質かもしれない。うん、芸者と人妻だから考えてみれば両極端のようなのだが、すべての女性がいくつもの顔を持っているようなものか。

監督に鈴木清順、原作が内田百閒、脚本、田中陽造ときて、スチールを荒木経惟が撮っているというこれ以上はないという制作陣に加えて、大谷のほかに原田芳雄、大楠道代、藤田敏八、山谷初男、樹木希林、佐々木すみ江と芸達者を揃えている。舞台設定は古いし、出だしの象徴的な役柄の盲目の旅芸人3人組、この3人組が夜汽車の中で手探りで飯を分け合うところ、3人が縦に連なって歩く姿など思い出しても滑稽で哀しいーとかも現代にはそぐわないだろうが、ストーリーに違和感はないから、誰かこの映画をリニューアルして作ってくれないだろうか。うん、一番悩むのが大谷直子のやった役か。高橋(関根)恵子はピッタリだが、大谷とほぼ同じ世代だからね。うーん、個人的な好みだけで言えば「まりりん」(ママドルの白石茉里奈)なんかいいと思う。

大谷直子はデビュー作品「肉弾」(68年 邦画)で、ワレワレ世代に衝撃を与えて以来、数々の作品でワレワレを虜にしてきたが、マイベストを上げるとこの「ツィゴイネルワイゼン」「橋のない川」(93年)、「蛇イチゴ」(04年)か。いつも何本か跳ねた髪がなんとも色っぽく、口元だけが笑ったように見えなくもない、美人とも言えない下膨れの冷たい顔がなんともたまらない。近年のメぱっちりで派手なアイドルたちを見てると、もうこういう女優はこれから出ないだろう、そんな残念な気がする。

自分で買った初めてのレコード盤がツィゴイネルワイゼン」(サラサーテ作曲)だった。学校の授業で初めて聞いて鳥肌が立つほど感動し、貯金箱から出した小銭の山をつかんでレコード屋に買いに走った。結構高かった気がする。33と3分の1(回転)のSP盤で、B面が「ロンドとカプリチオーソ」(サン・サーンス作曲)。音楽好きの父は夜勤が多く昼間は週末もほとんど家にいなかったから、父の蓄音機で盤が擦り減るまで、うん、当時はレコード盤はレコード針で引っ掻いて音を出していたからね、よく聞いたものさ。

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