2018年10月24日水曜日

ロバの耳通信「海辺の生と死」

「海辺の生と死」(17年 邦画)

太平洋戦争末期に加計呂麻島(奄美群島)で出会った海軍中尉島尾敏雄、代用教員ミホの物語。同名の原作(13年 島尾ミホ)が元になっている。

ミホ(役名ではトエ)役の満島ひかりが浅黒い島の女を演じていて、中尉役の永山絢斗がゼンゼン似合わないのと反対で、なんとも役ピッタリなのだ。
満島の訛りがなんだかオカシイと思っていたが、満島のことを調べてみたら沖縄の出身だという、オカシかったのはワタシの方らしい。考えてみれば、コッチの言葉ではないのだ。それにしても、満島が歌う奄美島唄がいい、動画では字幕が出ていたが劇場映画ではどうなのだろうか、意味が分からない言葉も混じるが、意味が通らなくても聞いているだけで涙が出た。ジワジワ、ジワジワ沁みるような歌だ。

満島はもうそう若くもなく、そう美人でもなく、ゼンゼン色っぽくもないが、なぜかいとおしかった。抑えようもない喜びや、行き場のない悲しみを全身で訴えていた。ほかの女優でこの役をやれるのはいないと思う。
カメラワークは昔の日本映画を見ているようでなんだか懐かしかったが、子供たちや島の人たちの衣服、特にミホの喪服とか、小道具が妙に新しかったりして、細かいところの手抜きは残念。ただ、それらの小さな不満を全部チャラにできるくらい、満島が良かった。

「海辺の生と死」と「死の棘」は同じ舞台設定なのだが、一方は妻側から見た情熱的な出会いと妻の一途な思い、他方は夫側からみたその後で浮気をした敏雄と嫉妬に狂ったミホの諍いが延々と続く夫婦生活。

「死の棘」日記(08年 新潮文庫)の表紙に二人の写真がある。仲良しに見える。オリジナルの「死の棘」(81年 島尾敏雄 新潮文庫)が映画化(90年 邦画)された際のミホ役の色白の松坂慶子は白い顔に悋気の青筋をこめかみに立てて、敏雄役(役名はトシオ)の岸部一徳を毎日責めていた。松坂のミホはキレイだが心底怖かった。



2018年10月18日木曜日

ロバの耳通信「ノルウェーの森」

「ノルウェイの森」(04年 村上春樹 講談社文庫)

ずっと前に「何度か」読み始めたが、数ページで挫折していたからまた途中で飽きるだろうと読み始めたら、上下巻を一気に読んでしまった。下巻の表紙は深緑色地紋赤文字。ワタシの中の何が変わったのだろうか。「1Q84」(09年~ 新潮社)ですっかりまいってしまった青豆のような少女に会えることを、村上の本に期待していたのかもしれない。

「ノルウェイの森」にいたのは直子(ワタナベの親友キズキの幼なじみ、のちワタナベの恋人)やら緑(大学の同級生)やらレイコやらたくさんの女性が登場したが、青豆も青豆のようなコもいなかった。ただ、ただ甘やかされてわがままな哀しい女たち。振り回されて打ちひしがれてしまう男たち。
発行部数の累計が1000万部と、日本で1、2のベストセラーだと。単に流行(はやり)モノだったのかもしれない。ワタシにも青春があったから、ほかの多くの読者と同じく、ワタナベに共感するところもあったのだが、読み終えて残ったのは女性たちへの同情。好意やあこがれなんて感じない。青豆はあんなに恋しかったのに。
ワタナベは話が上手で親しくなった女性のほとんどとエッチをしていた。いつも女性の前ではあがってしまうワタシは好きになりすぎる気持ちをコントロールするのに精一杯で、とてもそれどころじゃなかったのに。

「ノルウェイの森」(10年 邦画)のワタナベ(松山ケンイチ)と直子(菊地凛子)のゼンゼンつまらない映画をガマンして半分だけ見ていて、「ノルウェーの森」がビートルズの曲だということも知らずにいたのだ。この映画も何度かトライした覚えがあるのだが、ワタナベも直子も、その他ほとんどの配役がことごとく嫌いになってしまった。「青いパパイヤの香り」(93年 ベトナム・仏)で新鮮な風を映画界に吹き込んだトラン・アン・ユン監督も日本語はダメらしい。ファッションモデルの水原希子に緑のセリフを棒読みさせてどうするんだ。
映画のチカラはすごいと思う、それ以来原作も、松山ケンイチと菊地凛子も遠ざけてしまった。菊池凛子のワガママ、ナマイキさは際立っていた。菊池は原作の直子に一番近かったのかもしれないのだが、とにかくコイツが嫌いになった。世界の各賞を総なめにして「バベル」(06年 米)の何かの賞をとった千恵子役の菊池も「」嫌いだった。原作を通しで読めたからといって、この映画をまた見る気にはなれない。原作も映画もそれほど好きってことじゃないらしい。うーん、単に菊池が嫌いなのかも。いやいや、原作本を嫌いになったのも、菊池のせいか(八つ当たり)。あ、2時間強のこの映画で良かったと思うのが、ワタナベが直子を失った喪失感に海岸で咆哮するシーン、だけ。

タブレットには「海辺のカフカ」(09年)「騎士団長殺し」(17年 ともに新潮社)の電子版をずっと未読のままにしている。さあて、どうしようか。

2018年10月16日火曜日

ロバの耳通信「亜人」

「亜人」(17年 邦画)


同名の漫画を単行本(桜井画門13年~ 講談社、同年から漫画雑誌 good!アフタヌーンにも連載)で、10巻以上あるボリュームを飛び飛びに読んでいて、「死なない人間」の再生の仕組みとか「黒い幽霊ー例の包帯のバケモノ<これが単行本の印象深い表紙になっている>とか、まあ、普通では考えられないとんでもないストーリーを楽しんだ。なんでもできる漫画の真骨頂というところか。
アニメ化(16年 劇場版、テレビドラマ版)は予告編や番組紹介動画をチラ見して興味を持てなかったが、実写化されたということで早速。

交通事故に遭うまで自分が亜人だと知らなかった研修医の永井圭役を佐藤健、テロリスト佐藤役を綾野剛、厚生労働省の役人戸崎役を玉山鉄二と今ハヤリの若手男優を置いたが、配役はどうだろうか。自分が亜人であることに思い悩む役柄だからだが、いつも難しい顔をしている綾野剛を、テロリスト役をとらえどころのない佐藤健のほうがずっと良かった気がする。包帯のバケモノののCGはゼンゼン気持ち悪くなく、自動小銃や短銃がいかにもプラスチックのピカピカだったり(まあ、しょうがないか)、発射音が単調だったり、細かいところで手抜きすぎか。
結果、漫画のほうが面白かったが、実写版もまあ楽しめた。実写は漫画を超えられないのか。漫画の実写化では木梨憲武&佐藤健主演の「いぬやしき」(18年 邦画)が話題になっているようだが、さて漫画を超えることができているのだろうか。

2018年10月13日土曜日

ロバの耳通信「タイタン」「ウォーロード/男たちの誓い」

「タイタン」(18年 米ほか)

このところ台頭著しいネットフリックス( Netflix)米オンラインDVDレンタル及び映像ストリーミング会社の作品。日本のDMMかGYAOといったところか。面白い作品も多いのだが、「タイタン」を見るとやや粗製乱造といわれてもしょうがないんじゃないか。

人口過剰で土星の惑星タイタンへの移住を進めるために、タイタンの過酷な環境に適合できるようにボランティアの人体改造を試みるが、改造されたボランティアがバケモノになってしまうというなんともハチャメチャSF。原作がイイカゲンなのだろうが、改造された男に拒絶反応がでてきたところぐらいから、今まで何とか付き合ってきた話のスジが崩れ、ラストに突然改造マンがタイタンに降り立つ。これで、人類のタイタン移住のプロジェクトの本格稼働というハッピーエンド、なんだこれは。主人公に「ターミネーター4」「アバター」(いずれも09年 米。「アバター」では主人公ジェイク・サリーで一気に有名になった)サム・ワーシントンをもってきたが、うーん、とにかく表情がない役者。テレビシリーズでは頑張っているらしいけれど。

「タイタン」で消化不良になったから、何度目かの「ウォーロード/男たちの誓い」(07年 中国・香港)を口直しに。何度みても面白いのは、史実に基づいた丁寧なストーリー展開に加え、大ファンのジェット・リーとアンディー・ラウが出ていて、極めつけは女優シュー・ジンレイが美しいから。役柄、薄汚れボロをまとっているがなんともいえないくらいだ。若い頃のチャン・ツィイーにもまいったが、この中国女優の美しさは類をみない。

2018年10月9日火曜日

ロバの耳通信「子犬のように、君を飼う」

「子犬のように、君を飼う」(09年 大石圭 光文社文庫)

マカオに賭博に行ったバツイチの作家が、マカオで中国人の少女を買いホテルへ連れ帰るとう、「夢」のような物語。ロりの小金持ちがカジノに勝って気が大きくなって、娘のような少女をモノにしようと散財するというただのエロ小説。裏表紙の本の紹介には”異端の純愛”とか”究極の恋愛”とあったが、なんだか違う気がする。見えるのは中年男性の汚らしさやすれっからし売春婦のしたたかさ。その両方共を精一杯美化しようとしている。それができていないから普通に薄汚れた世界が見えるだけの変態小説。
金があれば何でもできるのだろうが、金で買ったり欲に惹かれても純愛の気分は味わえるのだろうか。
エピローグは、少女に一緒に日本で暮らすことを約束して別れ、帰国する飛行機の中。たぶん、思い通りにはいかないとココロの底ではわかりつつも、日本での少女との暮らしの困難さに思いを馳せ、あげくのはては”まあ、なるようにしかならないさ”と、もう忘れてしまおうとしている中年男のズルさの暴露がこの作品のウリなのか。それなら、本編のエロ小説を短く切り上げ、この少女との日本での暮らしと別れを残酷に描いてくれたらいい作品になっただろうと思う。残念。

2018年10月2日火曜日

ロバの耳通信「ジャッジメント・フライ」「ハイヒールの男」「ベルリンファイル」「闇刻の宴」「列車に乗った男」

この夏何度目かの大型台風。どこにも出かけられず、結局、GYAOに頼ることになってしまった。カーテンを閉め、雨と風の音を聞きながらの映画会。カミさんは一日中、本を読んでいた。

「ジャッジメント・フライ」(13年 米)
原題がChariot。チャリオットはアラスカに核爆発で港を作るという計画、もちろん実施されず。映画のなかでは政府による陰謀ということだけで、内容はあきらかにされていない。行方不明になっていた米のボーイング727に、本人の意思ではなく乗せられた8人の乗客がパイロットのいない飛行機を操縦し、ワシントンDC空港に降りようとする。ストーリーの合理性もあったもんじゃなかったが、舞台劇のような緊迫感が伝わってきて楽しめた。5点満点の3点


「ハイヒールの男」(14年 韓)
公開時に見たのだが、面白かった記憶がありまた見てしまった。ホントは女になりたい凄腕の刑事<チャ・スンウォン>の物語でハードボイルドとアクションを楽しめた。韓国の刑事モノは結構面白い。5点満点の4点

「ベルリンファイル」(13年 韓)
これも再見。ベルリンを舞台にした南北の謀略モノ。韓国情報局員<ハン・ソッキュ>と北朝鮮諜報員<ハ・ジョンウ>の韓国2大スターが渋い演技で良かった。ワタシ的には北のハ・ジョンウ妻役<チョン・ジヒョン ( 「猟奇的な彼女」01年、「デイジー」(06年)ほか>が、変わらぬ美しさで、彼女を見たいためだけにこの映画を再見したようなものだ。5点満点の5点


「闇刻の宴」(15年 邦画)
オムニバスホラーときた。観客を怖がらせてホラーなのだということを、監督も脚本家も忘れている。女優にギャーっと怖がらせても、それをハタから見ているだけだからわざとらしく、ただシラケる。
オムニバスは使える時間が限られているから恐怖を圧縮してめっちゃ怖がらせてほしいのだ。つまらない短編を詰め合わせても、上映時間のための時間稼ぎだと思われるだけ。6編らしいが、ガマンにガマンして3編を見て挫折。後半に期待なんかできない前半の倦怠感。5点満点の0点。時間のムダを保証。

「列車に乗った男」(02年 仏独ほか)
フランスの名優ジャン・ロシュフォールとジョニー・アリディのために作られた映画。昔のフランス映画の伝統のノワールの香り一杯。アウトローにあこがれる初老の元国語教師と落ち着いた暮らしを考え始めた流れ者が出会い、別れてゆく。ワタシ、流れ者役のジョニー・アリディの大ファンで、この映画も3度目かそれ以上。ジョニーは現役のロックスターで「あの」シルビー・バルタンの元ダンナのプレイボーイとしても有名。香港を舞台にした「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」(09年 仏香港)が特によかった。
「列車に乗った男」は派手さも、ジェットコースターのような活劇もない映画だが、ジワーっと、オトコの心に浸み込むような映画。ジャン・ロシュフォールもジョニー・アリディも昨年亡くなってしまった・・。5点満点の5点