2019年3月25日月曜日

ロバの耳通信「コロニア」「エグザム」

 「コロニア」(15年 独仏ほか)

チリのクーデターの際の実話を基にした作品で、ピノチェト軍事独裁政権下で運営された一種の強制収容所「コロニア」を舞台にしている。カメラマンの恋人が逮捕され収容された「コロニア」に入り込んで恋人を助けようとする元ルフトハンザのCA役があのエマ・ワトソン。「ハリー・ポッター」シリーズ(01年~ 英米)のハーマイオニー役のキレイでも色っぽくもないエマ・ワトソンが、この映画では良い演技をしていた。エマはあまり好きじゃないし、ほかのいくつかの映画でも感心するところもなかったから、この映画のエマを見て、お、やるじゃないかと。収容所からの脱出や追いつめられた空港でルフトハンザ機に飛び乗るところなどは実話に裏付けされた強みか、圧倒的な迫力で迫って息を詰めるほど。

もうひとつの見どころは司祭でもある収容所長役のスウェーデンの名優ミカエル・ニクヴィストの悪魔のような恐ろしさ。17年に57歳で亡くなったが、「ミレニアム」シリーズ(09年 スウェーデン)、「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(11年 米)などでの渋い演技をワタシは忘れない。

エンドロールではコロニアの収容者や職員らしき人たちが着飾って、満面の笑顔を見せている。映画の中では、これは視察に来た大統領を迎えるシーンで再現されていた。この収容所は教区の名をかりて政治犯などが幽閉され迫害されていただけでなく、銃器をつくったり人体実験の被検体を提供していたと。ナチスの強制収容所に通じるものがある。満面の笑顔の裏には恐怖が張り付いていたに違いない。悪魔がまだどこかにいるような気がする。

「エグザム」(09年 英)

何人かの候補者を部屋に閉じ込め、一種のサバイバルゲームをやるという設定の映画は、治験アルバイトの被験者が過酷なゲームに参加する「実験室KR-13」(09年 米)、閉じ込められて仕事をする従業員がミスをすると酷い目にあわされる「ヘッドハント」(12年 豪)など結構多い。ああ、殺人鬼ジグソウによって密室に閉じ込められ、猟奇ゲームを強要される「ソウ」シリーズ(04年~ 米)もコレにはいるかと思うが、残酷も猟奇もナシで純粋に謎解きを楽しませてくれたのはこの「エグザム」だ。

新薬で業績を伸ばしている会社の採用試験の最終選考に残った8人。採用されれば生涯年棒1億円だと、そりゃ必死になるでしょう。質問はひとつだけ、80分の制限時間内に答えること。8人にメジャーな俳優はいないから、誰が最後まで残るかなんて、配役で想像することなんかもできず、舞台劇のような緊張感を持って最後までみてしまった。タネアカシはやめとく。面白かった(!)

2019年3月21日木曜日

ロバの耳通信「かげろう絵図」「弱気の虫」

「かげろう絵図」(04年 松本清張 文春文庫)

松本清張を久しぶりに読んだ。

若い頃から本だけでなく映画やテレビドラマで、近年はYouTubeの朗読サイトまで何度も松本の作品に触れているから、正直どれが未読かわからなくなっているが、最初に読んだのが「弱気の虫」(71年 松本清張全集(9)「黒の様式」の短編、77年 文春文庫)。賭け麻雀から抜け出せなくて破滅してしまう男の物語なのだが、ちょうどそのころ会社の同僚と囲む麻雀に嵌まっていた。負けることが多かったので給料日に支払った掛金の悔しさを今も忘れていない。貧乏サラリーマンのことだし、実際はたいしたことはなかったのだろうが、この金額で妻子にケーキが何回買えたかと。

「かげろう絵図」は徳川家斉の世継ぎを画策する大奥閨閥たちの物語で、大奥のスキャンダルあり、旗本の次男坊の活躍ありのエンターテインメント作品で上下巻約1100ページの長編は 飽きることなく一気に楽しめた。ハッピーエンドの物語だったから終わったあとの爽快感も。市川雷蔵、山本富士子、黒川弥太郎など往年の名優で映画化(59年 大映)されているらしいので動画サイトを検索したが見つからない。

何度かテレビドラマ化もされているとのことだが、「松本清張のかげろう絵図」(83年 フジテレビ時代劇スペシャル)だけは見た記憶がある。お美代の方を演じた中島ゆたかという女優の大ファンで、中島ゆたかを見たいためだけだったから、ほかの役者はほとんど覚えていない。このあとに古本屋で買ったグラビア本「中島ゆたか スペイン幻想」(83年 一世館)を持っていたほど。そういえばこのグラビア本どうしたのだろう。うん、中島ゆたかねー、忘れてた。

2019年3月17日日曜日

ロバの耳通信「アリータ:バトル・エンジェル」

「アリータ:バトル・エンジェル」(19年 米)

テレビCMも始まりずっとずっと見たいと思っていた映画。ネット動画で、途中でCMが入ったり中国語の上に日本語の字幕、画質も音声も粗いという最悪のコンディションながらそれでも十分に楽しめた。主人公のサイボーグ兵士のアリータをはじめ全編が出来のいいCGと実写の合成で、ストーリー展開もなかなかで映画館でもう一度みてもいいかなと。できれば割増でも3Dで、VRなら最高なのだけれも。まだインフルも怖いし花粉症もひどいから映画館に行けないかな。上映中だし、いただきもののシネマギフトカードもあるのに。
元ネタは木城ゆきとの漫画「銃夢(ガンム)」(91年~ 集英社「ビジネスジャンプ」連載)だと。そうか、シナリオに共感できるのはそのせいか。
気になったことがふたつ。まず、主人公のアリータがメダマが大きくてキモい。サイボーグ役ということであえてこうしたらしいが、少女の主人公はやっぱり可愛くなければイケナイ。可愛いくメッチャ強いからいいのだ。同じ動画サイトで「攻殻機動隊 新劇場版」(15年)がアップロードされていたから、「可愛く強い」草薙素子に会いに行こう。
それから、もうひとつ残念だったのが中途半端に終わってしまったこと「おい、おい、これじゃあ終わらないだろう」と危惧していたら案の定、ボスキャラとの対決前で終わってしまったこと。続編も予定されているらしいから、まあいいか。

2019年3月11日月曜日

ロバの耳通信「2008年3月11日火曜日」

「2008年3月11日火曜日」 11年前の普通の日

たまっていた「やりたいこと」をやるために会社をズル休み。
は健康診断。すこし咳が多くなっているため、花粉症の処方箋依頼もかねて病院へ。相変わらずジジ・ババの多い待合室だが、なぜか女性のほうが圧倒的に多い。うーん皆さんおなじみらしく、社交場の感。
午後は、前回の公演では切符が買えずに見損ねた「ドラリオン」(カナダのミュージカル風サーカス)、平日ということで7分の入り。曲芸のほとんどは中国人か。上海雑技団カナダ風の感。音楽は期待通りワタシの好みの洋風中華にお経と中東音楽の味付け。原宿のテントは当然ながら音質・音響効果はまったくダメだったが、それでも十分楽しめた。

マックでは今日午後2時より、コーヒーのフリーサービス中。マックが始めたプレミアムコーヒーのキャンペーン。マックのコーヒーはいわゆる「アメリカン」で、ワタシの好みなので、マックのコーヒーが変わるというテレビコマーシャルを見て、一度試してみたいと思っていた。火曜日のタダコーヒーについても、ポスターなどで知っていたから、念願の火曜日にカミさん連れて、カウンターで「フリーのコーヒーふたつ」。カミさんからは「タダだけもらうなんて、よく平気だね」と白い目。ぜんぜん平気だよ、これくらい。
マックの新しいコーヒーはスタバ風の「濃い」やつ。残念。少しだが、持ち株を売っちゃおうかと本気で。ワタシの好きな「アメリカン」を出してくれるのは、とうとうミスドだけに。アメリカンは薄いコーヒーのように言われているが、本当は「浅炒り」。苦味が少ないので、ミルクや砂糖なしで、楽しめるのが気に入っているのだが、アメリカンを注文すると、ほとんどのところはお湯で薄めたコーヒーが出る。本当に、残念。ちなみに我が家のコーヒーは万世橋の近くのコーヒーショップで特別に浅炒りしてもらったガテマラ(一番安い)。手抜き時のインスタントコーヒーはブレンディーで、ネスカフェはヒトんちに行って出されたときだけ。

遅い夕食にピザの宅配を頼んだ。新聞の折込によく入るチラシにのっていた、「全粒粉のピザ」をずっと狙ってて、「なにもしたくない夕食時」にやっと想いが叶った。

健康診断に花粉症の薬入手にドラリオンにマックのタダコーヒーに全粒粉のピザ、と小市民としては充実した一日。
     *     *     *     *     *

能天気のワタシがこんな絵日記を書いた3年後、東日本大震災が起き約2万人の死者・行方不明者が出て、いまなお多くの人たちが家にも帰れずにいる。
わかったことは、誰かに滅ぼされたソドムの街と違い、悲劇に遭ったほとんどの方々は善良で、日々の暮らしを平凡に生きてきた人たち。もう、誰かにすがるのはやめようと強く思う。
体調を崩すことが多くなった。病に苦しんだり、事故でなくなっている人々のことをテレビや新聞で見るたびに思う、信心や慈愛が足りないためにそうなっているわけではないと。

2019年3月7日木曜日

ロバの耳通信「CHILDHOOD'S END -幼年期の終り-」

「CHILDHOOD'S END -幼年期の終り-」(15年 米テレビドラマ)

ある日突然、宇宙船が現れ人類の争いや犯罪や病気を治し始める。オーバーロードと呼ぶ宇宙人の代表であるカレルレンは、農民のリッキーを人類の代表者に指名し人類の進化を助ける。80分3回のシリーズなのだが、人々に争いや犯罪や病気がなくなって15年目にあたる初回の終わり頃にカレルレンが初めて人々の前に「悪魔ー真っ赤な顔、大きな角、こうもりのような羽根と長いしっぽで」姿を現す。人々はカレルレンを畏れつつも、平和な暮らしを享受する。と、まあこういう物語なのだが、テレビドラマの作りが実にウマい。動画サイトでは40分6回に分けられていても通しで見ることができたからストレスにならなかったけれど、うーん次はどうなるんだとドキドキハラハラしながら見た。

原作はSF作家アーサー・C・クラークの同名の小説らしいが、リッキーが新婚旅行で最初の妻と泊まった、フォーシーズンホテルの部屋<カレルレンによる幻想を見させられた>で亡き妻の思い出に浸りながらも、現在の妻に愛を誓うとか、信仰を失ってゆく人たちとか、カタストロフィーに向かって突き進むいくつかのサブストーリーが実によくできていて、原作も読んでみたいとの強い衝動になった。

カレルレンが繰り返し説く「神は試練を与えるだけで、実際は何の助けにもならない」という無神論の考えに頷きそうになってしまう。

これでもかこれでもかと暴力、犯罪が繰り返される「アメリカン・クライム」(15年~)、ゾンビとの闘いではなく人間同士の争いになってしまった「ウォーキング・デッド」(10年~現在シリーズ9)など、延々と暗い話で視聴率を稼いでいる米テレビドラマにヒトは何を求めているのだろうか。


2019年3月3日日曜日

ロバの耳通信「最低。」「火の魚」

雨の日は邦画が合う。できれば、少し寒いくらいで、出かけるのが億劫になるくらいの雨の午後がいい。今日は「少し」どころか、すごく寒かった。

「最低。」(17年 邦画)
原作は現役のAV女優が書いた同名の小説(17年 紗倉まな 角川文庫)。3人の女性ー売れっ子AV女優(佐々木心音)、平凡な暮らしに耐えきれずAV出演に自分の出口を見出す主婦(森口彩乃)、母親が元AV女優だと知って揺れる女子高生(山田愛奈)の物語が淡々と進む。女優(森口)、グラビア女優(佐々木)、モデル(山田)それぞれにキレイな女性たち。原作がこういうものなのか、脚本が甘いのか、何も伝わってこない。ちょっと悪ぶってもキレイゴトなのだ。オムニバスのアイドルものに気の利いたセリフをつけたり、難しい顔をしてジンセイを語られてもねー、なんだか。やたらと多いAVシーンをナシにしたら、いい映画にできたかも。最低。
AVがエロ映画と言われていた時代。暗くて、淫靡で、悲しくて、隠された世界。だから隙間から覗くだけでもドキドキしていたワタシの時代と違い、彼らが生きているのは明るい世界なのだろう。暗いところから明るいところを見るか、その逆か、せめてどちらかにしてほしい(八つ当たり)。


「火の魚」(09年 邦画)

原田芳雄の作家と尾野真千子の編集者の、まあ恋物語といえるのかな、これも。地方の島に住む偏屈な老作家と彼のもとに原稿をもらいに行く若い編集者が出会うという、なんだかありそうなハナシだから舐めてかかっていたのは、原田芳雄も尾野真千子もあんまり好みじゃないから。もともとはNHKの地方局制作のテレビドラマだというし、舞台が瀬戸内海の小さな島ということで島の風景や素朴な島の暮らしをウリにした映画だと思っていたら、これがとんでもない期待外れ。良いほうに期待外れをなんといえばいいのかわからないが、生と死をシミジミ考えさせられた忘れられない作品となった。原田芳雄も尾野真千子も、自分の気持ちを素直に打ち明けられない不器用なふたり。見直したのは尾野真千子、女優だったのだね、キミは。ただのナマイキ女だと思っていたのに、メッチャいい演技するじゃないか。ガン治療中の毛糸の帽子をかぶって、あの可哀そうな白い顔して上目使いされたら、そりゃ極道原田じゃなくてもまいっちまうわいな。
同名の原作は室生犀星の作家と挿絵画家を題材にした小説。映画は奇を衒うことなく書かれた脚本(渡辺あや)で丁寧に作られていて安心してみていられる。ラストシーンは原田が入院した尾野を見舞った帰りの連絡船の上で、自らと尾野の死を感じながらも”タバコ吸いてえ!”と生への意欲を叫ぶ。まいった。
またいつか、雨の日に、もう一度じっくり見ることにしよう。つまらない映画で時間をムダにすることを思えば、いい映画を何度も見て、何度も感動したいと、思う。