2019年12月16日月曜日

ロバの耳通信「交渉人」「殉狂者」「美ら海、血の海」

「交渉人」(08年 五十嵐貴久 幻冬舎文庫)

五十嵐作品は、出会い系女子にストーキングされる会社員を描いてホラーサスペンス大賞を獲った「リカ」(02年 幻冬舎)以来、久しぶり。「リカ」も追いつめられてゆく切迫感に現実味がありめっちゃ怖かったが、この「交渉人」では終章で意外な犯人が医療錯誤で我が子を失った喪失感と権力への無力感を語ったとき、「確かにこういう目にあったら、殺しでも何でもやっちまうだろうな」と思いっきり犯人に共感してしまった。


タイトルの「交渉人」の通り、ストーリーは交渉人(ネゴシエータ)の警視正とその弟子の女警部の甘酸っぱい物語から始まり、全編が大方を病院に立てこもった犯人と交渉人の緊迫したやり取りに割かれ「映画のように」面白い。たしか、こういう映画も何作か見たぞ。とにかく、やり取りのなかに散見された不自然さが、とんでもないラストの伏線だったと知る。うん、なかなか。弟子の交渉人の卵の女警部が主人公となる「交渉人シリーズ」が何冊かあるらしいので、ちょっと読んでみたい。

「殉狂者」(14年 馳星周 角川文庫)

馳の小説が面白くないと感じ出して気付いた。うん、みんな面白いなんて勝手に思い込んでいただけなのだと。「不夜城」シリーズ(98年~ 角川文庫)、「漂流街」(00年 徳間文庫)、「M」(02年 文春文庫)などなど、ずっと夢中になるほど面白くて、いつのまにか馳の大ファンになっていたから、過度の期待があったのに違いない。「殉狂者」上下巻で1200ページの厚さ。表紙のノアール感。図書館から借り出したときも、いい天気の暖かな冬の日だったからすぐに読まず、早く読みたい気持ちを抑えて落ち着いて読める雨の日を待っていたほど。

スペインでテロリストとなった日本赤軍シンパの父の足跡を追う元柔道スペイン代表の日系人の物語。71年頃の父親の物語と05年頃の息子の物語が同時にスタート、馳らしい冒険談の語り口でストーリーが展開する。読み進める中で、何度も、何度も、そろそろ面白くなる筈と期待したのだが。この不満と不安は結局最後まで燻ぶったままになった。元々は「野生時代」(角川書店)という小説誌に3年半にわたり連載されたものだという。連載モノを舐めて言うわけではないが、ああ、それがこの退屈さの原因だったのかと、ひとりごつ。

「美ら海、血の海」(13年 馳星周 集英社文庫)

戦争体験のあるもの者でなければ戦争小説は書けないのだろうか。14歳の少年の悲惨な沖縄戦体験記に仕立て上げ、題名に沖縄名所の美ら海をつけセリフをつなぎ、丁寧にも東日本大地震の味付けも。読書メーターの評価はいいから、問題があるのはワタシの方か。それにしても、だ。馳星周、結構読んだけどコレは最低。文庫書下ろしだと。うーん、これ以上何も言えない。とにかく、薦めない。


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