2020年3月26日木曜日

ロバの耳通信「犯人に告ぐ」「ニムロッド」「最後の封印」

新型コロナ肺炎の影響で、どこにも出かけられない。季節も良くなったし、小旅行とかも検討していたのだが。映画館も図書館も閉まったまま。古いタブレットで、貯めていた電子本のせいで読む本は事欠かないが、重いし眼も疲れるからフトンに寝転がって読むには辛い。

「犯人に告ぐ」(07年 雫井脩介 双葉文庫)

「犯人に告ぐ」を手に取って、裏表紙の釣りを読んだとき、なんだかデジャビュ感があったのは、映画(07年 豊川悦司が主演)のせいかと思いつつも読み進めていくうちにハッキリ思い出した。
この本読んでいる。前に読んだのはたぶんハードカバー(04年 雫井脩介 双葉社)。確かに本の方が「先」。だから、ミスキャストが目立つばかりの映画のつまらなさに失望したことも思い出した。

2度目となるこの物語、スジも結末もわかっているはずなのに、またまた手に汗握ってしまった。前半のヤマは、誘拐犯を花火大会の横浜で取り逃がすところ。後半のヤマは息子を人質に取られ、刺されてしまうところと部下の刑事がほんのちょっとしたところから犯人を見出すところ。ミステリーながら作り過ぎたトリックとかは一切なく、大藪春彦賞の受賞に納得。刑事ものは大好きでたくさん読んできたが、これは面白かった。著者紹介と作品リストをチェックしたら、雫井の作品をほとんど読んでいないことに気付いた。激しく、後悔。

「ニムロッド」(19年 上田武弘 講談社)

ビットコインの「発掘」を任されるサーバー管理者の主人公、証券会社に勤める恋人、小説家を目指しながらもうつ病に苦しむ同僚、なんだかなつかしさにも似た強い共感。読者の解釈次第だろうが、飛べない飛行機のリスト、バベルの塔、悲しくもないのに片目だけからあふれる涙、主人公をホテルに呼びつけるバツいちの恋人、みんなワタシのお気に入りのサブストーリー。
昔、新しくできたインテリジェントビルのフロア責任者になった時、ほとんどソノ知識のないワタシにはサーバー室は空調が効いて照明を落とした避難場所であり、絶え間ない低周波ノイズが子守歌の昼寝の場所。読みながらそのころの事を思い出していた。
この本の予約を図書館に入れて、長く待ってやっと読めたのに”時流にのってて芥川賞らしい小説”だけれど、つまらなかったと切り捨てたカミさん曰く、ワタシは”感情派”だと。抒情に流されやすいワタシの性格を見抜いているようだ。Amazonのレビューや読書メーターでは散々な評価だったが、ワタシはすっかり気にいってしまって、読み終わったページを戻って、お気に入りのところを心行くまで反芻した。

「最後の封印」(09年 今野敏 徳間文庫)

今野敏は当たり外れが多い、ココではワタシの好き嫌いが別れるという意味なのだが、読み始めは完全に外れ。
レトロウイルスの「進化系」に感染した特殊能力を持つ子供たちーミュウ”なんて、面白い設定なのだが、半分過ぎても、面白くならない。戦闘シーンがはじまって、ちょっとおもしろくなりかけて、いよいよミュウの秘密が明らかにされるかと大いに期待していたのだが、なんだこれは、中途半端な終わり方に欲求不満が残る。改題前の初版「ミュウ・ハンター 最後の封印」が88年だから、もう続編も期待できないのだろうね。そうか、この小説の主人公はミュウ・ハンターだったのか。 


2020年3月20日金曜日

ロバの耳通信「スペンサー・コンフィデンシャル」「マローダーズ 襲撃者」

「スペンサー・コンフィデンシャル」(20年 米)原題:Spenser Confidential

ハードボイルド作家ロバート・B・パーカーのネタ本をパクったエース・アトキンスの小説が原作。ムショ帰りの元警官マーク・ウォールバーグが大家のジジイや同居人と一緒に、自分をハメた汚職刑事や賭博場を仕切るギャングたちと戦う。主人公がボクシングが得意ということで、「リーサルウェポン」並みの殴り合いも見せ場。大型トレーラーによる車のクラッシュなど、見せ場も多い。きわめて個人的感想だが、マークの恋人役の気の強い女役でNetflixで新進気鋭コメディアンのイリザ・シュレシンガーにまいったてしまった。怖い女はイヤだが、強く可愛い女はいいよね。

ロバート・B・パーカーは若い頃からハマった作家で、「スペンサー・シリーズ」(76年~)で、最初に出会ったのが「誘拐」(80年 立風書房)で面白さに虜になり、古本屋に行った際に一番最初に探す作家となった。特に印象深かったのが「約束の地」(MWA賞最優秀長編賞受賞 78年 早川文庫)、「銃撃の森」(81年 以下同)、「失投」(85年)、「晩秋」(92年)など。wikiで数えたら邦訳だけでも全部で70作くらいあった。うーん、半分も読んでいないのか。

「マローダーズ 襲撃者」(16年 米)原題: Marauders

映画に引き込まれるのはどんな時かと考える。まず、テンポか。つまりは、素早いストーリー展開に、おお、次はどうなるのかと思わせるワクワク感の連続。これを増幅させる楽曲が良ければ言うことなしだ。次にキャラクターの際立った仕草や表情、セリフ、これは、ほぼ配役で決まると思う。元となる原作の面白さも重要だが、それを生かすも殺すも脚本と監督。そういう映画を見たいといつも思っていて、出会った!

「マローダーズ」は、銀行強盗のシーンから始まるクライム・ノベルで、4人のメジャー俳優クリストファー・メローニ、ブルース・ウィリス、デイヴ・バウティスタ、エイドリアン・グレニアーを軸にして、それぞれがあたかも主役のように際立っている。銀行強盗が巨悪の暴露のためであったという複雑なプロットのために、中盤までアタマが混乱するし、死んだはずの男が生きていたとか、FBI捜査官がワルのボスだったとかシッチャカメッチャカのところはあったが、所詮「映画はエンターテインメント」と割り切ってしまえば、こんなに面白い映画は久しぶりだった。

クリストファー・メローニはアメリカ暮らしで長く楽しんだHBOのテレビシリーズの常連で顔なじみだし、ブルース・ウィリスが出ている映画ではハズレがないという、私的都市伝説を裏切らなかった。

2020年3月14日土曜日

ロバの耳通信「初恋 FIRST LOVE」「彼女の人生は間違いじゃない」

「初恋 FIRST LOVE」(20年 邦画)

ヤクザとホラーの三池崇史監督の映画で現在公開中。前評判も、観た人の評価も高かったので期待。もっとも、新型コロナ肺炎が流行っているイマ、”大ヒット上映中”の宣伝文句も俄かに信じられないけれど。
期待が大きいと、当たらなかった時の失望感も大きいのだよ、ジッサイ。
原作は三池監督のオリジナルだ(wiki)ということだが、ヤクザ映画の台本の域を出ていない。監督に引っ張られて撮影が進み、脚本も疎かにされたんじゃないかと勝手に想像。近年、漫画の原作の映画が当たっているのは、やっぱり原作のストーリーの完成度が高いせいじゃないかな。監督原作への忖度映画は不毛の証。
主役の窪田正孝が頑張っていたが、3000人のオーディションから選ばれたというヒロイン役の小西桜子が完全にミスキャスト。商業映画としては初出演だというからしょうがない気もするけれど、いくらシャブ中の少女の役だとは言え、乏しい表情やボソボソと聞き取りにくいセリフが辛い。この映画でひとり息を吐いていたのがヤクザの情婦役のベッキー。昔のアイドル風テレビタレントのイメージしかなかったのだけれども、気合の入った演技に脱帽。

「彼女の人生は間違いじゃない」(17年 邦画)

昔ピンク映画、イマ恋愛映画で活躍の映画監督の廣木隆一の同名の原作(17年 河出文庫)を自らが映画化。廣木監督作品では寺島しのぶ主演の「ヴァイブレータ」(03年 邦画)が気に入っていた記憶も。


福島の原発事故を題材にした「fukushima50](20年 邦画)が先週公開され、テレビCMやら特集番組などで紹介されているからぜひ見たいと思っていたが、呼吸器系の持病持ちには冬の映画館は鬼門。さらにいまは新型コロナ肺炎患者急増中ということで、映画館で見ようなんて思いもつかない。動画サイトで見られればと網を張ってはいるものの、新作邦画がアップロードされるにはかなり時間がかかる。やむをえず東北大震災関連映画で逆引きして見つけたのがこの「彼女の人生は間違いじゃない」

市役所に勤めるみゆきは福島の仮設住宅で父とふたり暮らし。父には英会話学校に通うとウソをつき週末には渋谷でデリヘルのアルバイト。毎週末に高速バスで福島と渋谷通うみゆきは何を探して彷徨っているのだろう。
みゆき役の瀧内公美はそこらにいる普通の若いコ。監督の趣味なのだろうか、ハダカのシーンが多くて気になった。キレイな胸だったが、必然性のないハダカシーンは悪趣味だ。

2020年3月13日金曜日

ロバの耳通信「スナーク狩り」「ワイルド・ソウル」

「スナーク狩り」(11年 宮部みゆき 光文社文庫)

宮部みゆきというだけで「火車」「理由」とか「模倣犯」とか本の名前はすぐに思いつくのだが、どういうスジだったのかも思い出せない。テレビドラマや映画も見た記憶があるのだが。今回「スナーク狩り」を読んで、もしかしたらと思ったことがある。ワタシは本も映画も思い入れが強くて、気に入ったら何度も読んだり、見たりして感動を反芻する習慣があるのだが、そこまで記憶が抜けているとすれば宮部みゆきがワタシの「お気に入り」じゃなかったということか。
「スナーク狩り」はストーリーテラーとしての宮部の力量を感じさせる作品だとは思う。ただ、金持ち女が元婚約者の結婚式に猟銃を持って乗り込み、腹いせに自殺を図ろうとするなんて。しかも自殺の方法が二段式猟銃に鉛を詰めて自分を吹き飛ばすことを計画していたとか、作り過ぎだって。多彩な登場人物がステレオタイプに過ぎていて、それも作り過ぎ。どこかで使いたかったらしい「スナーク狩り」(ルイス・キャロル)の警句、火の出る釣り具、猟銃、何という病気だったか言葉を失う病気、ナントカという型式のベンツ、公衆電話がない特急などなど、宮部が作品のために仕入れたか貯めていた話のタネ。積み込みすぎだって。本作が宮部みゆきの代表作ではなさそうなので、こういう言い方もどうかとも思うが、もう沢山。

「ワイルド・ソウル」(06年 垣根涼介 幻冬舎文庫)

まいったなー、だから本はやめられない。眼は疲れるし、猫背の背中にもこたえるからちょっと減らそうと思うのだが面白い本があるとね、なかなか。たまたま手に取ったこの本、大好きな幻冬舎の本で”史上初の3賞ー大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞”だという裏表紙のツリに惹かれて読み始めたら、止まらなくなってまた夜更かし。面白い本に当たってしまうと生活のリズムが乱れてしまってしょうがない。

日本政府の甘言に乗せられてアマゾンの奥地で朽ち果てたブラジル移民の子孫たちが、政府にテロで復讐するというスジ。プロットは単純だが、ディテールへのこだわりが凄いぞ垣根は。上下巻1000ページ弱の長編を、最初ユックリ(辛苦の移民生活を淡々と描いているのでダラダラでは決してない)、スケールの大きさといい、物語の展開といい、中盤のトップから一気に駆け降りるジェットコースターのよう、しかも超高速の。気が付くと手に汗かいて、すこしコミカルのラストでため息つかせる、なんだこの作家の力量は。探してでも次作を読みたい垣根涼介。

2020年3月7日土曜日

ロバの耳通信「TAU/タウ」「ブエノスアイレス」

「TAU/タウ」(18年 米)

私がゲイリー・オールドマンのファンで、IMDb(インターネット・ムービー・データベース)で検索して動画サイトで見つけた映画。配役を再チェックしたらオールドマンは人工知能TAUの声だけの出演。B級くさいけどまあいいかと見始めたら、これが意外に面白かった。
研究者アレックスは自ら設計した人工知能TAUの完成度をあげるためにたくさんの人をさらってきては監禁し、体内にインプラントを埋めては験材料にしていたが、最後に誘拐してきた実験材料ジュリアが抵抗。ジュリアはTAUを手なずけ脱出を試みる。ここではジュリアが主人公なのだが、馴染みのない女優なのでパス。研究者アレックス役エド・スクラインがよくキレる(アタマがいいのではなく、キチガイの方)オタク研究者にピッタリ。エド・スクラインは、B級だが「トランスポーター イグニション」(15年 米、あのジェイソン・ステイサム主演の映画シリーズ「トランスポーター」(02年 仏米)のリブート作品)では一応主役を張っていてよく知っているつもりでいたが、オタク役を良くこなしていた。最も、冷たい顔のイケメンがフチなしメガネをかけてキレまくっていればこういう役は存外だれでもできるのかも。ジュリアンがTAUを言いくるめ味方につけるため、TAUの知識欲を刺激するところなんか結構面白かった。ちなみに配給は、いま飛ぶ鳥も落とす米動画配信のNETFLIX。役者は最低人数、ロボットはちゃっちいし、TAUもこれもちゃちいCGでお金かかってないのアリアリなのだが、まあ面白ければいいからね。最近NETFLIX 結構ファン。

「ブエノスアイレス」(97年 香港)

のっけっからがレスリー・チャンとトニー・レオンの裸の絡み、それも気恥ずかしくなるくらい濃厚なやつ。レスリー・チャンとトニー・レオンの検索で出てきた映画がコレ。しかもGyaoで見られるなんて。世の中はなんて自由になったんだ、と思っていたら97年公開。20年前じゃないか、しかも香港。当時の香港はそんなにリベラルな国だったのか。ストーリーは予想通り、嫉妬と追憶の繰り返しのなんとも〇の腐ったような映画<あくまでも個人の感想、念の為>。ふたりともアクション映画で見慣れているから、違和感といったら半端ない。脚本もいいし、イグアスの滝などの映像もキレイ。挿入歌のククルクク・パロマ(歌カエターノ・ヴェローゾ)や、タンゴが最高なんだが、キモイこのテはもういい。体調のすぐれないときに見て、余計に悪くなった。


2020年3月4日水曜日

ロバの耳通信「Voyage of Time」「山猫は眠らない7 狙撃手の血統」

「Voyage of Time」(16年 米)

ドキュメンタリー映画。監督・脚本テレンス・マリック、ナレータがブラッド・ピット、ケイト・ブランシェットで話題になっていて公開時に見逃していたのが、ひょっこり動画サイトで出てきたので見た。宇宙の誕生と死がテーマだということだったが、脈絡もなにもないナレーション、吹替版だったので棒読みの中谷美紀ナレーションにも閉口。女子アナウンサーならよかったのにと、見ていた映像もすぐに飽きてしまった。

同様の大作ドキュメンタリー映画ではずいぶん前のことだが、カミさんと映画館で見た「Earth」(06年 英独)<NHKでも放送された「Planet Earth」の映画版>が、大画面と大音響で迫力はあったものの、ふたりとも映画の途中で居眠りしてしまった経験もあって、ニガテ意識もあったのだが、テレンス・マリックの監督・脚本の「シン・レッド・ライン」(98年 米)、「ツリー・オブ・ライフ」(11年 米)などでいい作品にめぐりあえていたから、この「Voyage of Time」「もしかしたら」と期待。で、失敗。こういう映画、動画サイトで見る映画ではないとわかってはいるが、パソコンの小さな画面でもいい作品にめぐり合えば感動はあるのだが。ああ、ナレータがブラッド・ピット、ケイト・ブランシェットで話題になって・・とは、ソレしかウリがなかったのかと。
こういうドキュメンタリー映画を見ると、普段よく見ているNスぺ(「NHKスペシャル」)の質の高さがわかる気がする。

「山猫は眠らない7 狙撃手の血統」(17年 米)

「山猫は眠らない」シリーズ(92年~)はトム・ベレンジャー演じる海兵隊スナイパーのトーマス・ベケットが活躍するアクション映画。シリーズ4作ではペケットの息子ブランドン・ベケット役でほとんど無名の新人チャド・コリンズが主演したが、このシリーズはトム・ベレンジャーのアクの強さが魅力で支えてきたこともあり、なか弛み感。シリーズ5作以降トム・ベレンジャーとチャド・コリンズで親子スナイパーを演じている。シリーズ7作の「山猫は眠らない7 狙撃手の血統」Sniper: Ultimate Killでは、舞台をコロンビアのボコタに移し、麻薬カルテルに雇われたスナイパーと相対。テキの使っている狙撃銃が凄い。弾道ミサイル銃弾を使い、一旦ロックするとターゲットが動いても追いかけてゆくという優れモノ、というか想像の産物だとしてもなーと。まあ、ベケット(息子)の狙撃銃のタマもターゲットの近くで爆発するという遅延弾。うーん、将来はそんな狙撃銃ができるのかな。無反動ロケットランチャーではソレに近いものが実戦で使われているというから、案外近いものが実用化されているのかも。
ATFかCIAの上級コンサルタント?で息子に助言する役で出演していたトム・ベレンジャーの太り様は驚いた。もうすぐ70歳だと。フレデリック・フォーサイス原作の「戦争の犬たち」(80年 米)、「プラトーン」(86年 米)以来のふてぶてしさはいまも変わらないけど、このキャラ好きだね。