2020年6月22日月曜日

ロバの耳通信「トゥエルブY.O.」

「トゥエルブY.O.」(01年 福井晴敏 講談社文庫)

寝る前に読んでいて一旦閉じたが、夜中に目が覚めどうしても続きが読みたくなり、朝まで読んでしまった。こんな事はずいぶんなかった気がする。
事故を起こした自衛隊のヘリ操縦士の物語。彼を助け出した自衛隊員は「12」(トゥエルブ)という名のテロリスト。「12」の武器は自己増殖型コンピュータウイルス「アポートシスⅡ」と秘密兵器「ウルマ」「12」は日米政府を秘密文書「BB」を盾に米海兵隊の沖縄からの撤収を実現したが、さらなる企みがあった。
後半から本格化した戦闘場面からは怒涛の展開で、息もつけない。米国の戦後対日活動の真意、国政のふがいなさ、自衛隊の中途半端な地位についての福井の強い主張に辟易しつつも、繰り返し畳みかけられる論理展開に共感し、洗脳されそうになっている自分に気付く。少人数によるテロ活動やら自衛隊シーホークと米攻撃ヘリアパッチの攻防など出来すぎの感もあるが、グングン引き込まれてしまって、読み終わった時には大きな息をついた。乱歩賞を受けた作品だという。この物語の前節ストーリーともなる「川の深さは」(03年 講談社文庫)では地下鉄テロ事件を題材にした元警官と少年の物語で、生きる意味を考えさせ、強い共感を憶える作品である。

「トゥエルブY.O.」の続編とも言える「亡国のイージス」(02年 講談社文庫)では手に取った上下で約500ページの厚さに恐れをなし、同名の映画(05年)が先になった。海上自衛隊のイージスシステム搭載ミサイル護衛艦「いそかぜ」がテロリストに乗っ取られ日本政府を脅すというスジは既視感があったが、真田広之、中井貴一、寺尾聰、佐藤浩市ほかのこれ以上考えられない配役と、福井得意の防衛庁情報局「DAIS」、化学兵器「GUSOH」、爆薬「テルミット・プラス」で、エンターテインメント性の高いものとなった。

福井の代表作「終戦のローレライ」(05年 講談社文庫)も未読である。文庫本で4冊あるらしい。「川の深さは」「トゥエルブY.O.」と読んできてわかったことは、読むのにエネルギーがいること。福井の想いが込められている分、サラっと読み流すことはできないのだ。映画化された「ローレライ」(05年)も見逃している。役所広司が太平洋戦争末期の潜水艦の艦長役だという。
読みたい本、見たい映画がまた増えている。福井の作品は漫画も多く、若者からの評判も良かったようだ。良かったようだと過去形で書かざるを得ないのは福井の本を読み始めたのがこの半年だから約20年前のタイムカプセルを掘り返しているようなものだから。相変わらず米国の顔をうかがってばかりの日本政府や、災害支援であんなに頑張っているのに不遇をかこっている自衛隊の皆さんのことを思うと、いつも「悔しさ」を書いてきた福井の本を早く読まねばと、焦る。

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