2020年7月11日土曜日

ロバの耳通信「5」「居酒屋兆治」

「5」(10年 佐藤正午 角川文庫)

どうでもいいことだろうが「5」には「ご」とフリガナがついていて、あとがきもなかった。作家の津田伸一と女友達たちの物語なのだが、実にイライラする男。辟易するほど嫌らしい男。気に入らないのは無責任、気分屋、浮気者、お調子者などイヤな形容詞がどれもあてはまるこの男が実にモテること。こう主人公を辟易するほど嫌らしいと感じさせるのも佐藤の筆力か。尤も、出てくる女性たちも皆オカシイのばかりなのだが。

導入部がSFっぽく、新婚時代をとっくに過ぎダレてしまった夫婦が貰い物のバリ旅行に行き、夫が空港でたまたま一緒になった手のモデルの女と手と手を合わせることで、女の超能力が夫に移り・・と、結構フクザツで長い前段、ここで説明するのもばかばかしい物語があり、それに佐藤の巧みな語りで知らないうちにハマってしまう。それからあれよあれよという間に、津田伸一のモテ話につきあわされることになるのだが、前述のオカシな女たちが次々に現れては、消えでやっぱり途中で放り出すことができなくなったのは、一生モテることのなかったワタシのモテ男津田へのジェラシーのせいか、うん、カンタンにいえば羨ましかったのだ。だから、ラストで津田がすべての女性たちに捨てられ、思いっきり不幸になってほしかったのだが、佐藤はそうはしなかった。

同じ佐藤の「鳩の撃退法」(18年 小学館文庫)の主人公も作家の津田伸一で、書評はずっと「鳩」のほうがいいらしいから、こっちも読んでみたい。

「居酒屋兆治」(86年 山口瞳 新潮文庫)

有名な作家らしいが、初めて読んだ。いや週刊新潮のコラムで著者の名前は憶えていたのだが、本としては初めて。高倉健主演の同名の映画(83年 邦画)もボンヤリ覚えていたのだが。キャバレーの女が幼なじみの居酒屋の主人に想いを寄せるというのが本スジで、同級生やら元の職場のの同僚とかが居酒屋に出入りし、サブストーリーが語られるのだが、ハナシがアッチに行ったり、コッチに行ったりで落ち着かない。客の殆んどが(大嫌いな)酔っ払いだし、突っかかるような話し方も気に入らない。著者の山口はサントリーの宣伝部でコピーなんかも書いていたというから、酔っ払いの話に馴れているのだろうが、酔っ払いに散々なメに遭ってきた下戸のワタシには全然面白くない。

映画の方も、不幸な女「さよ」が大原麗子、高倉健の妻「茂子」役が加藤登紀子だったとか配役のかなりを憶えている割に内容をおもいだせないのは、いい思い出のない居酒屋とか酔っ払いがキライという同じ理由か。

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