2020年7月6日月曜日

ロバの耳通信「どこかのホテルのロビー」「きいろいゾウ」

 「どこかのホテルのロビー」

<夢の中では、いまの妻ー彼女はずっと前に会っただけ。スナップ写真ももらったけれど時間がたってるから今日、会ってはっきり彼女と認識できるかかなり不安。電話で何度か話をしているから声はわかるつもり。こうしてホテルのロビーでドキドキしながら待っている。>

ロビーの椅子に座っている私の横に女物のコートがたたんで置かれた。赤っぽいコートで、グレーの裏地が見えた。彼女とは違うような気がして、コートを置いた女を見上げると、彼女よりずっと年上のようだ。再びコートに目を落とし、彼女には似合わないそんな気がして、またエントランスに目を凝らす。
毛足の長い、うす茶色のカーペットの模様。左手は雨の降る通り。なかなか来ない彼女。
今日は、ここで待ち合わせて、どこかに行くんだったっけ。映画とかじゃなく、温泉とかそういうところへ一緒にお泊りに行くんじゃなかったっけ。旅館の予約とかした覚えもない。揃いの浴衣で料理をつつくという想像はさっきまで見ていた旅番組の影響かも。
不純な期待感と、具体的なことは何も思い出せない不安感に目が覚めた。
photo: Pexels

「きいろいゾウ」(12年 邦画)

涙もろくなったのはトシのせいか、とにかく泣けた。鼻水垂らしながら見た。田舎に住む若い夫婦のツマ(宮崎あおい)とムコ(向井理)のラブストーリー。美しい砂浜も緑豊かな風景もある古民家。そんな田舎暮らしにあこがれたりもするが、この映画のオチは誰もが抱えている”傷”。当たり前だが、楽しい田舎暮らしをしているだけの夫婦の物語なんて原作の西加奈子は書かない、たぶん。

同名の原作は読んでいないから勝手な感想を書くが、ぶっ飛んでいて難解な西加奈子の原作を<たぶん>超えている優しさが映画から伝わってきた。浸っているうちに哀しい過去を突然突き付けられても、うろたえずにまた優しさに戻ることができたのは、これ以上はないのじゃないかと思うキャスティングのせいか。ボケ始めた老女(松原智恵子)も、町から来た男の子に想いを寄せる小学生(浅見姫香)も、声だけの出演だが、蘇鉄(大杉漣)、野良犬(安藤さくら)、ヤギ(柄本佑)、蜘蛛(高良健吾)らの個性派たちが目立たずに語りかける。

脚本も音楽もいい。伊勢の田舎で撮影されたという風景は癒されるし、ツマとムコの食事シーンやムコとの気持ちのすれ違いから、寂しくなったツマが庭の蘇鉄の樹や蜘蛛やヤギやイヌと話をするところがいい。カメラの長回し映像が、こんなにココロに伝わるのだと忘れてしまっていた。やっぱり、いい映画はいい。

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