2020年9月29日火曜日

ロバの耳通信「セブン・シスターズ」「群盗」

「セブン・シスターズ」(17年 英・米・仏・ベルギー)原題: What Happened to Monday

近未来のヨーロッパ。人口過剰で資源を支えられなくなった国家はひとりっ子政策を実行。余剰の子供たちは捕らえられ資源問題が解決する未来まで冷凍保存。そんな時に緒まれた7つ子の姉妹は父親(ウイリアム・デフォー)にサンデイ、マンデイなど曜日のついた名前を与えられ、ひとりっ子として育てられる。一週間に一日だけの人生を暮らす彼ら。ある月曜日、マンディが帰らなかった。マンデイに何が起きたのかという原題はここから。
主人公(たち)を1人7役で演じたのがスウェーデン女優ノオミ・ラパス(「ミレニアム」シリーズでリスベット・サランデル役、ほか以降大ブレイク)。不思議な魅力を持つ女優が、冷たい30女たちを演じるSFミステリー。見ごたえのある作品だった。唯一残念だったのが、1人で7役やったため、多少のメーキャップや衣装変えとかで誰が誰かの区別もつかず、途中で死んだのが誰で、脅されて当局に力を貸したのが誰とか、めっちゃ混乱してしまったことか。まあ、そんなことがどうでもいいくらい、全編ひとりで頑張った個性派ノオミ・ラパスが格好良くて面白かった。

「群盗」(14年 韓国)原題:군도: 민란의 시대

原題は「混乱の時代」の意。朝鮮王朝末期の腐敗した役人に対抗する義賊たちを主人公に「黄金の7人」風に描いている。
印象深かったのは、イケメンの武芸の達人(カン・ドンウォン)の哀しい美しさと強さ。ワタシにそのケはないが、うなるほどのイケメン。人生の不平等を感じるほど。素顔はそうでもないようだが、この映画のメーキャップはすごい。<ポスター左から3人目>
領主の庶子(妓生の間にできた非嫡出子)として生まれたため、嫡出子との差別を受け続け哀しみのなかで武道にいきるしかなかったという設定。だから、冷たく、美しく、強い。
民衆を助ける義賊役のハ・ジョンウやマ・ドンソクほかのメジャー俳優を完全に食って、その仇役がこの映画の主人公になっている。勧善懲悪のスジだから、武術の力の差もなんのその、悪徳領主の庶子は義賊に殺されてしまう。納得できた終わり方ではなかったかな。

2020年9月20日日曜日

ロバの耳通信「クラウド アトラス」「スノーピアサー」

「クラウド アトラス」(12年 米、独ほか)

3人の著名監督が6つの物語をグランドホテル方式と呼ぶらしい舞台のような群集劇を展開。トム・ハンクスやヒューゴ・ウィーヴィングほか名だたる配役をマルチキャストで、なにより中国の周迅(ジョウ・シュン)(「小さな中国のお針子」(01年 中、仏))、韓国のペ・ドゥナ「頑張れ! グムスン」(04年 韓)<ポスター中央のコ)が出ているということで期待していたが、19世紀から未来までの支離滅裂なストーリー展開、しかも6つの時代を往き来するコマギレのシーンにアタマが付いていけず。

それでも最後までなんとか見れたのは、後半のスピード感と「R」指定シーンの連続、「文明崩壊」という結末を見たいという怖いもの見たさか。同名の原作(日本びいきのデイヴィッド・ミッチェル、そのせいかこの映画のセリフには箴言や哲学的な言い回しにあふれていた)を読んでから、また映画に戻りたいが、こういう凝った映画は、何度も見ると感動がぐっと薄れるのではと。いずれにせよ、原作ネタも俳優も良いのだから、総監督を決めて、時間通りに並べた6つのオムニバスにしてほしかった。欲にはキリがないか、良い映画だった。

こっちもSF。「スノーピアサー」(13年 韓米)

原作はフランスの漫画作家のグラフィック・ノベルだという。クリス・エバンス、ソン・ガンホ、ジョン・ハート他錚々たる名優が個性豊かに、凍ってしまった地球を永久機関によって動き続ける列車「スノーピアサー」のなかで、自己主張するさまは、セリフを発声するごとにスポットライトで照らされる舞台劇のよう。列車内の階級闘争やらエゴのぶつかり合いやら、それが、まさに次から次に起きるから目を離すことも、詰めた息を吐くこともできない。この列車は何処に行くのだろうか、この物語はどうなるだろうかという気持ちの盛り上がりは名監督ポン・ジュノ(「グエムルー漢江の怪物」(06年 韓))の力だろう。韓国映画、韓国監督おそるべし。

2020年9月17日木曜日

ロバの耳通信「サリュート7」「エベレスト 3D」

「サリュート7」(18年 ロシア)原題:Салют-7

実話の映画化だと。85年に消息を絶ったロシアの宇宙ステーションーサリュート7がこのままでは地球に落下してしまうか、アメリカに乗っ取られて技術を盗まれてしまうのではないかとロシアの偉い人たちが心配。で、このサリュート7に別の宇宙船をドッキングして修理するーというストーリー。

次々起きるトラブルに立ち向かうふたりの宇宙飛行士のストーリーはトム・ハンクスとケビン・ベーコン主演の「アポロ13」(95年 米)にゼンゼン負けてない。こういう映画によくある作り物のチャチさはなく、宇宙船内部、船外の作り込みがすごい。無重力の宇宙船内に浮かぶ水の描き方がリアル、というかホンモノがどうなのかも知らないのだがよくできていて感心。宇宙船から見る地球の映像の美しさも圧巻。
宇宙船の乗組員やほかのスタッフと問題解決に向け右往左往している地上管制センターの責任者のところに突然現れた軍人のような偉い人が、失敗したらキミの責任だと脅すシーンにこれがロシアかと。あまり見る機会のないロシア映画だが、結構やるじゃないか。

「エベレスト 3D」(15年 米・英合作)原題: Everest

96年にエベレストで実際に起きたニュージーランドの登山ガイド会社主催のエベレスト登山ツアー隊に起きた大量遭難事故の顛末。法外な参加料金で客を集め、プロ・アマの登山家でエベレスト登頂を目指すも経験未熟な参加者の事情に振り回され結局遭難、12名が死亡。

ストーリーの深刻さもあるが、ジェイソン・クラーク(「ナチス第三の男」(17年))、ジョシュ・ブローリン(「ボーダーライン」シリーズ(15年~))、エミリー・ワトソン、 ジェイク・ジレンホールなど多くの著名な配役で重みのある映画になっている。悲劇の結末はわかっていても、特に後半はハラハラドキドキで、冒険映画としての出来もいい。

映画の初めの方のシーンで、ツアーにアウトドアジャーナリストであるジョン・クラカワーが参加することになっていて、嫌われ者ジャーナリストの扱い。ジョンのファンとしては引っかかったまま。ジョンはこのツアー遭難事故の体験をもとに「空へ ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか」(00年 文春文庫)を書き、ワタシの中では「荒野へ」(07年 集英社文庫)とともに最も好きなジョン・クラカワー代表作となっている。 

2020年9月13日日曜日

ロバの耳通信「流転の海 第9部 野の春」「サーカスナイト」「バナタイム」

「流転の海 第9部 野の春」(18年 宮本輝 新潮社)

「流転の海 第1部 流転の海」を読み始めたのが1年くらい前か。図書館で予約を申し込み、一冊づつ読んで行くなんて悠長なことは若い頃なら及びもつかなかったこと。宮本輝が自分の父親の宮本熊市(本の中では松坂熊吾)の生涯を描いた「流転の海」を第9部で終わらせると言いながらなかなか出版されなかったこともあったから、出版を心待ちにしながらもこれで終わるということがいかにも惜しく感じていた。何十人かの予約待ちのあとに、図書館から準備ができたとの通知が来た時、ついに来たかと。
父親の最後を描いているせいだろうが、9部のなかでは最も、父親への慈愛にあふれ、同時にひとり息子伸仁(宮本輝)、妻房江への想い、特に伸仁への愛情にあふれた作品だった。宮本輝がこの第9部をライフワークのシメとしていたことがよくわかる。

ワタシのあとにカミさんも読むことになっているから、2週間の図書館の期限まで残された時間は少ないが、静かな雨の夜にもう一度この第9部を読むことにしよう。ここまで染み入る本にはもう会えないかも知れないから。

「サーカスナイト」(17年 よしもとばなな 幻冬舎文庫)

ばななの描く「死」に共感を憶えるのはなぜだろう。うらやましいと悲しいを交互に感じた。ばななの小説には性悪とか意地悪とかは出てこない。安心と悲しみがある。よしもとが叶えられなかった夢、結婚すること、未亡人になること、女の子の母親になることへのあこがれもあった。家族について悩んだとき、他人との距離の取り方について考えたいときにキキメのある本だと思う。手許において、何度も読みたい。


「バナタイム」(06年 よしもとばなな 幻冬舎文庫)

商業雑誌の連載エッセイの文庫化だと。ばななもつまらない文を書いたものだ、幻冬舎もつまらない本を出したものだ。幻滅。唯一、気に入ったのが原マスミの表紙、挿絵。なぜかと聞かれても答えようがないが、ばなな(気に入ってるほうのよしもとばなな)に似合っている。

2020年9月8日火曜日

ロバの耳通信「アウトブレイク ―感染拡大―」

「アウトブレイク ―感染拡大―」(20年 カナダ TVドラマ」原題:Epidemie/英題:Outbreak

20年1月のカナダでの初放映以来驚異の視聴率で社会現象となった全10話のテレビドラマ。日本国内でもあちこちの動画サイトで見ることができるようになり、アップロードを心待ちにして見た。とにかく怖かった。
ブリーダーからペット販売店フェレット(最初は発生源などもちろん分からない)から突如として流行し始め蔓延してしまった、治療法も予防薬もない新型コロナウイルス(CoVA)との闘いを、緊急衛生研究所の所長アンヌ=マリー・ルクレール博士(ジュリー・ルブレトン)を主人公にを描いている。初期症状がだるさや発熱、咳で唯一の予防手段がマスクと手洗いしかないということなどは、いま流行りのCoVID-19にそっくり。マスクや治験中の治療薬の横流しや、院内感染、人種差別などをいっぱいに詰め込んだドラマだが、コロナ蔓延の現実世界との共通点が多く”追体験”にも似たリアル感にゾッとしてしまった。
発症から約3カ月の第10話で終結宣言。シーズン2の製作が決まったようだから、まだまだ終わらないのだろう。

同名の「アウトブレイク」(95年 米)の時は、エボラなどは別の世界の出来事たと思ってたから、本気で怖がることなんか、なかったのに。

2020年9月5日土曜日

ロバの耳通信「TENET テネット」「ナチス第三の男」

「TENET テネット」(20年 米英合作)原題は:Tenet

監督・製作・脚本がクリストファー・ノーランで、雑誌やネットでも面白いゾと前評判も良かった。予告編もいくつかチェックして、期待満々で見た、のに、である。

Tenetの意味は、上から読んでも下から読んでもの”回文”。早い話が”時間のルール”を解き明かすことで(という映画の説明も実のところ良く分かっていないのだが)、自らが膵臓ガンで余命がないと知ったロシアンマフィアのボスのヤケクソ自爆でもある第三次世界大戦を止めるというスジ。
時間を戻ったり、進めたりの思わせぶりのシーンが延々と進むから、ストーリー展開について行けない。アクション満載に音楽もイカしているから見所は多いものの、こちらの頭、つまり理解力を超えているから映画の中に入り込めない。2時間半の長編は、解説や予告編を見たくらいでは普通に映画を楽しむことさえ何ともならない腹立たしさ、と同時に、難しくて全くついて行けない授業を受けている感。いまさらながら、自らの頭の悪さが悔しい。

なによりワタシの気に入らなかったのが主役のジョン・デイビット・ワシントン。ガタイは良いのに、動きにキレがなく、ヒゲボウボウの顔に表情はない。ワキ役は芸達者を揃えているのに主役だけが浮いている。”あの”デンゼル・ワシントンの息子だと。親の七光りのシロウトが主役で出て、映画を台無しにしてしまっている。
もうすぐ日本公開で3D上映もあるらしい。映画館なら大画面とドルビー音響は楽しめるだろうし、前評判も良いからソコソコ観客も入るだろうが、何度も見たくなる映画じゃない。コロナが怖くても映画館に行くノーランファンを裏切ってはイケナイ。

「ナチス第三の男」(17年 仏・英・ベルギー合作)原題:The Man with the Iron Heart

第二次世界大戦中に冷徹さで”金髪の野獣”と恐れられたナチス親衛隊ナンバー2で、チェコで暗殺されたラインハルト・ハイドリヒの伝記映画。出演はオーストラリア俳優のジェイソン・クラーク。軍服をビシっと決めた碧眼のジェイソンが実にドイツ将校が似合っている。「ターミネーター:新起動/ジェニシス」(15年)ではジョン・コナーを演じ、イイモノ役だったが、ジェイソン・クラークは、こういう怖い役が似合う。大柄、強面の表情と刺すような眼は、いままで見たどの映画の中のナチス親衛隊の将校よりもソレらしく恐ろしかった。
映画後半は彼を暗殺したチェコのレジスタンスの男たちの物語に。映画の主題を途中で変えるのは違反だ。ラストまで見たために、素晴らしい伝記映画がすっかりピンボケになってしまった。残念。

2020年9月3日木曜日

ロバの耳通信「山猫は眠らない8 暗殺者の終幕」「ピッチブラック」

「山猫は眠らない8 暗殺者の終幕」(20年 米)原題:Sniper: Assassin's End

「山猫は眠らない」シリーズ(92年~)はアメリカ海兵隊狙撃手トーマス・ベケット上級特務曹長(トム・べレンジャー)を主人公としたシリーズ作で、「山猫は眠らない4 復活の銃弾」(11年)からは息子のブランドン・ベケット(チャド・マイケル・コリンズ)が主演。ただ、やっぱりこのシリーズはトム・べレンジャー抜きでは面白くないということで以降は主役はチャド・マイケル・コリンズ、大事なシーンでトム・べレンジャーがチョイ出のパターン。
スナイパーが主役のこのシリーズ。「山猫は眠らない8 暗殺者の終幕」では”何と”元AKB48の秋元才加がナゾの日本人凄腕スナイパーに扮し準主役。英語はうまいが、普通のオネーチャン風のオカロちゃんが、どういうつながりでこういう映画にでることになったのだろうか。

このシリーズ、だいたいストーリーはいい加減で、結局最後はワルを一網打尽にするハッピーエンドだからスジなんてどうでもいいが、狙撃シーンは迫力がある。今回も、もはやデブッチョおじさんと化した今年71歳のトム・べレンジャーが大活躍。面白かったけど、もうそろそろオシマイかなと、残念。

「ピッチブラック」(00年 米)原題:Pitch Black/The Chronicles of Riddick

凶悪犯(ヴィン・ディーゼル)を護送する途中の宇宙船がどこかの星に不時着し、エイリアンに襲われるという他愛もない物語なのだが、際立った個性の配役や良くできたセットのせいでVFX全盛の今見ても違和感もなく、スピード感たっぷりのいい作品。個人的な好みだが、助演のオーストラリア女優ラダ・ミッチェル(「サイレントヒル」(06年 カナダ・フランス他)で娘を探す主人公ローズ・ダ・シルバ役で好演)がこの作品でも”いつもの不安顔”で良かった。

「ピッチブラック」はヴィン・ディーゼルのデビュー作でこれ以降「ワイルド・スピード」(01年~)がシリーズ作品として発表され、「ピッチブラック」の主人公であるリディックの名前を題名にした「リディック」(04年)シリーズ、「トリプルX」(02年)シリーズ、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(14年)シリーズ、「アベンジャーズ」(18年)シリーズに出演したのだが、シリーズ作品の常としてマンネリ感から脱することができていないというのが、ワタシの感想。いい役者なのに。