2020年9月13日日曜日

ロバの耳通信「流転の海 第9部 野の春」「サーカスナイト」「バナタイム」

「流転の海 第9部 野の春」(18年 宮本輝 新潮社)

「流転の海 第1部 流転の海」を読み始めたのが1年くらい前か。図書館で予約を申し込み、一冊づつ読んで行くなんて悠長なことは若い頃なら及びもつかなかったこと。宮本輝が自分の父親の宮本熊市(本の中では松坂熊吾)の生涯を描いた「流転の海」を第9部で終わらせると言いながらなかなか出版されなかったこともあったから、出版を心待ちにしながらもこれで終わるということがいかにも惜しく感じていた。何十人かの予約待ちのあとに、図書館から準備ができたとの通知が来た時、ついに来たかと。
父親の最後を描いているせいだろうが、9部のなかでは最も、父親への慈愛にあふれ、同時にひとり息子伸仁(宮本輝)、妻房江への想い、特に伸仁への愛情にあふれた作品だった。宮本輝がこの第9部をライフワークのシメとしていたことがよくわかる。

ワタシのあとにカミさんも読むことになっているから、2週間の図書館の期限まで残された時間は少ないが、静かな雨の夜にもう一度この第9部を読むことにしよう。ここまで染み入る本にはもう会えないかも知れないから。

「サーカスナイト」(17年 よしもとばなな 幻冬舎文庫)

ばななの描く「死」に共感を憶えるのはなぜだろう。うらやましいと悲しいを交互に感じた。ばななの小説には性悪とか意地悪とかは出てこない。安心と悲しみがある。よしもとが叶えられなかった夢、結婚すること、未亡人になること、女の子の母親になることへのあこがれもあった。家族について悩んだとき、他人との距離の取り方について考えたいときにキキメのある本だと思う。手許において、何度も読みたい。


「バナタイム」(06年 よしもとばなな 幻冬舎文庫)

商業雑誌の連載エッセイの文庫化だと。ばななもつまらない文を書いたものだ、幻冬舎もつまらない本を出したものだ。幻滅。唯一、気に入ったのが原マスミの表紙、挿絵。なぜかと聞かれても答えようがないが、ばなな(気に入ってるほうのよしもとばなな)に似合っている。

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