2020年10月23日金曜日

ロバの耳通信「氷平線」

「氷平線」(12年 桜木紫乃 文春文庫)

桜木のデビュー作だという「氷平線」に出てくるのは、子種のために酪農家に買われてきたフィリピン女性(「雪虫」)、人生を和裁を極めることに捧げた中年女性(「霧繭」)、世継ぎを生めないことで姑にいじめられる娘を連れて家を出る酪農家の嫁(「夏の稜線」)、幼なじみとの幸せな暮らしを夢見た娼婦(「氷平線」)など不幸な女性たちばかりだ。いや皆、辛い思いをしてもそれぞれにもう一歩を踏み出そうとするから、救いのようなものもあるのかもしれない。女は強いと思うし、男はその強さを畏れ、また憧れるのだ。桜木から逃れることができない気がする。

桜木を初めて知ったのが「無垢の領域」(13年 新潮社)。次がホテルローヤル 」(15年 集英社文庫)あまりの暗さに辟易としながらも、それでも共感してしまった。若い頃からネクラのガリベン野郎だったワタシは明るいキャピキャピの女のコより、どちらかというと静かな、というかネクラの女のコのほうにずっと惹かれた。暗いモノが好きなのだろう、間違いなく。

NHKの朝の特番で「ホテルローヤル」が映画化されたと。どうかな。本に敵う映画って、難しいだろうな。見たい気持ちと、見ない方がいいんじゃないかという躊躇と。
テレビの画面の向こうからの印象だけども、桜木紫乃って、こんなに面白いヒトだったのかと。

2020年10月21日水曜日

ロバの耳通信「鬼滅の刃」「東京喰種トーキョーグール」

「鬼滅の刃」(きめつのやいば 16年~ 吾峠呼世晴(ごとうげ こよはる)週刊少年ジャンプ 集英社・19年4月 テレビアニメ 20年10月 邦画)

流行りものに弱い。この漫画が話題になるたびに気になっていたのだが、”稚拙な絵”のため近寄るだけにしていた。結局、あまりの評判の高さに負け、既刊の約半分を読んだ。大正時代に家族を「鬼」に殺され、さらに妹まで鬼にさせられた炭焼きの少年が、妹を人間に戻すために修行を積み「鬼」と戦う。鬼に襲われた人間が人食い鬼になるゾンビ物語と剣の修行で強くなってゆく少年など、ストーリーの面白さはあるものの、なにせ漫画がヘタ。少年漫画に高度の質は求めていないが、表情の作り込みや、人物の描き方の稚拙さに途中で挫折。

テレビアニメを動画サイトで見たら、動きのある動画にしたことで多少漫画より見やすくなったが、目ばかりが大きな少女漫画に。声優のおかげてアニメらしくはなったが。
先週公開になった劇場版アニメ(無限列車編)が空前のヒットだと。まあ、コロナで禁足を食らっていた若者たちが反動で見に行っているのか。出口インタビューで、メッチャ感動したと興奮冷めやらぬ様子で語っている少女たちをテレビCMで見たが、劇場版って、そんなに良くできているのか。予告編見た限りじゃ・・うーん、やっぱり少女漫画だよ。無限列車編ということは続編ゾロゾロもヒット期待なのだろう。
何匹めのドジョウ狙いで実写版も出るのか。原作のストーリーを生かした映画にしてくれるなら見たいと思うが、昨今の流行りのアイドルを主演にした若者ヨイショの実写版なんて見たくないなー。本当は怖いストーリーなんだから、思いっきり怖く、残酷な、原作の家族への愛情あふれる映画。誰か「ちゃんとした」映画を作ってくれないかな。

「東京喰種トーキョーグール」(11年~ 石田スイ 週刊ヤングジャンプ 集英社、14年~ テレビアニメ、17年 実写版 映画)

人肉を食う人間の形をしたバケモノ「喰種」(グール)を主人公にした作品。ストーリー展開がシュールでクール。続編が次々に出て、シーズン4の48話まで続いた。作画がメッチャうまく、気味の悪さも秀逸。テレビアニメでは原作の持つ暗さが消え、実写化ではCGの遊びになって幻滅。

結局、初期の漫画が一番面白く、電子ブック化されたおかげで、今でも気味悪さを楽しんでいる。

2020年10月19日月曜日

ロバの耳通信「主任警部アラン・バンクス」「ハンナ」「半沢直樹」

 「主任警部アラン・バンクス」シリーズ(10年~ 英ITV)原題:DCI Banks

このシリーズを見ていると、みんながが酒飲みで、離婚と結婚を繰り返し、その子供たちはグレているーそんな英国人の印象なのだが、自らの娘の非行や部下との交際など難しい人間関係を抱えながら、凶悪犯罪と対峙してゆく主人公の主任警部が人間臭くて魅力的。難しい顔して捜査の指示を出しながら、部下を自宅での夕食に誘う。主任警部はバツいちの独身暮らしだから、下心アリアリ。部下もそんな誘惑にホイホイひっかかる。地方都市の警察とはいえ、そんなのありかよと、そういう経験も度胸もなかったサラリーマンでも中間管理職どまりのワタシは羨ましさにヨダレを垂らすしかない。

いわゆる普通の刑事モノだと、やたらと強かったり、メッチャ頭が切れたりで勧善懲悪で爽快感をというのがキホンなのだろうが、上にも下にも酒にも女にも弱いリーダーが地味に事件を解決してゆくところがいい。

「ハンナ」シリーズ(19年~ 米TV)原題: Hanna

同名の映画(11年 米)ではアクションを表に出しすぎたために、ストーリーを消化しないうちになんだか中途半端に終わってしまい感動の薄い作品になってしまっていた。続編狙いだったのだろうか、いまだに続編が出ていないから立ち消えになったのか、原作がそうだったのかはわからない。特にハンナ役の女優ほか配役も良かったのに残念。
このテレビ版は主人公だけでなく多くの登場人物にスポットを当ててストーリーに厚みを増していたのが良かった。自分自身のメモリー容量が充分でないことをしっかり認識しているから、こういうシリーズものは徹夜してでも一気見たい。Amazonプライムビデオの良いところは、ダウンロードさえしてしまえばネット環境やらタブレットの性能に関係なくいつでもどこでも楽しめること。まあ、間違いなく寝不足にはなるけどね。

「半沢直樹」シリーズ(20年 TBS)

池井戸潤の小説「半沢直樹シリーズ」を原作としたテレビドラマ。「日曜劇場」で放映の「半沢直樹」(13年の全10話)時代はコンサルで資産評価などを生業とし銀行マンの真似事をやったこともあり、ビデオ録画したものを興味深く見ては、堺雅人の”倍返しだ~”の決め台詞に留飲を下げていた。

今年になって続編が7月に始まり話題となっていることは知っていたが、同じようなスジをまた見るのもどうかなという気持ちだったし、テレビもビデオもほぼカミさんに占領されている状況だったから知らんふりをしていたのだが、最終回(9月27日)が近づくについて、ネットでも騒ぎ出したからまあ最終回だけでも見るかと検索したら、Gyao(Yahoo動画)で見ることができると。で、最終回をみたらこれが7年前の興奮を再燃させる面白さで、結局20年版の全10話もネットで見てしまった。勧善懲悪(今回のボスキャラは与党の幹事長)、ジェットコースターのようなストーリー展開は今回も面白かった。続編のハナシもあるらしい。秋の夜長に原作を読もうと決意。

2020年10月12日月曜日

ロバの耳通信「狂武蔵」「偽りの忠誠 ナチスが愛した女」

 「狂武蔵」(20年 邦画)くるいむさしーと読むらしい。

ネットで話題になり、映画サイトのランキングも高かった作品だが。だが、である。全編宮本武蔵役の坂口拓と吉岡門弟など400人との斬り合いシーン。歴史上の人物とはいえデフォルメされた武蔵だがさすがに後半になると手も上がらずヘロヘロ。これで斬り合いなんて噴飯モノだが、映画という虚構の世界だから何をやってもいいのだろう。

クラウドファンディングで資金を募ったーということがオモテに出ていて話題を呼んだが、映画そのものは殺し合いのシーンの連続なのに退屈。なにかが起きるかと期待していたが楽しくも、興奮も、メッセージも感じられない映画。期待させるだけのクラウドファンディングという金集め、客集めが流行っていると聞く。余裕かました人々が有り余ったお金をドブに捨てるのは勝手だが、先の見えない将来を懼れながらも食費をケチって小銭を貯めるくらいしかない下層国民の気持ちなんか彼らにはわからないだろうな。

この映画からしばらく経って、前に見た映画に似てたなと調べたら、「RE:BORN」(17年 邦画)と同じ筋立てだった。「狂武蔵」ほどではないものの、ただ殺戮の繰り返し。主演(TAK坂口拓)も監督(下村勇二)も同じ。二匹目のドジョウ狙いだったのか、一匹目も暗いだけのどうしようもない映画だったのに。

「偽りの忠誠 ナチスが愛した女」(16年 英米合作)原題:The Exception

邦題も原題も意味不明、見終わって感じたのは原作(03年 アラン・ジャッド)の「The Kaiser's Last Kiss」のママの方が良かったかなと。

第二次世界大戦中のドイツ軍将校(ジェイ・コートニー)とユダヤ人の女スパイ(リリー・ジェームズ)との恋物語。クリストファー・プライマーが演じるオランダに亡命中の元ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世とその妻(ジャネット・マクティア)の物語がこの映画のもうひとつの主題になっている。

リリー・ジェームスは英テレビドラマで「戦争と平和」でナターシャを演じているが、同名映画(56年米 オードリー・ヘップバーン、67年旧ソ連 リュドミラ・サベーリエワ)のヒロインたちの匂い経つような神々しさにもヒケをとらない美しさ。この映画でもノッケから美しい裸体を披露してくれた。

こういうスパイ映画の楽しみは、推理小説と同じくどういうラストになるかを予想しながら見ることなのだが、おお、そうきたかと予想外のラストを楽しんだ。

2020年10月5日月曜日

ロバの耳通信「海は見えるか」「リバース」「生きものたちの部屋」

「海は見えるか」(16年 真山仁 幻冬舎)

新聞記者出身の真山は企業買収を題材にした「ハゲタカ」(04年)でデビューして依頼、ノンフィクションのような硬質な作風が気に入りよく読んでいるが、東日本大震災を題材にした「海は見えるか」にいつもの鋭さがないのはなぜだろうと考えている。巻末に主要参考文献として東日本大震災の本が並んでいる。

「リバース」(15年 相場英雄 双葉社)

いつもの相場らしくない散漫さだ。これも、巻末の主要参考文献に同様の文献が並ぶ。たくさんの作家が、こうして本を書いているのだろうか。

「生きものたちの部屋」(98年 宮本輝 新潮文庫)

このエッセイは面白かった。作家としての私生活を知り、あれだけ優れた作品を苦しみながらも、次から次へと生んでいる宮本がなんだか近くなった気がする。より、好きになった気がする。巻末に著者が阪神大震災の遭った日記が紹介されている。自宅壊滅と物的被害で済んだらしいが、実体験だから生々しい。
この本の中で紹介された「名馬風の王」(87年 M・ヘンリー 講談社)の生まれつき口のきけない少年馬丁アグバと彼が世話をしたアラビア馬の交流。互いに物言えぬ者同士だからこそ、互いの心を理解したという話が出てくる。トツゼン、オスカーを4つも獲ったと話題になった映画「シェイプ・オブ・ウォーター」(18年 米)のおばさんと半魚人のラブストーリーを思い出した。そーなんだ、そこがこの映画の「言いたいとこ」だったのかと、やっとわかった気がする。

2020年10月3日土曜日

ロバの耳通信「半島」「エリザベス∞エクスペリメント」

「半島」(20年 韓)原題:반도 Peninsula


韓国ゾンビ映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」(16年)の4年後という設定の続編ーということになっていたが、ゾンビがゾロゾロ以外に脈絡はない。相変わらずの思いっきり汚いゾンビが走って追いかけてきてキモさ倍増。
「新感染 ファイナル・エクスプレス」では、ゾンビだらけのソウルから逃げ出したが、今回は釜山からフェリーで東京に向かう。なぜか途中から香港へ進路変更(ワケは明かされないが、政治的な含みありや・・)でストーリーの始まりは香港。4年前に韓国国内に残された多量の米ドルを回収に香港から再びゾンビだらけの韓国に戻る。見せ場はカースタント。ストーリーはとにかく、CGの出来が最高。

主演のイケメンのカン・ドンウォンがやたら格好良くてまいった。若くない(今年40歳)共演のイ・ジョンヒョンの存在感がスゴイ。何となく似ている気がする大好き綾瀬はるかとダブってしまった。それにしても韓国映画の子役はうまい。ただのゾンビ映画なのに最後に子供をダシにして泣かせようとするなんてズルいぞ。韓国では新型コロナウイルスの最中にも大ヒットだったらしい。

「エリザベス∞エクスペリメント」(18年 米)原題:Elizabeth Harvest

大金持ちのヒヒジジイ、ヘンリー(キーラン・ハインズ)が若くして死んだ妻のクローンのエリザベスを作るというSF。クローンゆえに先天性の疾患があり、作っても作っても死んでしまうエリザベスだが、ヘンリーは意のままに育て、愛で、殺すことに快感を感じるようになってしまう。エリザベスにねこなで声を使う怪優キーラ・ハインズの気味悪さがハンパない。

映画評ではエリザベス役のオーストラリアのモデルのアビー・リーを”完璧な美貌と肉体”と褒める声が多い。アビー・リーはファッション・モデルとしても、女優としても「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15年 豪)など多くの作品で活躍しているが、個人的にはゼンゼンダメなタイプ。「マッドマックス」「キング・オブ・エジプト」(16年 米)でも感じた<ココには書けない>いくつかの気に入らない印象があって好きになれていない。

映画そのものはSF作品の常で、脈絡のない終わり方。ラストが気になり最後まで見たがやめときゃよかった。