2021年3月27日土曜日
ロバの耳通信「わたしを離さないで」
同名の映画(10年 米)が生涯忘れられない映画になったと前に書いた。この本を読んで、映画よりもっとずっと、ずっと深い物語だと感じた。450ページの長編小説とそれを2時間くらいの映画に押し込めた映画のどちらに分があるかはそれぞれの完成度によるだろう。ストーリーや文体、はては装丁までも本には関わってくるし、映画だと映像、配役、音楽も大切な要素となる。小説「わたしを離さないで」では映画に出てこない多くのストーリーや会話が私の頭の中で膨らみ、妄想となっている今、もう一度映画にチャレンジしよう。
優れた原作と映画ではこういう楽しみがある。相互作用というのだろうか、そうやって小説も映画も繰り返すことになるから、時間はいくらあっても足りない。
臓器提供のためにクローンを育てる施設で育つ若者たちの話である。落ち着いて考えてみれば途方もないハナシ。でも、もはやどこかで同様のことは行われているのかもしれない。約20年前、構想からだともう少し前からかもしてないが、こういう題材を小説にしたカズオ・イシグロって、すごいと思う。さらに、施設で育つ若者たちの心理描写、特に若い女性の心理描写はまるで老練の女性作家のそれだ。翻訳(土屋政雄)も一流。同じ作家と訳者の組み合わせの「日の名残り」も読んでみたい。
2021年3月23日火曜日
ロバの耳通信「特捜部Q 檻の中の女」「特捜部Q キジ殺し」
「特捜部Q 檻の中の女」(13年 デンマーク)原題:Kvinden I Bburet
デンマークのベストセラー小説「特捜部Q」シリーズ(J・エーズラ・オールスン 邦訳 早川書房)の映画化第1作。部下を殉職させたことから未解決事件の書類整理をする窓際部署(特捜部Q)に送られた刑事が同じく左遷組の刑事とペアで、未解決事件を勝手に捜査する。
前にスウェーデンを舞台にした刑事ドラマを見て、暗さ、続く悪天候、文字通り画面の暗さと事件の残酷さや犯人の異常さに辟易しつつも、怖いもの見たさで見続けたものだが、このデンマーク発の作品も然り。今回の犯人は、復讐のために女を何年も高圧容器に閉じ込め苦しめるという残酷さ。女をより苦しめるために、暗闇で気圧を上げてゆくなんて、邦題の”檻の中”どころの異常さではない。
続編があるらしい。原作が面白そうだからジックリ小説からとも考えたが、増え続ける新型コロナ肺炎の感染者の数を毎日テレビやネットで知ると、図書館に行くのも憚られるし、この数日は雨風が強く、出かける気にもなれない。
動画サイトには話題の新作映画もアップロードされているからこっちも見たい。で、とりあえずこのシリーズ第2作「特捜部Q キジ殺し」(14年)原題:Fasandræberneを鑑賞。
主人公の刑事に会いに来た退職刑事は十数年前に起こった双子殺人の被害者の父親。主人公に相手にされなかったことから自殺。事件のウラには寄宿舎の生徒たちによるレイプ殺人や多くの暴力事件が隠されていた。
最初からラストの焼身自殺まで、この作品も救いのない暴力の繰り返し。原作はシリーズ8作。映画化された残りはあと2作<「Pからのメッセージ」(16年)、「カルテ番号64」(18年)。>
うむ、深淵を覗いて地獄に落ちないよう、気を付けながら見るとしよう。
2021年3月18日木曜日
ロバの耳通信「光線」「震える牛」
図書館から借りた本を一時的に入れておく書棚が寝室にあるのだが、たまたまこの本を手に取ったときに、なんだか寒気がした。カミさんが借りた本で、書名も著者も初めて。春の夜、まだひんやりした空気のなかで、偏見も予備知識もなしに掴んだ筈なのに8編の短編の巻頭が表題となった「光線」。ページの半分くらいから始まった、主人公の妻が子宮がんになって、検査を進めてソレが具体的な怖さとなって、ジワジワと押し寄せ、行間から瘴気が湧き出すように怖さがつのってゆく、まだ数ページも進めないうちに、だ。
怪談物語のように闇が自分の周りに迫ってくるから、恐る恐るページをめくってゆくと30ページで終わって、なんだかホッとしてしまった。
うん、ガンって怖いな、自分がガンにかかるのは長年の不信心のツケとあきらめてしまうのだろうが、家族がこういう恐ろしいガンにかかったら耐えられないだろうと思う。残りのオマケの7短編を読むと、この本の主題はむしろ原発事故にあるようだ。
「震える牛」(12年 相場英雄 小学館)
警察組織の抗争を描いた警察小説の形を取りながらも主題はBSE問題や食品偽装。「雑巾(ゾウキン)」と呼ばれるハンバーグ原料の暴露など、ゾッとするところが多かった。当時はかなり話題になってベストセラーになったり、テレビドラマ(WOWOW)にもなったようだが、特に食品偽装については沙汰やみになっている気がする。食品偽装なんてアタリマエになっているような気がする。心底怖い。
カミさんとこの本を読んでから、ファミレスやスーパーの出来合いのハンバーグを食べなくなった。
2021年3月13日土曜日
ロバの耳通信「羊の木」「二十六夜待ち」
原作は漫画雑誌(「イブニング」(11年~ 山上たつひこ))。元受刑者を地方に移住させ更生と地方の人口増加に貢献するという国家プロジェクトで元殺人犯6人を受け入れた魚深市(富山県想定)の職員と6人の物語。山上たつひこらしいアリエナイ物語なのだが映画のなかでは普通にというか自然の流れで展開される。
この映画の面白さはこれ以上はないだろうという配役の面白さ。主役の受け入れ先魚深市役所の職員が錦戸亮(関ジャニ∞)がなんともマジメな好青年を演じていたが、たぶん地なのだろう。さらに良かったのが床屋に勤めることになった水澤紳吾(アパッチ)、介護施設に勤める優香(最近とみにキレイになったと思う)、配送サービス業の松田龍平ほか、いずれも元殺人犯。かれらの個性や役への役者のハマり方が半端ではなく、どうなることかとハラハラしながら楽しみ、効果音楽(山田龍夫)がハラハラをさらに掻き立てた。
映画はやっぱり監督(吉田大八「桐島、部活やめるってよ」(13年 日本アカデミー賞)、という言い方もあるらしいが、そこに集約させてしまうだけではこの映画の面白さは語り切れんゾ。
2021年3月6日土曜日
ロバの耳通信「白蓮れんれん」
年上で華族の人妻と平民の弁護士が駆け落ちしたという歴史的にもスキャンダルな「白蓮事件」を題材にした「白蓮れんれん」をいつか読みたいとおもっていた。どうも性に合わない林真理子の著ということで実現していなかったが、たまたま図書館で手に取った縁を感じて読むハメに。
伝記モノは好きだし、大正という時代も殆んど知らない世界だし、本書が賞(第8回柴田錬三郎賞)をとったということで気合を入れて読んだのだが、イケナイ。炭鉱王と再婚した華族の出戻り女歌人が、我儘一杯、贅沢三昧、放蕩を繰り返しあげくのはてに年下の男と駆け落ちしたそれだけのハナシを、シレっと思いっきりやっかみ気に書けるのは林の筆のチカラか。
前に読んだ歌人長塚節の伝記「白き瓶 小説・長塚節」(藤沢周平10年 文春文庫)では、豪農の子として生まれ才能にも教育にも恵まれていた長塚節の、性格破綻者といってもよいくらい野放図さにも辟易したが、ワタシは歌人と相性が悪いのだろうか。
俵万智ちゃんは大好きなのに。
2021年3月3日水曜日
ロバの耳通信「パピヨン」
「パピヨン」(17年 米ほか)原題:Papillon
ラミ・マレックを始めて意識したのは「ボヘミアン・ラプソディ」(18年)。「ザ・パシフィック」(10年~ 米テレビ)ほかで両親がエジプト人だというラミの独特の風貌を覚えていたが、この戦争ドラマは登場人物が多かったせいかさほど強い印象ではなかった気がする。近年いくつかの作品「ザ・リトル・シングス」「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」(21年)でメジャーな役をやっているらしいから、これらを見るのを楽しみにしている。
そういえば、この1年以上、映画館に行ってない。はやくコロナが落ち着いて映画館に行けるといいなと、能天気なことを考えている。悪い方に想像すること、キリがないし無限に暗くなってしまうから、少しでも楽しいことを考えて居よう。
このところ布団に入ってYouTubeで南の島の観光案内を見たり、いつかやってみたい韓国の屋台の食べ歩きの動画を見ている。寝る前のこんなことが、体に良くないことは重々わかっているのだが、少しでも楽しい夢を見たいと。