「わたしを離さないで」(08年 カズオ・イシグロ ハヤカワ文庫)
同名の映画(10年 米)が生涯忘れられない映画になったと前に書いた。この本を読んで、映画よりもっとずっと、ずっと深い物語だと感じた。450ページの長編小説とそれを2時間くらいの映画に押し込めた映画のどちらに分があるかはそれぞれの完成度によるだろう。ストーリーや文体、はては装丁までも本には関わってくるし、映画だと映像、配役、音楽も大切な要素となる。小説「わたしを離さないで」では映画に出てこない多くのストーリーや会話が私の頭の中で膨らみ、妄想となっている今、もう一度映画にチャレンジしよう。
優れた原作と映画ではこういう楽しみがある。相互作用というのだろうか、そうやって小説も映画も繰り返すことになるから、時間はいくらあっても足りない。
臓器提供のためにクローンを育てる施設で育つ若者たちの話である。落ち着いて考えてみれば途方もないハナシ。でも、もはやどこかで同様のことは行われているのかもしれない。約20年前、構想からだともう少し前からかもしてないが、こういう題材を小説にしたカズオ・イシグロって、すごいと思う。さらに、施設で育つ若者たちの心理描写、特に若い女性の心理描写はまるで老練の女性作家のそれだ。翻訳(土屋政雄)も一流。同じ作家と訳者の組み合わせの「日の名残り」も読んでみたい。
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