2021年4月29日木曜日

ロバの耳通信「七四」「波切り草」「新宿遊牧民」

「七四」(17年 神家正成 宝島文庫)

初めての作家を読むときにアテにしたいのが、その著者が売れたか(新刊を手に入れることは稀だから、売れているかーというのは選択肢にはない)、賞を獲ったかーになる。好みから特にアテにしたいのが、「このミステリーがすごい!賞」か。限られた時間や体力のせいで、片っ端から読む元気ももはやないし、(ワタシにとって、期待外れの)失敗だらけの本も御免だ。

で、神家は「このミス」「深山の桜」(宝島社))作家だと。「七四」は自衛隊の七四式戦車の中で”自殺”していた自衛隊員のナゾを解く警務隊(米軍のMPに相当)所属の女性自衛官を主人公にしたミステリー小説。500ページの長編で一番長く語られるのが、自衛隊の組織や階級制度。切り口は、警察組織をネタにした警察官物語と同じだが、市井の人々から見ると警察よりさらに向こう側の自衛隊についての記述は興味深い。後半から始まる北朝鮮スパイとの迫真の戦闘場面は、自衛隊員の経歴というだけでは書けない、作家としての力量を感じさせた。主人公を女性尉官、上官にオネエ言葉の凄腕を置いてストーリーに幅と面白さをおいたところなんか、気にいったね。たまたま借り出されて図書館の棚にはなかったけれど、「深山の桜」読んでみたいなーと心底。

「波切り草」(09年 椎名誠 文春文庫)

椎名のいつものハチャメチャ物語だと思っていたら、少年時代の自分を懐かしむ物語だった。こういう物語は誰にでもあるだろう。自分の少年時代を思い出し、涙ぐんでいるジジイがここにもいる。

幼い頃に母を亡くし、継母のいる家は居心地のいいものではなかったが、一旦外に出てしまえば、無限に優しい祖母や、叔父や叔母、それにもう名前も忘れてしまったが一緒に遊んだ友達がいた。長屋を出ればすぐ畑や水田があり、自転車に乗ればどこまでも行けそうな気がした。今思い出しても悲しいことや悔しいことも多かったが、存外恵まれていたのだろうと、今なら思える。

「新宿遊牧民」(12年 椎名誠 講談社文庫)

椎名が出合った人たちのことを書いた”実話”だと。すばらしい仲間たちを羨ましいと思うが、自分の魅力のなさを十分認識しているから、椎名がただただ羨ましいだけ。
椎名のとっておきというか、真骨頂はやはり旅物語だ。モンゴル旅行記やら、島めぐりやら。お金はともかく、体力と食欲がまるでなくなってるから椎名の旅物語はすべて憧れの夢物語に。



2021年4月26日月曜日

ロバの耳通信「日の名残り」

「日の名残り」(93年 米)

ずっと会いたいと思っていた人にやっと会えた、そんな気持ち。ずっと見たいと思っていた映画だった。この時代だからネットレンタルのDVDとかで注文もできたのだろうが、いつか・・と思い時間は過ぎていた。「わたしを離さないで」(10年 映画 米)でカズオ・イシグロに親しみを持ってからだっただろうか。

素晴らしい映画だった。脚本も配役も音楽も。なにより、主役の執事頭役のアンソニー・ホプキンスが素晴らしかった。この映画で、ほかの配役は思いつかない。好きじゃないタイプのイギリス女のエマ・トンプソンもこの映画では光っていた。
「日の名残り」はラストシーン近くの波止場の夕暮れの映像が印象深く残っているが、老年にさしかかった執事、凋落した英国貴族、恋を捨て成り行きの結婚のあと孫の生誕に喜びを見出す女、皆「日の名残り」
セリフ部分の半分くらいがアンソニー・ホプキンス。すこし意識しているのか、普段より鼻にかかったキングスイングリッシュ風。セリフは、例の繰り返しで時間を持たせる間接的な言い回し。大声で怒鳴り合うような南部米語の汚らしさよりずっと品よく楽しめた。もちろん字幕あっての物種だが。

若い頃、個人指導してくれた英語の先生は香港生まれの若い英国人だった。学校英語や仕事で接してきた英語はそれまで全部米語(アメリカ英語)で、個人指導の時間は若い英国人から何度も言い直しをさせられ、閉口。そうして、仕事に戻りアメリカ人との会議で発言すると、「なんか、変なクセついてる英語になってるよ」とコレも何度も指摘をされた。アンソニーホプキンスの廻りくどい、押さえた英語を聞いていてそんなことがあったムカシを思い出した。

仕事が変わってから、外国語を使う機会もなくなり、学生時代から何十年もかかってやっと少しモノにした気分でいた外国語ももう要らなくなったのかと寂しい思いがしている。学生時代の長時間の勉強や仕事で憶えたたくさんのことは、いまや全く用無しになった。子育て、上手な掃除の仕方や料理、いろんなものの修理やら、今必要なことをいままでに何一つマスターできていない。後悔先に立たず・・か。

2021年4月21日水曜日

ロバの耳通信「僕らの先にある道」

「僕らの先にある道」(18年 中国)

周冬雨(チョウ・ドンユィ)が出ている映画があるぞと、映画オタクの友人が教えてくれた。ヒロスエの次くらいに好きかな。いや、ヒロスエより好きかな。

張芸謀(チャン・イーモウ)の映画「サンザシの樹の下で」(10年 中国)でこのコが好きになって、日本では封切り作品がほとんどないから中国ネットで、言葉がわからないから意味不明の映画何作か見て、この「僕らの先にある道」に来た。監督は台湾の女性監督だというが、勝ち気で、酒飲みで、奔放で可愛いヒロインの周冬雨に理想の女性を描いている。田舎から出てきた二人が帰省列車で出会い、一緒にすごすも都会の暮らしに疲れて別れ、10年後に再会、ただそれだけの物語。衒わないカメラワークと全編に流れるピアノ音楽も、主題歌もいい。タイトルバックが流れだしてから挿入される思い出の画像がまたいい。原作は「新年に国に帰る」(直訳)。中国の田舎と都会の格差、成功を夢見て都会に出て働く息子と田舎で食堂を営む老いた父、その老人に寄り添う息子の恋人。家族とは何かをまた考えさせる。

いろんなことが重なったりして疲れてしまった夜中とか、何かに浸ってみたい時の映画だ。

2021年4月17日土曜日

ロバの耳通信「刑事ヴァランダー」

 「刑事ヴァランダー」シリーズ(08年~ 英テレビドラマ)原題:Wallander


最重要条件<無料>と画質の良さからGyao依存症になり、このところBBCテレビドラマにハマっている。シェークスピア作品で有名な英男優ケネス・ブラナーの主演・製作総指揮の刑事ドラマのシリーズ。スウェーデンの推理作家ヘニング・マンケルの小説が原作。

陰鬱な北欧の風景と陰惨な事件、ジワジワと犯人を追い込んでゆくところなどが面白く”他人の不幸は蜜の味”とシリーズを楽しんできた。「シリーズ4」では、刑事ヴァランダーが遺伝性の糖尿病に苦しみ、アルツハイマーを発症。時々、自分がわからなくなり不安の中に身もだえする姿が痛々しい。


コロナ禍の真っただ中の暮らしの中で出口の見えない不安と焦燥は止むことはないし、自分だけじゃないのだろうが、持病の悪化、アルツハイマー症の心配、家族の悩みなどなど、よくこんなに多くの不安の嵐の下で生きていられるものだと自分でも呆れるほど。過去を思い出してみるとずっとこうだったし、悪いことばっかりでもなかったかなとも思い、いままで何とかなってきたのだからと自分を騙し騙し、能天気を続けている。

これから雨風が強くなると。予定していた買い物兼散歩に行けないなとか考え何度も窓から外を見ている週末の午後。

2021年4月9日金曜日

ロバの耳通信「コンカッション」

「コンカッション」(15年 米)

日大アメフト部員による悪質なタックル事件が起きて、タックルされた選手に重篤な被害はなくまもなく復帰見込みとの報道を知ったとき、この映画のことを思い出した。マスコミはしらばっくれていた監督やコーチを非難していたし、彼らの態度にも腹が立ったが、この看過されてはいけない疾病の問題を提起したものはなかった。

つまり、「コンカッション」concussion、つまり振盪(しんとう)。代表的なものが脳震盪。繰り返し頭部をぶつけた時、そのときにはどんな検査でもわからない進行性の脳変性としてずっとあとになって慢性外傷性脳症(CTE)を発症することがあると。具体的な症状は攻撃性、錯乱、抑うつ状態などの認知症症状。ボクシングではパンチドランカーとして良く知られているが、米国ではアメリカンフットボールで裁判になった事例があるのだ。

「コンカッション」はNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の選手と慢性外傷性脳症との相関を発見し、それを指摘したせいでNFLの関係者から脅迫を受けるナイジェリア出身の医師(ウイル・スミスが好演)の実話を基に作られている。

アメリカにおけるNFLは、NBA(バスケットボール)と並び、日本でいえば野球+サッカーを足したよりずっとメジャーなスポーツでその経済効果は膨大なものとなっており、当然ながらオモテとウラに多くのヒト・モノ・カネが動いている。映画では、NFLとCTEの相関を暴こうとしたばかりに、在留資格をはく奪されそうになったり州外に飛ばされたりはするのだが、アメリカらしく多くの友人(アレック・ボールドウィン、アルバート・ブルックス)に助けられて・・とハッピーエンドに終わる。日本経済新聞16年7月10日の記事によればNFLが脳震盪で後遺症が残ることを認めたために、子供の競技人口が減って、アメリカの「国技」もピンチらしい。

ところで、うつ病で苦しむNFLの元スター選手役で出演したデビット・モース<「グリーンマイル」(99年 米)ほか>がいい演技をしていた。デビット・モースって「レ・ミゼラブル」(12年 米)でジャベール役を演じたラッセル・クロウに似てると思わないかい?

2021年4月3日土曜日

ロバの耳通信「アリスに逢いたい」赤い髪と青い目のルース・ウィルソン

「アリスに逢いたい」


「刑事ジョン・ルーサー」シリーズ(10年~ 英ドラマ)を見ていて、第1話で見つけたこのコ。

両親を殺された天才少女アリス・モーガン役の「ルース・ウィルソン」Ruth Wilson。役名のアリスという名前も気に入ったし、赤い髪と青い目、なにより特徴のある眉とアヒル口でニヤリとする表情を見たさに、このシリーズを楽しみに見てきた。

ルーサー刑事役のイドリス・エルバがダイコンで、アタマを刈ればタレントのボビー・オロゴンにソックリ。「パシフィック・リム」(11年 米)や「マイティ・ソー」シリーズ(13年~米)、「フレンチ・ラン」(17年 英ほか)も見てるが、みんな同じ印象。個性といえばそうなんだけど、いつも似たようなキャラ設定だと飽きる。

とにかく、主役「以外」、ワキのキャスティングもこれ以上ない豪華メンバー。ルーサー刑事の妻役のインディラ・バルマなんて超いい女だし、原作か脚本がいいのか、ストーリー展開も毎回ドキドキで楽しんだのだけれども、やっぱり、アリスのニヤリ顔を心待ちにしていたことに気付く。いつものGyaoでシリーズ3まで見たが、早くシリーズ4が始まらないかな。

早くアリスに逢いたい。

<ここまで書いて、GYaoを覗いたら、シーズン4が始まりったと。あらすじを見たら、アリスが死んだと。おいおい、どーしてくれるんだ。>