2021年5月28日金曜日

ロバの耳通信「風が強く吹いている」「神去なあなあ日常」「まほろ駅前 多田便利軒」

「風が強く吹いている」(09年 三浦しをん 新潮文庫)

ボロ下宿に住んでいた大学生10人で箱根駅伝にチャレンジするという物語。トレーニングの方法や予選の仕組みから箱根駅伝のコース案内まで、新鮮な知見が得られた。毎年、正月に箱根駅伝をテレビで楽しむくらいだった大学駅伝が、この作品を読んでぐっと身近に感じられるようになった。知識は興味をより強くするのに役立つことを実感。
「風が吹いている」は、年齢も性格も大きく異なる10人が駅伝出場という目的に向かってトレーニングして深い絆に結ばれてゆく姿は潔く美しい。三浦しおんは、映画「船を編む」(13年 邦画)で知ってはいたが、読んだのはこの作品が初めて。走るという単調な動作、しかも苦しさの連続といったキツイ話に、親子の疎遠やら恋やら引きずっている過去やらのサブストーリーにユーモアの味付けをすることで、長い話なのにタイクツはさせない。何より、初めての箱根駅伝に向けて10人のそれぞれを繋いだだり離したりしながらの読者の引きずり込み、駅伝中の選手間の交流やライバル選手との駆け引きなど、圧巻のゴールに向けての物語の盛り上げ方は上手い。
これは映画にも向いてるなと思って調べたら、漫画やラジオドラマや映画(09年)、アニメ(18年)にもなっているという。

「神去なあなあ日常」(12年 三浦しをん 徳間文庫)

横浜生まれの高校生が卒業と同時に三重県の山奥神去村に樵(きこり)として弟子入りさせられ、初めての山暮らしに目覚めてゆくというひどくいい話だと思うのだが、明るく元気な主人公平野勇気をはじめや周りの人たちを「いいひとばっかり」で固めたためか、ユーモラスではあるが単調な物語になっている。
ダニやヒルとの戦いや、樵としての修行も、タイヘンなことになる山火事もイマイチ盛り上がらない。ノンフィクション作家の角幡唯介がこの作品を’単なる林業小説でなく、(中略)日本人のコスモポロジー’と解説で書いているが、そうかな。続編に「神去なあなあ夜話」(12年 徳間文庫)もあるらしいのだが、あんまり読む気もしないな。


三浦しをんの2冊を交互に読み進めたが1勝1敗・・か。どうしよう。もう一冊くらい読んでみるかなと次作。

「まほろ駅前 多田便利軒」(09年 三浦しをん 文春文庫)

直木賞受賞作というからまあ、外れはしないだろうと思いつつおそるおそる読みすすめた。
本を読むというのはワタシにとっては宝さがしみたいなもので、最初のページからお宝ザクザクのこともあれば掘っても掘っても泥しか出てこないことも多い。作家になじみを感じるようになるまでは場数を稼ぐしかない。

「まほろ駅前 多田便利軒」は面白い作品だった。言葉通り面白かったけれど、実のところこのテの軽さはあまり好きではないのだ。軽妙さの中に深いところにあるジンセイの琴線に触れている感じはわかるのだが、作りすぎというか出来すぎた物語の感。半分くらいで挫折。

2021年5月24日月曜日

ロバの耳通信「ボーダーライン」「エスコバル 楽園の掟」

「ボーダーライン」(Sicario 15年 米)

アメリカとメキシコの国境での麻薬カルテルと司法側の対決を題材にした犯罪映画。約2時間、緊張して見ていられる映画なんてあんまりないのだが、コレはそうだ。主人公のFBI捜査官役の英女優エミリー・ブラントが一生懸命役をこなしていたがイマイチ存在感が薄く感じられたのは、「クワイエット・プレイス」(18年 米)で母親役の時と同じ。何故だかわからないが、エミリー・ブラントの映画を見るたびにそう思う。なによりこの映画で特筆すべきところは、司法側にいるナゾのコロンビア人役のベニチオ・デル・トロ。元検事という設定なのだが、なぜ彼が司法側でしかも周りが認める一匹狼でいられるのかの理由が語られない。原題の Sicario 殺し屋と関係があるのか。今年公開の続編の伏線かも。とにかく、ベニチオ・デル・トロの存在感はスゴイ。もう一つ、この映画のスゴイところが音楽。今年亡くなったアイスランドのヨハン・ヨハンソンによる打楽器中心の効果音はヒュードロドロの怪談映画のそれに似て、怖さを倍加する。

アメリカとメキシコの国境線を大写しするシーンがあるが、万里の長城のように途切れることのないフェンスが続いていた。トランプが作る前にあったのだろうか。

ベニチオ・デル・トロの映画を続けて。

「エスコバル 楽園の掟」(15年 フランス・スペインほか)

ベニチオ・デル・トロが実在のコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバル役のベニチオ・デル・トロとエスコバルの姪を恋人にしたばかりにファミリーに迎えられることになったカナダ人青年ニックの物語。役柄もそうだが圧倒的な存在感のデル・トロとニック役で「ハンガー・ゲーム」シリーズ(12年~ 米)のジョシュ・ハッチャーソンの競演は初めから勝負がついていた。というか、気弱な印象のジョシュ・ハッチャーソンは、悪のファミリーへの参加を良しとしない純朴な若者役はピッタリといえばピッタリだし、同じく気弱なワタシには悪の中にいて始終感じているニックの不安を存分に感じることができた。映画としてはよくできているのかもしれない。原題はParadise Lost 楽園なんてなかったということか。



2021年5月18日火曜日

ロバの耳通信「ノマドランド」

 「ノマドランド」(21年 米)原題: Nomadland

近年これほど話題になり、アカデミー賞ほか世界の映画賞を総ナメにした映画を知らない。どの批評サイトや口コミをチェックしても監督や製作スタッフ、配役をベタ褒めだから期待は自分の中であがりっぱなし。3月に日本公開ということだが、コロナ真っただ中の映画館も行く気もなし。

YouTubeの予告編は意外に地味、ストーリーは連れ合いを亡くしたオバサン(というか、老境にさしかかったおばーさん)が社宅も追い出され、なけなしの家財を積んだRV車に乗って放浪の旅に出かけるというもの。

原作がノンフィクション「ノマド: 漂流する高齢労働者たち」(ジェシカ・ブルーダー 17年)ということで、所謂放浪モノは好きで、ジョン・クラカワー原作の映画「イントゥ・ザ・ワイルド」(07年 米)ほか、何作かを見ていたのだが、「やっぱり」の感。つまりは寂しすぎるのだ。

「ノマドランド」で見せてくれるのはアメリカ西部の荒涼な自然と、そこに集まった貧しい車上生活者たち。ガソリンは格安、高速料金などほとんどいらないアメリカ。車さえあればどこにでも行くことができる身軽さに羨ましさを感じつつも、最近気付いたこと。「どこへ行っても、ひとりではつまらない」

ファンという中年女(オスカー女優フランシス・マクドーマンドが好演。ただこの女優の本来のキャラなのかも・・)は訪れた車上生活者の集まりで、多くの人と出会うのだが、結局彼らと親しくなってもその場かぎりの関係。寂寞、これがこの映画の主題なのか。いい映画だと思ったが、メゲそうなので二度見はできないなー。

唐突に、昔読んだ本、「アウトサイダー」(コリン・ウイルソン 88年 集英社文庫)を思い出した。

2021年5月13日木曜日

ロバの耳通信「モータルコンバット」

 「モータルコンバット」(21年 米)原題:Mortal Kombat

かなり前からYouTubeで予告編やら出だしのショートフィルムが公開され、真田広之がメッチャ格好いい役だったからなんとか見たいと思い、動画サイトに網を張って待っていた。

この1-2年の間に映画をタダで見られる野良サイトがことごとくダメになっていたが、ステイホーム需要のためだろうかボチボチ復活してきている。リンク名こそ前と変わってはいるが、野良らしくしぶとく生き残って貧乏人のために映画をアップロードしてくれているのはウレシイ。

今日は朝から雨だから散歩にも行けず、テレビネタもコロナ感染者数が連日記録更新とかばかり。YouTubeや動画サイトがなかったらどうなっていたかと。

この映画、モトは対戦型格闘ゲーム『モータルコンバット』の映画化で、スジもなにもなくて、ただ戦うだけなのだが、芸達者の配役と映像美で楽しい映画に仕上げている。欧米人や真田広之、浅野忠信を「善」側において中国人俳優を「悪」側としているところに味付けの不健全さも感じ、日本の映画ファンを意識しているメジャー配給元(ワーナーとニューラインシネマ)の意図がみえるがまあ、いいか。

個人的には「ラストサムライ」(03年 米)などで硬派の日本のサムライを演じて大好きになった真田広之が、最初と最後に大活躍するこの映画に不満はない。ボスキャラ以外が皆やられてしまった「悪」側が、替わりはいくらでもいるゾと捨て台詞を残し去ってゆくラストシーンから、続編も大いに期待できそう。

2021年5月9日日曜日

ロバの耳通信「路傍」「トマトの先生」「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」「ネコの住所録」

ダルくて、何もする気がおきない。夜更かししてるワケじゃないのに朝も眠く、せっかくの日曜日だというのにゴロゴロ。ベランダごしの風を感じ、座布団を頭に積んだ本を読む。本、時々昼寝。コロナは無関係、ワタシは生来ナマケモノ。
そうやって読んだせいか4戦全敗。

「路傍」 (10年 東山彰良 集英社文庫)

大藪春彦賞受賞作、解説を馳星周。最初の1-2ページだけチラ見、これはゼッタイ面白い筈と図書館からイソイソと帰り、就寝前の一番楽しい時間に枕灯を点けて読み始めたら、これはイケナイ。ハードボイルドに間違いはないが、あまりにも雑。殻が剥けなくてイライラしているうちに、黄身まで飛び出してグズグズになってしまったハードボイルド。この作品が、”東山の才能の片鱗”と評した馳星周のイチオシでしかも満場一致で大藪春彦賞を受けたという解説を読んで、大藪春彦賞も地に落ちたなと思っていたら、その後、直木賞はじめ多くの文学賞を獲得したと。その意味では馳の評は正しかったのか。うーん、意地でもこの作家、金輪際読むものか。

「トマトの先生」(14年 石田祥 宝島文庫)

日本ラブストーリー大賞受賞作だと。ふーん、いろんな賞があるもんだな。トマトは大好きだし、トマトについての雑学は増えたけれどトマト狂いの農大講師と結ばれてしまう主人公の早苗の女心がどうもわからない。女性の著者なのだから、トマトについてのウンチクに溺れるのではなくココロの動きみたいなことを丁寧に書いてくれたらよかった。女性読者ならアウンでわかるのかな。女性のココロをワタシが理解しようとするなんて所詮無理なのか。

「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」(16年 橘玲 幻冬舎文庫)

生き延びる方法が”恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!”と。”好きを仕事にして”、自分のビジネスモデルを自分で設計せよ”よ。うん、説明はわかったけれど、多くの自己啓発書や人格改造セミナーを否定することで読者の関心を惹き、答えは自分で探せと。うん、そうだね、否定された自己啓発書とあんまりかわらないね。社会の出来事や物事を事例付きで親切に説明してくれたけれど、もういいや。

「ネコの住所録」(18年 群ようこ 文春文庫)

ワタシの猫好きを知ってるカミさんの勧めだったのだが、なにより猫への愛が語られていない。ネコの本に、インコ、 ハチ、イノシシ、イヌやらカメやら、とにかくネコ以外のものを入れないでね、あんま好きじゃないから。


2021年5月1日土曜日

ロバの耳通信「ザ・ディープ ~深海からの脱出」ゴールデンウィークの初日、雨の映画会。

 自分にはほとんど関係ないけれど、ゴールデンウィークの初日。東京の新型コロナ感染者数が再び1000人を超え、それでも決まっていることだからとオリンピックをやると息まいているヤツがいる。クルーズ船飛鳥2は感染者が出たと横浜に戻ってきた。オイオイこんな時期にクルーズ船乗っていたヤツがいたのかよ、しかも350人も。インドの感染者が昨日は一日で40万人だと、だから人工呼吸器とかを何百セット贈呈すると。オイオイ今日も感染者数の記録を更新した大阪じゃ、感染者を入院させる病院がなくて、何人もなくなってるんだぜ。早くワクチン打ってくれよ、人口の半分以上ワクチンを済ませた国もあるのに、日本はひと桁%で下の方だと。GDPが世界で第何位とか威張ってたじゃないのか。いままでこんなに、オカミのやり口に不満と不安を感じたことなかった気がする。若い人が、路上で騒ぎながら酒を飲んで憂さ晴らしをしている気持ちがわかる気がする。

コロナ報道と今朝の宮城沖地震とお笑い芸人のへらへら番組ばかりのテレビにも飽きた。きっとみんながネットを使っているせいだろうか、やたらと読み込みが遅くなっているPCに愛想を言いながら、3時間モノの動画を見たすこし寒い雨の日。

「ザ・ディープ ~深海からの脱出」(10年 英テレビドラマ)原題:The Deep

表題通り深海モノ。同じ題名の映画も何作か見ていて当たり外れを感じていたが、これは良かった。英BBC製作ということで衒いもトリックもなし、意外にもロシアをワルモノにすることもなく。

北極海の熱水地帯を探索中の深海調査船が行方不明となり、何か月後にその捜索に出た別の調査船が深海調査船の乗組員を、その地域で石油を発掘調査していたロシアの原子力調査船の中で発見。乗組員は新エネルギーを生み出す深海生物を発見しロシア船の中で研究していたという。ストーリーとしてはかなりムチャ張りなのだがBBCの脚本の出来がいいせいか、手に汗握るハラハラドキドキ。

ほんのちょっとの間だけれども、コロナのことをキモチの外に締め出すことができたのは良かった。