2022年6月30日木曜日

ロバの耳通信「箪笥(たんす)」

 「箪笥(たんす)」(03年 韓)原題:장화, 홍련(薔花, 紅蓮)


原題は姉妹と継母の葛藤を描いた韓国の古典「薔花紅蓮伝」で、何度も映画化されていると(wiki)。

陰湿な継母に虐められる姉妹は、美しい。いわゆる美人ではないが、抜けるような白さや表情のあどけなさ。それら現実に出会うことはなく、はもはやこういう映画の世界でしかみられないのではないかと思う。ストーリーの進行につれて、女たちの不快なくらい大きな声がどこから出ているのかと思えるほどの金切り声で叫び、継母や父親に絡む。袋に押し込め、パイプで殴り続け、血だらけの袋を引きずるなんて、日本の怪談なみの残酷さだ。そして、効果音も音楽も日本のソレと同じだ。真似ているのではないと思う。多分、同じDNAの血が流れているのだ。

訳のわからないストーリー展開に戸惑いつつも十分に怖がらせ、ラストに種明かしをされ、冒頭のシーンに戻る。ああ、そうだったのかとオープニングのシーンも納得がゆき、もう一度最初から見たくなる。そうすることで、初回には納得出来なかったストーリー展開が、さらに怖さを増して迫ってくる。ストーリーを頭で追うことをせずに見ると、短いカットに怖さがギッシリ詰め込まれてたことがわかる。良く理解すると、怖くてまた見ることはできない。

西洋の怪談はキモいことはあっても怖くはない。中国の怪談も然り。ただ、この韓国の怪談映画は怖い。背中からゾワゾワが這い上がってくる感覚は、古い日本の怪談映画に匹敵する。


2022年6月25日土曜日

ロバの耳通信「終戦のローレライ」「人類資金」

 福井晴敏との初めての出会いは「川の深さは」(03年 講談社文庫)だと思う。以降、「Twelve Y. O.」(01年 同)、「亡国のイージス」(02年 同)と読んできて、小説としての面白さもあるが、なにより共感。作品の中で登場人物が「滔々と語る」、国のあり方や危機感などの福井の持論にいつも共感のため息をついてしまう。Amazonのサブスクで福井作品が並んでいたのを機会に、いままで気になってきた作品をまとめ読み。

「終戦のローレライ」(05年 講談社文庫)

全4冊1500余ページの大作だが、一気に読んだ。何冊かの福井晴敏の小説を読み、本作も読みたいと思いつつもジジイになってしまっているから体力的に長編はムリかとチャレンジも控えていたのだが、読み始めたら”怒涛の如く”という感じだろうか。

wikiでは”架空戦記”とあるが、架空の部分はわずかで、福井が終戦間近の日本海軍の潜水艦と米軍の潜水艦や各種艦艇との戦いを描きながら、太平洋戦争の歴史と背景を奇譚なく語っていて、強く感動した。感動を伝えたカミさんには”どうせ小説でしょ”と一蹴されたが、小説であろうと、ノンフィクションだろうと、はたまた伝えるほうも事実だと信じて流しているらしいニュース報道だろうと、結局はそれらの中から、自分の思いや感情に似たものを探し出し、感動してしまうのだろう。

長編に疲れたが、読んで良かったとシミジミ。

「人類資金」(13、14年 講談社文庫)

これも全7冊、1700余ページの長編。”M資金”を題材にし、主人公を詐欺師に持ってきて、特に後半はエンターテインメント要素の強い作品でジェットコースター感覚を楽しんだ。とにかく面白かったよ。

「6ステイン」(07年 講談社文庫)

スパイものの小品集。わかったことは、福井は短編が得意じゃないらしいということ。半分くらいで放棄。まあ、全部の作品が自分の趣味に合致してるわけじゃないと独り言。

2022年6月21日火曜日

ロバの耳通信「罪の声」

 「罪の声」(20年 邦画)

まいった。予備知識なしで見始めたたのだが気持ちが吸い付けられてしまった。知っていたのはこの映画が昨年封切られたことぐらい。映画が昔、気になりつつも「よくわからなかった事件」だったグリコ・森永事件を題材にしていて、よくできた脚本だなと。

ストーリー展開から原作は松本清張だと勝手に思い込んでいた。陰のある仕立屋役の星野源が素人っぽい演技ながらも存在感があって、新聞記者役の小栗旬ともどもいい演技をしていた。

2時間半の大作の半分くらいまでみたところで我慢できなくなり、映画についてあらためてググって見て、原作(塩田武士)が週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位、第7回山田風太郎賞受賞(16年)作品で、映画も第44回日本アカデミー賞(21年授賞式)を知った。

何のことはない、半分近くまで映画(動画サイト)を見て、残りを翌日まで持ち越したのは、作品の長さというより、あまりの面白さに一気見をもったいなく感じたから。美味しいものを一気食いせず、半分を翌日に持ち越す貧乏人のサガかとも思うが、ミステリーの謎解きが急速に進む後半は、まさに怒涛の勢いで楽しませてもらった。それが、この「まいった」の意味だ。

こんな有名な役者をチョイ役で使っていいのかと思う豪華配役だが、その誰もが自分の枠を勝手に飛び出さず、映画のクロスワードパズルにピッタリおさまっていたのが良かった。撮影もコマ切れにせず、セリフの間も充分。監督のチカラかな。エンディングの主題歌「振り子」(Uru)も良かったが、劇中の抑え気味の音楽も良かった。こういう映画を作れるのか、日本映画界は。アニメとかアイドルばっかりじゃなかったんだ。

映画は通しでまた見ることにしたが、原作を読みたい。ゼッタイ読みたい。

2022年6月15日水曜日

ロバの耳通信「ザ・ロストシティ」「クィーン」

 「ザ・ロストシティ」(22年 米)原題:The Lost City

大好きなサンドラ姉さん(サンドラ・ブロック)、もう57歳だって。吹き替えの騒々しい声優(本田貴子)が好きじゃないので、サンドラ姉さんの吹き替えじゃないのを探していたら動画サイトで発見。もちろん字幕がないと辛いから、字幕だけを字幕サイトで探して動画に貼り付け。サンドラ姉さんの地声は深みがあっていい声なんだよね。いい時代になったねぇ(シミジミ)。

主人公の冒険ロマンス作家の南の島での「インディー・ジョーンズ」風の冒険映画。徹底的なホラ話だから、退屈しないように、恋アリ、冒険アリで楽しさいっぱい。オープニングから、蛇ニョロニョロだからね。

今日は朝から鬱陶しい雨。気が晴れる映画見たかった。並べるとキリがないほどの豪華キャスティング。大好きブラッド・ピットが結構格好いい役で出ていたが、あっという間に殺されてやんの。

「クィーン」(06年 英)原題: The Queen

ダイアナ元皇太子妃の交通事故死(97年)の際のエリザベス女王(2世)と王室の舞台裏を映画化。エリザベス役がヘレン・ミレン、彼女を支えたトニー・ブレア(当時の首相)をマイケル・シーンが演じ、ホンモノに会ったこともないから言い方は変だが、ふたりがあまりにもソックリで、当時のフィルムを挟みながら映画が進んでゆくから、映画の中にすっかり入り込んでしまった。”映画”だからというか、当然、美化されたり、都合の良いように脚色されているところもあるとおもうが、現役の皇族を題材にこれだけ陰影のある映画を作ることができる英国って、ある意味すごいと思う。

古い映画を見て、こんないい映画を見ていなかったかと、悔しい思いをすることがたまにあるが、この作品もそう。数日おいて、二度見してしまった。

2022年6月10日金曜日

ロバの耳通信「ザ・ノースマン」「メモリー」

 「ザ・ノースマン」(22年 米)原題:The Northman)

史実らしいが、バイキングの王子アムレートが父を殺し母を後添いにした叔父への復讐を果たすという、まあそこらにありそうな復讐モノ。wikiでチェックしたら、シェイクスピアの戯曲「ハムレット」を題材にしているらしい。「ハムレット」ってこんなに簡単なスジじゃなかったんじゃないかな。
映画のデキは、魔女は出てくるわ、奴隷の殺戮やらでアメリカ映画とは思えぬ暗く、オドロオドロシイ作品。

出演のアレクサンダー・スカルスガルドというスウェーデンの俳優。どこかで何度か見た顔なのだが思い出せず。実は叔父に父を殺すよう仕向けたのが母親だったというトンデモ話の母親役がニコール・キッドマン。こういう”実は悪い”役が似合う。あんまり有名じゃないけれど、主人公の相手役のアニャ・テイラー=ジョイが良かった。この女優、魔法使いみたいな役が多く不思議な魅力を持ってて、大好き。

「メモリー」(22年 米)原題:Memory

実年齢でももうすぐ70歳になるリーアム・ニーソンがアルツハイマー病にかかり老いを感じている殺し屋役、ガイ・ピアースがそれを追うFBI捜査官の役。どっちも悪役じゃなく、ワルモノはみんな成敗されてしまうから、結果オーライのまあ、ハッピーエンドかな。「ザ・ヒットマン」(03年 ベルギー)のリメイクらしいが、見てるかも。

リーアム・ニーソンが殺人事件の目撃者の殺害を請け負うが証人が幼い少女だと知り殺せず、逆にシンジケートに狙われるハメに。ガイ・ピアースは酔っ払いに妻子を轢き殺されている刑事。心に闇を抱えた主人公たちの暗さが半端ない。

007シリーズで有名になった英監督マーティン・キャンベルらしく、アクション映画としても飽きさせなかった。



2022年6月5日日曜日

ロバの耳通信「アダム&アダム」「ミュンヘン 戦火燃ゆる前に」

映画好きならわかってくれるだろうか。映画が終わったあとエンドロールの流れるうす暗い劇場で、すっかり映画の中に入り込んだために残っている気持ちの高ぶりを感じながらも、映画が終わってしまったことに対する残念な気持ちに沈んでしまいすぐには席を立てないでいる。ネット動画なのにそんな気持ちを味わった。2作ともいい映画だったよ。ありがとうNETLIX。

「アダム&アダム」(22年 米)原題:The Adam Project

スジは磁性粒子加速器"アダム・プロジェクト"で時間旅行をするとか、それを悪用しようとする悪者と戦うとかいうトンデモ話なのだが、ライアン・レイノルズ(アダム・リード空軍大尉)がつもの明るい表情で、マジメに演じていて楽しめた。宇宙船との戦闘シーンなどもあるが、残酷シーンやエッチなところもなくアミリーで楽しめるSF映画。

12歳のアダリードのアダム・リードを演じた子役のウォーカー・スコベルが良かった。小柄で喘息持ちのいじめられっ子が妙に自分の若い頃と似ているようなそんな懐かしさも感じられた映画。


「ミュンヘン 戦火燃ゆる前に」(21年 英)原題:Munich The Edge of War

オックスフォードの同期生の2人。それぞれイギリスとドイツの外交官となり、ミュンヘン会談(198年 チェコ・スロバキアの領土をめぐる英チェンバレン首相とヒトラー総統の会談)世界大戦回避のための努力をするという、ロバート・ハリス原作の小説の映画化。

友情と使命の狭間で悩む英・独の若い外交官を演じたジョージ・マッケイとヤニス・ニーヴーナー、英チェンバレン首相役のジェレミー・アイアンズに脱帽。個人的にはいつも妖艶さと包み込む優しさを失わない独女優サンドラ・フラー「レクイエム」(06年 独)ほか)に久しぶりに出会えて嬉しかった。

歴史のなかのミュンヘン会談については曖昧ながら頭にありったが、この緊迫感に脱帽。NETFLIXはやっぱり裏切らないね。