「無垢の領域」(13年 桜木紫乃 新潮社)
桜木は中学生の頃、「挽歌」(56年 原田康子 61年新潮文庫)を読んで文学に目覚めたという。重い霧のような同じ雰囲気があるがるが、桜木のほうがもっと重いか。桜木の著作は、目を瞑っていると強くなる感覚、例えば匂いや音についての描写が多くて、どうしても引きずられてしまう。セリフがストレートじゃなくて、二度読みすると棘(トゲ)に気付いてしまう。セリフの間の短い文章もセリフを繋いでしまうから、文章に感情の切れ目がなくなる。たとえば、母が娘に小言を言い、そのあとが、こうだ
”もう好きにしなさいと母が言う。ずっと好きにしてきた、と思う。”(224p)
切れ目ない共感という意味では悪いことではないのだろうが、物語にドップリ浸かってしまう。その結果、読み終わってもメソメソした感情が払拭できずに、別の本に感情を移せないでいる。
純香という知的障害(らしい)女のコが哀しい。この本では結局死んでしまうのだが、そうでなかったらやりきれない。
この本のなかで、「シェルタリング・スカイ」(90年英映画、91年新潮文庫)が紹介されるが、こちらは砂漠を旅する中年夫婦の旅物語だからストーリーは全く違うのだが、何かが似ている。届きそうで届かないヒトのココロの間の距離みたいなものか。
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