「八日目の蝉」(11年 角田光代 中公文庫)
すごいと思うのは角田の筆の力である。序章(0章)の一行目から、私のココロをわしづかみにした。永作博美主演の同名映画(11年 邦画)では、いまひとつ乗り切れず、そうした偏見を持って読み始めた原作だったのだが。七日で死ぬといわれている蝉が、八日を生きたとき見るものについて悲観的なことを言う主人公に、その友人が言う「ぎゅっと目を閉じてなくちゃならないほどにひどいものばかりではないかも」の言葉がワタシには重い。過去に良い思い出が少なく、これからもそう楽しいことがあるとも思えないと泣き言を言いたくなる自分に、誰かが「そうわるいことばかりじゃないと思うよ」と、暗闇の向こうに見えるかすかな光明に希望を持たせる。うん、そうでも思ってなければ、トシを重ねる意味がないよね。
映画のほうは永作に加えて、もうひとりの主人公に、当時の飛ぶ鳥落とす若手女優の井上真央を据えた。役者としての井上を好きではないから強くおもうのだが、配役はとても重要だと思う。NHKでドラマ化されているようだが、 母親役に檀れい、娘役に北乃きいだとか。二人とも好きな女優だが、この原作に似合っているとは思えない。監督、配役、脚本をそろえなければならない映画に原作のハードルは高い、高い。
0 件のコメント:
コメントを投稿