「赦す人:団鬼六伝」(15年 大崎善生 新潮文庫)
偶然手に取った本だったが衝撃はすごかった。大崎は映画化された「聖(さとし)の青春」(15年 角川文庫、16年 邦画)の原作者として名前だけはうっすらおぼえていたが「あの」団鬼六の伝記を書いていたとは知らなかった。作家としての、また将棋指しとしての団鬼六の破天荒な人生を追いかけながら、鬼六に惹かれることをやめられない自らの人生も吐露している。鬼六を愛して止まなかった大崎が自分の人生と重ね合わせて、それぞれの時と場所をさまよっている。
鬼六の家系や両親の人となりなどは、時にはほら吹きにも思える鬼六よりの聞きとりが中心。だから、ノンフィクションとばかりは言えないのかもしれないが、鬼六の編集者としてあるいは友人として愛情をもって鬼六を描き切っている。鬼六の臨終を書いたページでは、鬼六を愛した人たちとの最後では涙がせり上がってきて、震える手で鼻をつまんで涙と鼻水をとめた。
映画で終わっていた「聖の青春」を読むときは、ひとりの時にしよう。若くして亡くなった聖は鬼六よりずっとかわいそうな気がする。愛した人も少なく、愛された時間もずっと短いと思う。「聖の青春」は雨の午後か深夜に読もう。
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