2020年12月13日日曜日

ロバの耳通信「三たびの海峡」

「三たびの海峡」(09年 帚木蓬生 新潮文庫)

精神科医でもある帚木の本では「臓器農場」(96年 新潮文庫)「閉鎖病棟」(97年 新潮文庫)が既読で、医者と患者の両方の視点で書かれた「深い」作品だったから、これもその類だと思い、タイトルと著者名だけで図書館から借りだしたのだが、「重い」小説だった。これほど日本人に迫害された韓国人のことを素のままに描いた作品をワタシは他には知らない。これでもか、これでもかと無言で日本人のワタシに反省を迫る。直球だ。梁石日をはじめとする在日作家たちが描いている日本人と韓国人の関係、恨みや蔑みばかりの変化球ーとはかなり違う。
帚木の描く韓国人には贖罪よりも韓国への憧憬もある気がする。帚木は、47年福岡県生まれ。当時ならダイアルを合わせれば普通に聞くことができた韓国ラジオ放送に、海峡を挟んだ隣国の歴史や精神文化を嗅ぎ取っていたのだろうか。当時は駅裏の朝鮮人部落に多く住んでいた虐げられた人々との交流もあったのかもしれない。それほど、本文中の韓国人が話す日本語のセリフは韓国人のソレである。
「三たびの海峡」は同名で映画化(95年 邦画)されているという。日本に徴用されて炭鉱で強制労働させられた朝鮮人河時根の役を三國連太郎が演じていると。適役だと思う。

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