「凶犯」(04年 張 平 新風舎文庫)
赴任してきた森林監視員と村人との間に起きた実際の事件を小説にしたものだとある。中国語の初版が01年だから新しい本ではない。とはいえ、中国の社会構造までも批判した小説が中国国内でベストセラーになり、日本語訳が文庫本として読めることにある種の感慨を覚えた。
事件の調査をした物分かりのいい上級役人を称える褒め殺しの本に終わるかと予想していたら、ことなかれ主義で事件を葬り去った結末に、得心してしまった。著者の張 平は著名なドキュメンタリー作家だという。官憲の息を感じる環境でも、こういう作品が生まれているようだ。開かれたようにさえ見える中国文学にもっと触れたい。
「獣の夢」(06年 中井拓志 角川ホラー文庫)
難解、予測不能のトリッキーな文章で、読者が怖がることを期待したのかと思わせるホラーミステリー作品だが、怖かったのは文章より内容そのもの。前半は小学生たちによる猟奇バラバラ殺人、後半は2チャンネルもどきのネット心中。この本が書かれた時代は、SNSはほとんどない頃。ネットで集まってのオレオレ詐欺やこの作品のようなネット心中が昨今流行っていて、中井の先見に驚く。
新型コロナ肺炎のせいで本屋や図書館に行くこともほとんどなくなって、電子図書に頼ることが増えた。旧式の7インチのタブレットは長く持つには重すぎ、布団の中で読むこともなくなり、いつでもどこでも読める文庫本が恋しい。
電子図書の良いところは、本の厚み(ページ数)をあらかじめ頭に入れていないと、紙の本のように残りのページ数を感じながら読むことができないから、終わり方の予想ができない。「獣の夢」も、夢中で読んでいたら、命綱を突然切られたような唐突な終わり方だった。うん、こういう楽しみ方もあるのかと。ミステリー小説はいつ終わるかわからない電子図書だからこその楽しみもある、まあ、紙の本が読めなくなったことの負け惜しみでもあるが。
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