まずは「カラスと呼ばれる少年」のサブタイトルで始まる物語に、面食らい右往左往した。村上の作品では、こういうこと、脈絡の一部が切れていてそこから物語に入るようなことは何度か経験していたから、慣れてはいたつもりだったがそれでも困った。カラスに語りかけられる僕って誰?。なんとかわかったふりをしてページをすすめ、100ページを超えたくらいから物語に入り込んでいたことに気付いた。

「海辺のカフカ」は終戦間際に少年少女たちの記憶が突然欠落するという不思議な出来事がありひとりの少年だけはもとに戻らず、結局は生活保護を受けながら迷い猫を探す仕事をするナカタという老人になってしまう物語と、15歳になったカフカ少年が家出をして図書館に住み始めるという2つの物語からなる。
2つの物語が、どこかで交差するのではないかという期待は、曖昧な形のままだが上巻が終わりそうになるところで繋がったのでホッとした。とにかくも、西への旅を続けていたナカタはカフカ少年の住む四国の高松に着いた。

新潮文庫は巻末に、同じ著者の本のリストと「加えて」ソノ本に関連の本のリストのページがある。曖昧な記憶だが、紹介文の付いたページがあるのは新潮文庫のほかは文春文庫くらい。文春文庫のソレは同じ著者の目録と新刊案内といったところか。
ハナシを新潮文庫に戻すと、「海辺のカフカ」の巻末にあった本のリストで、「海辺のカフカ」の中にも引用されていてワタシが触発されたたのが、「坑夫」(夏目漱石)、「オイディプス王・アンティゴネ」(ソポクレス 福田恆存訳)、「悪霊」(ドストエフスキー 江川卓訳)。こうして、読みたい本がまた増えてゆく・・。