「イモータル」(14年 萩 耿介 中公文庫)
インドで行方不明になった兄との会話が、このところ常となっているワタシ自身とワタシ自身との内なる会話のように、自然に染み入ってきて同調、泣きそうになった。その兄を探しにインドに旅立ち、先人に託されたのが「智慧の書」。ウパニシャッドやらショーペンハウアーやらフランス革命の闘士やら、ムガル帝国の皇子やらが時空を超えた物語として登場。これらの物語を「智慧の書」がすべて繋ぐ。物語の流れは哲学の入門書にも似て、生きることや死ぬ事やはては死なない事(イモータル)を主人公の周囲にいる者たちに「言葉で」語ってくれた。「わかるだろう、言わなくても」とかいう訳知りの曖昧さで本質をごまかされるのではなく、またありもしない寓話を譬えにして勝手な解釈をさせるでもなく、ドキュメンタリーフィルムや歴史書のように丁寧に語ってくれた。
どこかでこういう体験をしていると思い出したのが、テレビゲームの「ロールプレイング」だ。いつでも、どこにでも出かけ、冒険を楽しめるのだ。この「イモータル」も歴史をもう少し学んで読めばもっと楽しめそうな気がするが、意気地のないワタシは初心者モードでステージをクリアしながらボスキャラとの対決を待つ。これまでは中公文庫は固い本が多くて敬遠していたのだが、なかなか。本作が初めてとなった萩耿介にも興味。さあ、どれから読もうか。
「ケモノの城」(14年 誉田哲也 双葉社)
中盤から、読み進めるごとに嫌悪感。こんなのあんまりだ、耐えられない、虚構とはいえ誉田はよくこんな酷い物語を考えついたなと。ストーリーを簡単に紹介すれば、絶え間ない暴力によりマインドコントロールされた女たちが、次々にヒトを殺し、死体を刻み、ドロドロになるまで煮込んで、ペットボトルに入れて運び、捨てる。読んでいて吐きそうになるグロさ。誉田のとんでもない想像力に感心するとともに、電気による拷問、果てしない虐めや風呂場で体を刻み、関節を切り離すといった血生臭さに辟易しながらも、被疑者から真実を引き出そうとする刑事の心情と最終章の真犯人捜しのミステリーに嵌まり込んで「楽しんでしまった」悪魔のような自分自身にも愕然とした。
読み終えて、この作品が「北九州連続殺人事件」という実際の事件を題材に書かれたことを知り、「ケモノ」が実際に居たことに大きな衝撃を受けた。誉田はこの作品を発表した際の対談のなかで、ケモノはヒトではないと話していたが、これこそ人間の所業なのだ。恐ろしや、恐ろしや。実際に起きたことだから、どんな作り事より、怖い。ヒトにはこんなことができるのか。そうならば、ヒトは悪魔から生まれたに違いない。
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