2019年7月12日金曜日

ロバの耳通信「いのちの姿」「望郷」

「いのちの姿」(17年 宮本輝 集英社文庫)

珠玉の随筆集の中の10ページにも満たない一編「ガラスの向こう」にドキリとするほどの衝撃を受け、同時に宮本輝の作家としての才能を感じた。淡々とした文章で、突然の死が淡々と語られた。思いは断ち切られて、その後に再び静寂が来て怖くなった。

年齢を重ね、持病を恐れ、突然の家族との別れも視野のどこかで感じながらも必死に生にしがみついている自分。その自分に向けて、宮本が呼びかけている、もうすぐだよと、静かに。

解説のなかで行定勲が映画「泥の河」(81年 邦画)について書いている。幼い頃にこの映画を見て”美しいモノクロームの中に、いかがわしい闇”を感じ、映画館の帰りの「泥の河」の単行本を求めたと。ああ、そうか、そういうことをしたのは私だけではなかったのかと。
宮本の小説の中で語られる死はいつも突然で、さりげない。風が通りすぎるように当たり前のこととして語られる。美しくも汚くもない。ただの死。ただ怖い。

「望郷」(16年 湊かなえ 文春文庫)

島に生まれたということはこういうことなのか。短編集のどれも刺さってくる苦しさを感じ、地方に生まれたワタシが頷きながら読めた。人に囚われた暮らしという意味では似ていて、自分を守ろうとすればそこで戦うか逃げるかしかない。

湊かなえは「告白」(08年 のち松たかこ主演で映画化)のトラウマがあって遠ざけていたのだが、「望郷」もやっぱり辛かったが、天秤が偏ってしまわないだけの優しさや温かみも感じた。作家のが変わったのか、ワタシが変わったのか。
誰かの解説がイケナイ。小学校の作文並みだ。解説を先に読まなくてよかった。



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