2019年11月24日日曜日

ロバの耳通信「ブラックチェンバー」「絆回廊 新宿鮫10」

「ブラックチェンバー」(13年 大沢在昌 角川文庫)

大沢は「新宿鮫」シリーズ(91年~)以来、最も好きな作家のひとりだった。大沢の本を読んでいればいつも冒険心は満たされると信じ、本屋の棚ではいつも最新刊を探していた時期もあった。
それがどうだ、この「ブラックチェンバー」は。超法規の組織にスカウトされた刑事がロシアマフィアやヤクザ組織と戦うという、大沢の作品を読んできた私としてはまあ、ありえないが「許せる」ストーリー展開なのだが、次々に出てくるワルモノたちの人物の描き方がゼンゼン甘い。登場人物の多さは、文庫本600ページ超えだからしょうがないとしても、特徴ある描き方をしていないから、裏切りやドンデンガエシが面白みとして伝わってこない。

ウダウダとロシアンマフィアと日本のヤクザ組織の組織論を説明されてもね。あげくは主人公超法規の組織が、結局はインフルエンザのニセ薬利権やらでマフィアとヤクザの上前をはねるワルだったなんて、まあよく考えてくれたものだが、このスパイ映画風のシナリオを読者に納得させようとしている説明が長くて、長くて、途中で飽きてしまった。もしかしたら大沢自身、本当に悪の経済の仕組みをわかってないのかもしれない。
この面白くない本に、盗人に追い銭みたいだったのが早稲田大学客員教授某の解説。スケールのが大きいとか躍動的とかで作品のヨイショをしていたかと思えば、某教授は自らを国際ジャーナリストと高く位置づけ、米国の秘密暗号機関「ブラックチェンバー」の解説でページを稼いでいた。まあ、作品も解説もどっちもどっちか。

「絆回廊 新宿鮫10」(14年 大沢在昌 光文社文庫)

口直しをした。シリーズ9「狼花」(10年 同文庫)からずいぶん開いてしまっていたが、シリーズ10を探し出して読んだ。うん、やっぱり新宿鮫はいい。愛する者をなくしたりでシリーズの終わりが近くなっていることを感じさせる。中国残留孤児をテーマにしているのはこの時代らしいが、いま読んでも古さは感じさせないのは舞台となる新宿が変わっていないせいか。
後半は怒涛のストーリー展開で、ドラム打ちの効果音楽をつけたらデニーロの「タクシードライバー」(76年 米)の殴り込みシーンを彷彿とさせる迫力。やっぱり、大沢はこうでなくちゃ。
新宿鮫シリーズが11まで出てるらしい。早く読みたい、新宿鮫中毒が再発。いかん。

0 件のコメント:

コメントを投稿