2020年12月27日日曜日

ロバの耳通信「椿姫」浅田次郎漬けの日々・・

まとまった時間がとれたらやりたいと思ってたことが浅田次郎三昧。寒いし、コロナは怖いし、ネット動画もちょい飽き気味ということで、文庫本、電子ブック、朗読サイトなど総動員で浅田次郎漬けに浸ってみた。

「ラブレター」「鉄道員 ぽっぽや」集英社文庫)何度読んでも泣ける。”五郎さん”と手紙のなかで呼びかける中国人妻”白蘭”の声を夜中に寝床で聞きながら寝落ちしてしまい、朝、マブタが張り付いているのはいつものこと。中井貴一主演の映画も堪らない。同名の映画の韓国リメーク版も見たが、字幕版だしダイコン女優のせいでゼンゼンつまらなかった。

「獬(シエ)」「椿姫」文春文庫)飼い猫を失った独身女が立ち寄ったペットショップでヒトの哀しみを食べる”獬(シエ)”をもらう。文庫本で読んだときはそう感動もしなかったが、動画サイトで中井貴恵の朗読を聞いてマイってしまい鼻水が出た。いまさらながらだが、朗読の声は大事だ。


「マダムの咽仏」「椿姫」文春文庫)おかまバーのママが亡くなった話だけなのだが、若い頃、取引先のえらい人に連れられて何度か行った新宿2丁目のバーのママのことを思い出した。

「琥珀」「夕映え天使」新潮文庫)定年前の刑事が気まぐれに寄ったコーヒー店で、店主が時効直前の妻殺しの犯人だと気づく。ネルドリップのコーヒーの旨さと温かさにお替りを頼むシーンがあり、ペーパーでコーヒーを煎れてみたが、そう旨くなかった。ネルドリップの道具が欲しくなった、いつものカブレ癖。

「すいばれ」「霞町物語」講談社文庫)海の家で恋に落ちた大学生の物語。若い頃に見た石原裕次郎の「狂った果実」(56年 邦画)を思い出した。自分の生年から考えて封切り時ではなかったと思う。北原三枝の水着姿を見たような気がするが、「太陽の季節」(同年)の南田洋子の水着姿だったかも。焼けつくような夏の持って行き場のない焦燥感が懐かしい。

「うたかた」「見知らぬ妻へ」光文社文庫)、「遠別離」(「あやしうらめしかなし」双葉文庫)、「ひなまつり」「薔薇盗人」新潮文庫)、「月のしずく」「月のしずく」文春文庫)・・いい時間だった。

2020年12月23日水曜日

ロバの耳通信「ありがとうございます」

 「ありがとうございます」(07年 テレビドラマ 韓)


韓国ドラマは何度も挑戦しているが、通し(全話)で見たことがなく、その道の達人であるカミさんと会話。カミさん曰く、名作は何度見ても感動シーンで引き込まれ泣いてしまうと。いま、カミさんが飽きもせず何度も見ているのが「いとしのソヨン」(12年)で50話もある大作でおススメだと。韓国で最大の視聴率を獲ったと。ということでワタシも見始めたが、2話で挫折。で、何が気に入らなかったかを自分なりに検証してみたら、シリアス人生ドラマなのに場違いのコケティッシュな登場人物が出ることかと。

ヒロインのソヨンが映画のロケを蹴っ飛ばして、母親の危篤の報を受け盗んだオートバイで走るシーンや家庭教師として雇われた金持ちのバカ息子とのやり取りとか、お笑いじゃないだろとキレてやめた。カミさんに言わせれば、ソヨンが幾多の困難を乗り越え成長してゆくところが泣けると。わかるけど、途中でお笑いとか入れられたりすると萎えてしまうのだよ。ワタシは映画に没頭し、不条理や恵まれぬ運命に対する怒りや哀しみに浸るのが好みなのだから。

「冬ソナ」(02年)でも、叙情的な主題歌とCMの雪のシーンとかがが気に入り、さて本格的に見ようと始めた初話で大好きチェ・ジウがオチャメなJC役。なんじゃこれ、悲恋モノじゃなかったのかい、と続かず。

「ありがとうございます」では気の強いヒロイン(コン・ヒョジン)がHIVの幼娘(ソ・シネ)と認知症の祖父の面倒を見ながらミカンの通販屋をしながら、貧しいながらも歯を食いしばって生きてゆく物語。それを見守る外科医(チャン・ヒョク、この男優、気に入ったのでカミさんに聞いたら超有名な俳優だと)ほか芸達者を揃えスタートしたのに、脚本が悪いのか、ストーリーに統一性がなくシーンがアッチへ行ったりコッチへ行ったりで、アタマが混乱するばかり。ゾロゾロ出てくるほかの登場人物のキャラをいい加減にしたせいか、人物相関図を見てもドラマでの役割が良く分からないからドラマに入り込めない。2話目で、ワタシのお気に入りの外科医の恋人(チェ・ガンヒ)を膵臓ガンで殺してしまったから、先を見る楽しみも消えた。なんとかガマンして第4話の途中まで見て「やっぱり」放棄。途中を全部省略し、結末だけチェックしようと最終16話を見て、また萎えた。なんじゃ、この訳の分からん結末は、と。

韓国映画は好き。ただし、ノワールもの。悲恋はたまに見るが、コメディは見ない。映画は時間が限られているせいか、濃厚な気がする。韓ドラは50分もので16話が標準。当たらない切られ、当たると何話も続くのがテレビドラマの運命。とにかく、長いから間延びしてもしょうがないのだろうが、怖いのは怖いハナシばっかり、哀しいのは哀しいばっかりにしてほしい(勝手な言い草)。

2020年12月20日日曜日

★ロバの耳通信「少女外道」「凍土の密約」「鎮火報」

「少女外道」(13年 皆川博子 文春文庫)

裏表紙の”自分が苦しみや傷に惹かれる「外道」であることを知った”という私には初めての作家の短編集。どの作品も「少女」「外道」の軸のまま、古風だけれども、洗練された文章で書かれている。現在90歳の著者の70歳ころの作品らしい。医者でもあり心霊学者でもあった父親(塩谷信夫)の影響を受けたであろうと察せられるこの作品はミステリアスで官能的だが、いずれも太平洋戦争前後を舞台とし言葉も道具立ても古めかしいから若い人にはピンと来ないかもしれない。いずれにせよ昨今の小説とは一線を画するものとは異なるのは確か。

”「僕は溺死しかかっているんだから、近づかない方がいいよ。溺れそうになっている者は、手近にある何にでもしがみつくだろう。僕にしがみつかれたら、君も溺れる」「溺れてもいいです」千江は言った。”
というくだりがある、妙に共感を覚えた。心中の感覚を文章にするとこうなるのか。


解説を黒田夏子(小説家「abさんご」(13年 文藝春秋))が書いている。10ページ足らずの解説が的確でひとつの「作品」の重みを持っていることにも感動した。作品を読んだあとで、この解説を読んでほしい。私は解説のせいで、また本編をもう一度深読みせざるを得なくなったが、おかげでより共感を得ることができた。

「凍土の密約」(12年 今野敏 文春文庫)

今野の作品は刑事モノが多く、この作品も刑事モノの「凍土の密約」では公安刑事の主人公がロシアがらみの連続殺人事件を解決に導く。この主人公がロシア通で官費使い放題でロシア通商代表部の担当官とメシを食ったり、縄張り争いから警視庁の一般の刑事たちと反目したりするところは全く知らない公安警察の組織の話で興味深かった。一方、主人公が上の顔色を見ながら失点を恐れながらも公安部のエリート集団”ゼロ”を目指すところなど、会社員が企業の上位組織入りを狙うのに似て、どこも同じだなーという感想も。
一種と言えるのかもしれない。この表題は太平洋戦争後にロシアとアメリカで占領地日本の扱いで、現在の国境とは違う合意文書を作っていたらしいといういかにもありそうな話で、右翼の大物フィクサーが出てきたり、出版社に勤め情報を集める公安刑事やら、ロシアの女スパイやらもいて登場人物の多様さがストーリーに幅を持たせている。

昔、ロシアがらみの仕事をやった経験がありロシア通商代表部でジャム入り紅茶を御馳走になったり、結構親しくなった担当官もいたのでなんだか懐かしい気持ちになった。元駐ロシア外交官の佐藤優の本はほとんど読んだし、ロシアには何となく愛着を感じているし、ロシア料理大好き。

この公安刑事シリーズは何作かあるようだから、探して読みたい。

「鎮火報」(10年 日明恩 双葉文庫) 副題 Fire's Out

「埋(うず)み火」(10年 日明恩<たちもりめぐみ> 双葉文庫)で面白さに味をしめて読んだ消防士の物語。主人公ほかその母親、友人、同僚、はては行きつけの中華料理店のコックなど登場人物のキャラが際立っていて実に面白かった。続編、大いに期待。

2020年12月19日土曜日

ロバの耳通信「ウォー・ドッグス」「MI6 極秘指令」愛しの女優たち

「ウォー・ドッグス」(16年 米)

スキになった女優に会いたいから見る映画がある。wikiやinternet movie database のおかげで、女優名から映画の逆引きも容易になった。キューバ女優アナ・デ・アルマスがそう。それほど有名でもないが、私にとってはジェニファー・アニストン(「すべてはその朝始まった」(05年 米)ほか、ブラッド・ピットの最初の妻)や広末(涼子)並みの憧れの女優。
最初にココロを奪われたのは「ブレードランナー 2049」(17年 米)。「スクランブル」(17年 米仏)やキアヌ・リーヴス主演「ノック・ノック」(15年 米)も良かった。

「ウォー・ドッグス」は、イラク戦争の真っただ中、マイアミでマッサージ師をしながら高級シーツを老人ホームに売り込む仕事をしていたデビッド<アナ・デ・アルマスはデビッドの妻の役は、国防総省の入札システムに入り込んで海外の武器を売り込む仕事をしている中学の同級生エフレムを手伝うことに。一時大儲けしたが結局刑務所に。実話だと。騙し騙されでドキドキ、ハラハラで意外に面白かった。日本では未公開だというからDVDかネット動画で見るしかないけど。


「MI6 極秘指令」(08年 英・オーストラリア)

コレもスキになった女優に会いたくて見た映画。原題 False Witness/ The Diplomat テレビ映画らしく、日本では封切りされていないらしい。メに特徴があるクレア・フォーラニという女優が好きで、wikiから逆引きして見つけた。麻薬取引でスコットランド・ヤードに逮捕された外交官(ダグレイ・スコット)は、MI6のロシアンマフィア掃討作戦のオトリだったというなんだかどこにもありそうな、オカミの縄張り争いを題材にしたもの。クレア・フォーラニは、この外交官の元妻という設定で、当時36歳位。肌もキレイだし、オナカもぺったんのスタイルがいい。でもやっぱり、メがいい。

「ジョー・ブラックをよろしく」(98年 米)で死神ブラピに恋された役で有名になった女優でワタシもこの映画でまいってしいそれ以来のファン。

2020年12月13日日曜日

ロバの耳通信「三たびの海峡」

「三たびの海峡」(09年 帚木蓬生 新潮文庫)

精神科医でもある帚木の本では「臓器農場」(96年 新潮文庫)「閉鎖病棟」(97年 新潮文庫)が既読で、医者と患者の両方の視点で書かれた「深い」作品だったから、これもその類だと思い、タイトルと著者名だけで図書館から借りだしたのだが、「重い」小説だった。これほど日本人に迫害された韓国人のことを素のままに描いた作品をワタシは他には知らない。これでもか、これでもかと無言で日本人のワタシに反省を迫る。直球だ。梁石日をはじめとする在日作家たちが描いている日本人と韓国人の関係、恨みや蔑みばかりの変化球ーとはかなり違う。
帚木の描く韓国人には贖罪よりも韓国への憧憬もある気がする。帚木は、47年福岡県生まれ。当時ならダイアルを合わせれば普通に聞くことができた韓国ラジオ放送に、海峡を挟んだ隣国の歴史や精神文化を嗅ぎ取っていたのだろうか。当時は駅裏の朝鮮人部落に多く住んでいた虐げられた人々との交流もあったのかもしれない。それほど、本文中の韓国人が話す日本語のセリフは韓国人のソレである。
「三たびの海峡」は同名で映画化(95年 邦画)されているという。日本に徴用されて炭鉱で強制労働させられた朝鮮人河時根の役を三國連太郎が演じていると。適役だと思う。

2020年12月8日火曜日

ロバの耳通信「百瀬、こっちを向いて。」「あの人に逢えるまで」

 「百瀬、こっちを向いて。」(14年 邦画)

たまたまどこかで見た早見あかりの横顔が気に入って調べたら、この映画のカット。

映画評を見たら、高校生を主人公にした恋愛映画だと。ハヤリの少女マンガの映画化かと思っていたら、ちゃんと原作(同名 08年 中田永一 祥伝社)があった。



まいったな、久しぶりに泣きそうになった。よくできた脚本、早見あかりのために作られたんじゃないかと思える映画だが、ほかの配役も最高だった。ピアノ曲も。高校生主人公の恋愛映画なんて、舐めてたけど。

こんなに可愛いいコなんていなかったけど、自分にもこういう時代があった。懐かしくて、息苦しくて、胸がいっぱいになった。



「あの人に逢えるまで」(14年 韓国)原題:민우씨 오는날/英語題:Awaiting

30分弱の短編だから詳しい説明はされない。いつものように会社に出かけた夫が帰ってこない。妻は夫の好きな料理を作って、帰りを待つ。年老いてもずっと待ち続けるーとそれだけの映画。韓国の観客は最初のバスシーンでわかるのだろうが、ワタシには夫が帰らない理由が南北問題だったことに途中で気付き、ああそういう映画だったのかと。「シュリ」「ブラザーフッド」で南北問題を題材にした名作を手がけたカン・ジェギュ監督の作品。

映画のツリでは”究極のラブストーリー”とあったが、なんだか違うだろうと。再婚もし、アメリカに住む娘もいる。出かけていって帰ってこなかった(最初の)夫のことを、ボケが始まった老女が思い出しているそんな映画なんだよね。

夫が帰らない理由はどうでもよくて。いや、この南北分断による家族の別離にどうでもよくてという言い方は拙いだろうが、拉致、カミカクシ、事故などの生き別れ、いや死別もあるだろうから、ワタシがこの映画で感じ入ったのが”ずっと待つ”という寂しさ。

いちばん記憶に残っているシーンが、家の前で待つ若い妻の姿。玄関前の石畳の線に沿って足を置く、どこかで何度も自分がしたような記憶。悲嘆にくれ泣き叫ぶのではなく、自分ではどうしようもない辛さが通り過ぎてゆくのを待つ時の仕草。思い出し、泣けるのはこの映画の妻の姿ではなく重ね合わせた自分の過去。

2020年12月2日水曜日

ロバの耳通信「凶犯」「獣の夢」

「凶犯」(04年 張 平 新風舎文庫)

赴任してきた森林監視員と村人との間に起きた実際の事件を小説にしたものだとある。中国語の初版が01年だから新しい本ではない。とはいえ、中国の社会構造までも批判した小説が中国国内でベストセラーになり、日本語訳が文庫本として読めることにある種の感慨を覚えた。

事件の調査をした物分かりのいい上級役人を称える褒め殺しの本に終わるかと予想していたら、ことなかれ主義で事件を葬り去った結末に、得心してしまった。著者の張 平は著名なドキュメンタリー作家だという。官憲の息を感じる環境でも、こういう作品が生まれているようだ。開かれたようにさえ見える中国文学にもっと触れたい。


「獣の夢」(06年 中井拓志 角川ホラー文庫)

難解、予測不能のトリッキーな文章で、読者が怖がることを期待したのかと思わせるホラーミステリー作品だが、怖かったのは文章より内容そのもの。前半は小学生たちによる猟奇バラバラ殺人、後半は2チャンネルもどきのネット心中。この本が書かれた時代は、SNSはほとんどない頃。ネットで集まってのオレオレ詐欺やこの作品のようなネット心中が昨今流行っていて、中井の先見に驚く。

新型コロナ肺炎のせいで本屋や図書館に行くこともほとんどなくなって、電子図書に頼ることが増えた。旧式の7インチのタブレットは長く持つには重すぎ、布団の中で読むこともなくなり、いつでもどこでも読める文庫本が恋しい。
電子図書の良いところは、本の厚み(ページ数)をあらかじめ頭に入れていないと、紙の本のように残りのページ数を感じながら読むことができないから、終わり方の予想ができない。「獣の夢」も、夢中で読んでいたら、命綱を突然切られたような唐突な終わり方だった。うん、こういう楽しみ方もあるのかと。ミステリー小説はいつ終わるかわからない電子図書だからこその楽しみもある、まあ、紙の本が読めなくなったことの負け惜しみでもあるが。