2022年8月30日火曜日

ロバの耳通信 「サイド・エフェクト」「リミット・オブ・アサシン」

 「サイド・エフェクト」(13年 米)原題: Side Effects

監督がスティーブン・ソダーバーグ(!ビックリマークがつくほど好き)、脚本がスコット・Z・バーンズ、配役がジュード・ロウ、ルーニー・マーラ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、チャニング・テイタムとくれば面白くない訳がないのだが、100分強の映画の7割方はダラダラと続く。R15なのはあまり意味のないベッドシーンとか女同士のラブシーンのせいか。鬱患者(ルーニー・マーラ)が処方薬の副作用で苦しむシーンの連続は、映画を見てる方も不安が高まるが、平坦なストーリー展開にやや辟易。ルーニー・マーラはタダでさえ鬱陶しい表情だからゼンゼン好みじゃなく、いかにも鬱患者。

鬱患者とメンヘラは違うと思うが、ワタシに張り付いてくれるメンヘラのかわいいコならちょっと憧れる。このトシになるまで、女性にモテた経験がほとんどないから、メンヘラでも歓迎したい気がする。うん、繰り返すけれど、ルーニー・マーラは嫌い。

ラスト近くで謎解きされるのだが、鬱も副作用(Side Effects)も詐病で、精神科女医(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)とグルになって抗鬱薬を販売している薬品会社の株価操作を狙ったサギ(ルーニー・マーラ)がこの映画の主人公。結局、詐病患者が騙そうとしたかかりつけ精神科医(ジュード・ロウ)に仕返しされて精神病院で薬漬けにされるという一応の勧善懲悪にまとめてあるけれどもなんだか後味は良くなかった。映画の口コミはかなり良かったけれど、豪華配役のみんなに華を持たせようとしたのせいでストーリーにメリハリをつけることができなかった失敗作だと思うよ。女は怖い、医者は怖い、薬は怖い。


「リミット・オブ・アサシン」(17年 南ア・中・米)原題:24 Hours to Live

組織に雇われた殺し屋(イーサン・ホーク)が殺される。のっけから派手なドンパチで楽しめたが早々と主人公が死んじまうなんて、おいおい、映画始まったばかりだぜ。

組織は殺し屋が死ぬ直前に前に得た情報を聞き出すために組織に、一時的に一日だけの期限で生き返らされる。殺し屋は復讐のために必死であがくというのがこの映画のスジ。死んだ人間を生き返らせるとかの荒唐無稽の設定はあるが、時間を切られたストーリーはアップテンポで進み、飽きさせない。

インターポールのエージェント役で出演している中国女優の許晴(シュイ・チン)が撮影当時50歳近い年齢のハズだがワタシ好みの色っぽさ。スタイル抜群でアクションの動きもよく、一度見ただけで好きになった。wikiによれば、「LOOPER/ルーパー」(12年 米)にも出ていたらしいのだが思い出せない。また「LOOPER/ルーパー」を見てみよう。

「リミット・オブ・アサシン」を今回初めてみたが、実に面白かった。またまた新しい発見。動画サイトめぐりのさすらいの旅は続く。 

2022年8月25日木曜日

ロバの耳通信「INTERCEPTOR/インターセプター」「7月22日」「オスロ、8月31日」

「INTERCEPTOR/インターセプター」(22年 米・豪合作)原題:Interceptor

ミサイル迎撃基地に配属された女性大尉が、孤軍奮闘しテロリストによるミサイルを撃ち落とすという女性版ダイ・ハード映画。制作陣も主演もなじみのないキャストだが、”手に汗握る面白さ”。世間では評価点が3点がやっとというB級作品の扱いなのだが、ワタシには超面白くてトイレも我慢していたくらい。

映画の面白さなんて、結局は個人の好みなのだろうから、アレが良かった、コレが気に入ったといくら書いても伝えられないだろうけれど、ゼッタイ勧める。22年上半期のベスト・ワン!



 「7月22日」(18年 ノルウェイ)

Netflix<米ネット配信会社>のおかげで、世界中の映画やテレビドラマを見れるようになった。2011年にノルウェーで実際に起きたネオナチ狂信者による連続テロ事件をドキュメンタリー風に描いている。警官に化けて政府のビルを爆破するわ、サマースクールに参加中の若者を自動小銃で撃ち殺すわで50人近くを殺したひとりのネオナチ狂信者側からの視点が多く、打ちひしがれたノルウェー首相との面談の際に首相に遺族のひとりが言う「あなたが悪いんじゃない、頑張ってね」って、どういう意味かと考え込んでしまった。ネオナチの主張は、移民受け入れの反対(らしい)。マスコミは、テロを防げなかった政府への批判。普段見ることの少ないノルウェーの映画だったが、うーん、この映画の主題は何だ。映画は主張がないと共感も反発もできない。ノルウェー国民はこの映画をどうとらえたのだろうか。



ノルウェー映画といえば「オスロ、8月31日」(11年)が印象深い。題名のつけかたが似ている。主演は「7月22日」と同じアンデルシュ・ダニエルセン・リー。ドラッグ依存の治療中の青年が、オスロの旧友たちを訪ねる。そこに安息はなく孤独感が強まるだけという暗い物語。で?と聞かれても答えには困るが、青年が都会で感じる都市生活への憧れやそれよりずっと大きな不安や疎外感。わかるような気もするが、こういうのはごめんだ。

2022年8月20日土曜日

ロバの耳通信「ヤクザと家族 The Family」「ホムンクルス」

 「ヤクザと家族 The Family」(21年 邦画)

監督・脚本(藤井道人)が34歳、主演(綾野剛)が39歳。だからどうしたもないけれども、こういう時代になったのかと勝手に感慨。調べても原作についての情報が出てこないから、脚本だけしかないのかもしれない。ヤクザ役の綾野の演技は素晴らしかったが、長すぎてダレた。

ヤクザの組長役を舘ひろしにしたから、ヤクザをワルモノにもできないどころか、家族扱いにしてカッコ付けをしたから面白くも何にもない映画になってしまった。父親を亡くしたグレにーちゃんの綾野がチンピラの覚せい剤をかっぱらい、ヤクザに追い回され、ボコボコにされるところがこの映画のヤマで、あとはダラダラと下るばかり。クラブで働く尾野真千子とイイ仲になるが、尾野真千子の役が女子大生だと。尾野真千子の挑むような眼つきは好きだが、女子大生役はないだろう。主役以外の配役が全くイケナイ。


「ホムンクルス」(21年 邦画)では綾野は新宿の公園近くで車上生活をするホームレスを演じていたが、これはなかなか面白かった。こっちの映画は、マンガとはいえ原作(山本英夫「週刊ビッグコミックスピリッツ」(03年~ 連載)もしっかりしているし、監督(清水崇)も脚本(内藤瑛亮、松久育紀、清水崇)も充分推考されていると思われ、映画はこうでなきゃと思わせる作品。

なにより「ヤクザと家族 The Family」と違い、配役に名前ばかり有名な役者を並べる愚を犯していない。ホムンクルスとは”ラテン語:Homunculus:小人の意、ヨーロッパの錬金術師が作り出す人造人間、及び作り出す技術のことである”ーwiki とある。この映画、片目を隠して見ると違うものが見えるという不思議な世界を題材にしたにも拘わらず、ストーリー展開の面白さを殺すこともなく、綾野のキャラを生かした映画作りの成功例だと思う。 

2022年8月15日月曜日

ロバの耳通信「AK-47 最強の銃 誕生の秘密」「トマホーク ガンマンvs食人族」

 「AK-47 最強の銃 誕生の秘密」(20年 ロシア)原題:Kalashnikov/AK-47

旧ソビエト連邦の自動小銃AK-47の設計者カラシニコフの伝記映画。うーん、うまく言えないがロシア映画、特に戦争モノ、伝記モノは地味だが優れた作品が多い気がする。ヒトの描き方がウマいのだろう。勧善懲悪の日本のヤクザ映画にも通じるものがあって、理解のある親分(この映画では、エラい軍人たち)に助けられるというのもロシア映画の特長、ーというかエライ人を悪く言わないというロシアの伝統なのかなぁ。

ロシア映画じゃなかったけれど、ジュード・ロウ主演の「スターリングラード」(00年 米ほか)と同じテイスティングかな。これも超面白かったけど。


「トマホーク ガンマンvs食人族」(15年 米)原題:Bone Tomahawk

題名はC級映画のソレだし、グロシーンだけが話題になって、まあ、この映画を探して見たのもソレが理由だったのだが、とんでもなくマジメで奥行の深い映画だった。ガンマンとか食人族とかゼンゼン似合わない自然豊かな西部劇だったし、カート・ラッセルほか配役も製作陣も一流。

原住民に連れ去られた町の住人を取り戻すために旅立った保安官など4人の男たち。映画の大半は地味な追跡シーンと4人の会話で退屈するほどだが、後半の奇妙な咆哮音を出しながら襲ってくる原住民との戦いが怖い。敵は弓矢や骨で作ったとみられるトマホークで襲ってくるのだから銃で撃たれるより、痛そうで怖い。アタマの皮を剥ぐところはインデアンを象徴しているようだが、淡々と進められる殺戮シーンは断トツの怖さ。観客を充分に怖がらせたることに成功したのだからハッピーエンドにしなければよかったのにと思ったりして。

2022年8月10日水曜日

ロバの耳通信「第7鉱区」「アンダー・ザ・ウォーター」

「第7鉱区」(11年 韓国)原題:Sector7

東シナ海にある石油ボーリング基地が舞台。基地内で密かに飼われていた”エネルギー源となる”未知の深海生物が巨大生物に育ち、基地の人々を襲う。暗い通路に突然現れるのは「エイリアン」(79年 英米)のノリ。バケモノの顔は「バイオハザード」(96年 プレステゲーム)のラスボス風。触手が伸びる、並んだ歯が「ヴェノム」(18年 米)に似ている。前半は退屈、後半のバケモノと主役ハ・ジウォンの壮絶死闘はエイリアンとシガニー・ウィーバーのソレを彷彿させる迫真の出来だが、ハ・ジウォンではシガニー・ウィーバーの色っぽさには到底敵うべくもない。
海中シーンや巨大な石油基地が舞台だから、3Dで見たらもっと感動したかも。

 日韓大陸棚協定で日韓が共同開発に着手しながら頓挫しているとのテロップで終わるが、それがどうしたと蛇足のラスト。

「アンダー・ザ・ウォーター」(17年 デンマーク・フィンランド・スウェーデン合作)原題:QEDA

2095年、海面上昇で塩害被害のため動植物が絶滅。過去に海水を真水に変えるエビを研究していたが飛行機事故で亡くなった研究者の命を救うべく、量子網分離宮(QEDA)というタイムマシンのような仕組みを使い、過去に戻るというSF映画。QEADの仕組みなどが思い切り曖昧だし、過去を変えると歴史が変わるというパラダイムへの答えも法律違反ということで割り切っているし、まあ、SFだからしょうがないか。原作か脚本がシッカリしている事と、配役、カメラワークや効果音など丁寧な映画作りのためか、記憶に残る良い作品だった。
近年、こういう落ち着きのあるいい映画が少なくなったような気がする。皆、急ぎすぎているのだろうか。

2022年8月5日金曜日

ロバの耳通信「A.I.ライジング」

 「A.I.ライジング」原題: Ederlezi Rising (18年 セルビア)

セルビアという国の名前以外に思いつくことがなく、映画も初めてだと思う。長期の宇宙飛行のあいだの宇宙飛行士と女性型アンドロイドの関係の変化を描いている。男がなんでも意のままになるアンドロイドに不満を持ち、人間性を求めたためにお互いが破滅の道を歩むという、まあ、ありそうな話ではある。

アンドロイドを演じるスロベニア生まれのストーヤの演技がいい。アメリカのポルノ女優でもあるというストーヤが細身のファッションモデルのように美しい。

膨らむのは妄想ばかり。いろいろな意味で意のままになる異性というのはなんとも羨ましいと思うのだが。



「チ。-地球の運動について-」(20年~ 魚豊 小学館ビッグコミックスピリッツの連載漫画)

漫画で衝撃を受けた。ジジイながら漫画で衝撃を受け、電子版ながら寝るのも惜しんで、一気読みしてしまった。

15世紀のキリスト教と異端の地動説の戦い。鮮烈と残酷。異端を排除する宗教の恐ろしさに戦慄。とにかく、まいった。魚豊には「聖書」を書いて欲しい。是非。

2022年8月1日月曜日

ロバの耳通信「蒼穹の昴」「中原の虹」

 「蒼穹の昴」「中原の虹」

日清戦争~太平洋戦争の頃の上海・奉天・北京などの中国を舞台にした歴史小説。馴染みのある都市名や実在の人物名、史実が散りばめてあるのでノンフィクション小説の趣もあり、作り物だらけの娯楽作品とは異なり、じっくり腰を据えて楽しむ事ができた。2作品、合計8冊、全3000ページあまりの大作だが、まさに寝る時間も惜しむくらい夢中になってしまった。ずいぶん昔、全13巻を寝食忘れて読みふけった「三国志」(01年 北方謙三 ハルキ文庫)以来だろうか。


浅田次郎の作品は、いわば掌編の恋愛小説の塊(かたまり)だと思う。

たとえばこの「蒼穹の昴」では、大作の中ではほんの脇役でしかない小役人の「復生」が一緒に住み始めた恋人「玲玲」に言う。

”「私は家というものを知らないから、大好きなあなたにも何をしてあげていいんだか、どうすればいいんだかわからないです。」”

小さな頃に肉親・兄弟を流行り病で失った復生の言葉はたどたどしくも、ズシンとくる。

”「あなたのことを一生愛し続けていいですか。

死ぬまで、あなたのことを、今と同じように愛し続けていいですか”(p1056 原文のママ)

たどたどしいセリフである。浅田の作品では後先に、こんな情感に溢れた言葉がイッパイ出てきて、何度も読み返し。読み終えて、数日たって、感動を反芻したくて、ページを何度も戻ったりした。

このたどたどしいとした愛情表現は、「ラブ・レター」(97年 浅田次郎 集英社「鉄道員(ぽっぽや)」)で、在留資格を得るために「吾郎」と偽装結婚し、病死した中国人売春婦「白蘭」が吾郎にあてたの手紙のなかで「吾郎さん、吾郎さん・・」とたどたどしい日本語で呼びかけるところとソックリだ。つまりは、私には「泣かせる」小説なのだ。

泣くためだけにこの大作を何度も読むことになるだろう。

とあれ、浅田次郎はいい。