2022年8月1日月曜日

ロバの耳通信「蒼穹の昴」「中原の虹」

 「蒼穹の昴」「中原の虹」

日清戦争~太平洋戦争の頃の上海・奉天・北京などの中国を舞台にした歴史小説。馴染みのある都市名や実在の人物名、史実が散りばめてあるのでノンフィクション小説の趣もあり、作り物だらけの娯楽作品とは異なり、じっくり腰を据えて楽しむ事ができた。2作品、合計8冊、全3000ページあまりの大作だが、まさに寝る時間も惜しむくらい夢中になってしまった。ずいぶん昔、全13巻を寝食忘れて読みふけった「三国志」(01年 北方謙三 ハルキ文庫)以来だろうか。


浅田次郎の作品は、いわば掌編の恋愛小説の塊(かたまり)だと思う。

たとえばこの「蒼穹の昴」では、大作の中ではほんの脇役でしかない小役人の「復生」が一緒に住み始めた恋人「玲玲」に言う。

”「私は家というものを知らないから、大好きなあなたにも何をしてあげていいんだか、どうすればいいんだかわからないです。」”

小さな頃に肉親・兄弟を流行り病で失った復生の言葉はたどたどしくも、ズシンとくる。

”「あなたのことを一生愛し続けていいですか。

死ぬまで、あなたのことを、今と同じように愛し続けていいですか”(p1056 原文のママ)

たどたどしいセリフである。浅田の作品では後先に、こんな情感に溢れた言葉がイッパイ出てきて、何度も読み返し。読み終えて、数日たって、感動を反芻したくて、ページを何度も戻ったりした。

このたどたどしいとした愛情表現は、「ラブ・レター」(97年 浅田次郎 集英社「鉄道員(ぽっぽや)」)で、在留資格を得るために「吾郎」と偽装結婚し、病死した中国人売春婦「白蘭」が吾郎にあてたの手紙のなかで「吾郎さん、吾郎さん・・」とたどたどしい日本語で呼びかけるところとソックリだ。つまりは、私には「泣かせる」小説なのだ。

泣くためだけにこの大作を何度も読むことになるだろう。

とあれ、浅田次郎はいい。

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