2016年4月12日火曜日

ロバの耳通信「채식주의자(菜食主義者)」



書評には「衝撃のために手で口をふさいで読まなければならない本」(オプラ・マガジン)とある「菜食主義者」(韓江 株式会社クオン 新しい韓国の文学 01 )。韓国の文学を読む機会は少ない。梁 石日や柳美里の作品はハナから日本語で書き下ろされたものだから韓国人の著作ではあっても、ちょっと違う。

とにかく怖い。平凡だったはずの妻が突然に菜食主義者になり狂ってしまうというだけのスジなのだが、その妻の変貌してゆく様が「ありそうで」怖い。元となった「蒙古斑」という作品では菜食主義者になった妻が植物になるというだけの展開が、この連作では妻の蒙古斑が義兄による性の対象となり狂気の世界に引き込まれてしまう。とても女性作家が書いたとは思われない生々しさだ。翻訳も韓国女性だが邦文がとても自然だから、怖さが行間のすこし黄味がかった紙から本を持つ手に這い上がってくる。映画化され「花を宿す女」という邦題で公開、DVD化されたようだが本と映画の両方を経験した方々からは「映画は(つまらないから)見ないほうが良い」と。

原作と映画の両方を見た岩井志麻子の「ぼっけえきょうてい」は本の方が格段に怖かった。映像は醜さを押し付けてくるから目をつぶれば良いが、本は自分を際限ない想像の世界に押しこめてしまうから、簡単には抜けられない。

最近読んだ本で最も怖かったのは「残穢」(新潮社 小野不由美)だが、こちらは小説の禁じ手である超常現象、つまりはオバケだったから信じるかどうかは本人次第ということで、せいぜい夜中にお便所の電気を点けるときの気味悪さくらいだったが、「菜食主義者」の怖さは日常に潜む狂気がすぐにでも「おきそう」なのだ。

2016年4月5日火曜日

ロバの耳通信「BABYMETAL」

BABYMETALのアルバム「METAL RESISTANCE」を入手できたので報告。

16-18歳の3人娘グループがヘビメタ風(・・ヘビメタじゃなくて、この風というのがいい)のバックバンドを従え、踊って、歌ってというなんともジジイには似合わないし、朝霞市の女子中学生誘拐事件の犯人が捕まったばかりのタイミングだから、ちょっとこの系統にはいるかとの誤解を受けそうだが、ワタシは決して(!)そうではない。とはいえBABYMETALはアイドルグループさくら学院(2010年~女子小中学生の集団)の卒業生だから、限りなくアヤシク見えるのだろうね。

スタジオアルバムの収録曲は「Road of Resistance、KARATE、THE ONE」など、新しめの曲は一通りそろっているから、ベストヒットの「イジメ、ダメ、ゼッタイ、メギツネ、ド・キ・ド・キ☆モーニング、ギミ・チョコ」を加えてマイアルバムを作ることに。

メギツネ
https://www.youtube.com/watch?v=cK3NMZAUKGw


バックバンドのBABYBONE(骨バンド)は当て振りだけだが、ライブの際の神バンドは白装束でビジュアルの印象が強いが、特にギターとベースは世界でも通用するレベル。ライブに行ってみたいが、ジジイが行ったらやっぱ、オカシイだろうな。

2016年4月1日金曜日

ロバの耳通信「レヴェナント 甦りし者」「スポットライト 世紀のスクープ」

「レヴェナント 甦りし者」(05米)
ワタシの予想に反して、アカデミー賞をもらったと。見どころは自然。登場人物の全員が暗く、映像もずっと暗いまま。差別、親子の絆、憎しみ、自然の厳しさなどなど伝えたいことは沢山あるのだろうが、太目で仏頂面のディカプリオは「ギルバート・ブレイク」(93米)で見せた繊細さも、「タイタニック」(97米)の溌剌さも、「ディパーテッド」や「ブラッド・ダイヤモンド」(06米)の男らしさもこのレヴェナントでは見せてくれなかった。ディカプリオを好きな理由は端正な顔立ちの中にある気の弱さやあきらめ、ときどき覗かせる傲慢さといった、人がみんな半分は持っている「陰」のためなのだが、今回は全部押しこめたまま。チカラ入りすぎじゃないのかな。

サバイバル映画ではインデアンの女が極地をさまよう・・みたいな映画があって、どうしても題名を思い出せないから紹介できないのが口惜しいが、そちらのほうがずっと良かった。

レヴェナントの原作は「蘇った亡霊:ある復讐の物語」(マイケル・パンク The Revenant: A Novel of Revenge)とある(wiki)。読みたいが邦訳がない。誰か翻訳してくれないかな。

「スポットライト 世紀のスクープ」(05米)
こっちは予想通りのアカデミー賞。蔓延したカトリック司祭の性的虐待(実話)を題材にしたボストングローブの記者たちの物語で、タブーを正面から描いた作品はアカデミー賞好みか。

主役級で出演のリーヴ・シュレイバー(ナオミ・ワッツのダンナ)が良かった。個性のあるマスクなのに「ラスト・デイズ・オン・マーズ」(03米)以来いい役に恵まれていないのが残念。マイケル・キートンはいつも通りいい演技だが、「バットマンシリーズ」の印象が強くバッドマンのイメージと重なってしまう。昨年のアカデミー賞など映画賞総なめの「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(14米)も元スーパーヒーローの役。悪役のほうが合いそうな顔をしていると、ワタシは思う。うん、悪役は好きだよ。

権力を持つものを新聞記者が追い詰めるという作品では「大統領の陰謀」(76米)、「スクープ 悪意の不在」(81米)、「ペリカン白書」(93米)などなど名作が多い。勧善懲悪が市井の人々の願いなのだから日本の新聞にももっと頑張ってもらいたいと思うこの頃。

2016年3月28日月曜日

ロバの耳通信「あやうく殺人」

始発電車を待って座った帰り、発車間際に乗ってきた2人連れの女性が私の前に立つ。電車が動き始めるのを待っていた様におしゃべりが始まった。おしゃべりというより、年嵩の方の声高な誰かの悪口を、若い方が大きく頷きながら聞いている。<おいおい、それはいけないよ、こういうところでは軽く受け流すだけにしてくれませんか。>年嵩はわが意を得たとばかり、機関銃を撃ちだした。<ちょっとちょっと、ここは電車の中。となりのヒトにしゃべるのにそんなに大きな声出さないでくれませんか>
若い方も、負けずに撃ちだした。こちらも機関銃。ふたりで、共通の誰かの悪口雑言を叫びあっている。応戦ではなく、共感し叫びあっているから、トーンは益々高くなり、ケンカではないので制止するヒトもいず、延々と撃ち合いが続く。楽しみにしていた文庫本の続きにとりかかったものの、目の前の機関銃音のためか全く集中できない。右隣の私と同年輩の男性はすでに白川夜船。<あんた、こんな状態で、よく眠れるますね>左隣はスマホを抱えた若い男性。イヤフォンから音を漏らしながら、ゲームに夢中<きみ、それは賢いですよ>
どうしても本に集中できない。マイケル・グルーバーの夜の回帰線の上巻の終わり近く。プロットが込み入っているので、ちゃんと読まないと下巻の出だしでスジがわからなくなってしまうし、明日、もう少しで終わる上巻と下巻の2冊をカバンに入れておくのも業腹。できれば、予定通り上巻を下車までに終えたい。あいかわらず年嵩の意地の悪い顔がちょっと横を向いて、若い方に機関銃を打っている。意地の悪い顔。若い方も底悪に思えてきた。<もう、勘弁してくださいよ。本読みたいんですよ、ちょっとで良いから黙っててくださいよ>
いくつかの駅を過ぎても、機関銃は治まらない。私は、文庫本の読みかけのページに指を挟んだまま、目を閉じ、時間が過ぎるのを待つ。席を立ってしまえばいいのだが、折角座った場所。抱えたコートやカバンを持って、込み合った電車のなかを移動するのもメンドウ。<拳銃がほしい。バーン!>
私が降りるひとつ前の駅で、若い方が降りた。相手のいなくなった年嵩は突然機関銃をしまい、静かになる。年嵩の顔は相変わらず憎憎しい。殺意は去らない。<オマエのせいだ>
殺人なんて、こんなツマラナイことからおきるのではないのだろうか、と思う。

ロバの耳通信「活字中毒」「ギフテッド」

活字中毒なので本は手放せない。雑誌などは7インチのタブレットでも充分だが、ハードカバーの読みやすさと文庫本の手軽さは「紙」でジックリ反芻しながら味わいたい。最近の電子ブックリーダーはかなり読みやすくなっているとで大型書店で試させてもらったが、染入るような活字のキレイさと行間の広がりの豊かさでは「紙」のほうがずっといい。
ブログや書店の広告で面白そうな本を見つけると、図書館に予約を出す。順番待ちの番号が段々少なくなってくるのを見る楽しみは、私鉄の駅の改札口から吐き出される紺色の制服のなかに彼女を探すようなドキドキ感に似ている。数字は中々減らなかったりするのだが。
自室に積んでハードカバーはとっておきの楽しみでこれは非常食。
山田宗樹「ギフテッド」(2015年幻冬舎)。この本を読むようになったのは、図書館でカミサンから「おとーさんの好きそうなタイトルじゃないの、借りたら」の一言だった。幻冬舎の本で外れたことはほとんどないし、確かに魅かれるタイトルだった。プロローグが「職員室」から始まるし、生徒たちの会話も多いからはやりのLN(ライト・ノベル)風なので、ああここから憧れの先輩とかが出てきて恋するオトメがでてくるのかとはやくも脳が拒否反応を起こし出したところ(実は、LN-この手のハナシは嫌いなのだ)、第一章の「異物」という題目だけでもオドロオドロシイ、うん実にワクワクする本編はスティーブン・キングかナイト・シャマランかと思われるほど。結末の脈略が曖昧になった「ハッピーエンドにしたから許してね」の締めはちょっと残念だったが、奇異な始まりの物語の落とし前はこうするしかないのだろう。
おなじ著者の2冊目は「人は、永遠に輝く星にはなれない」。タイトルの付け方がうまいなー、目次の題目も。この著者にハマりそうな気がする。