2023年9月10日日曜日
ロバの耳通信「にぎやかな天地」
装丁の仕事をしている青年が日本の伝統的な発酵食品の豪華本を手掛けることになり、各地の職人を訪ねるうちに微生物にハマるという物語。宮本の得意とする「うん蓄」がここでも語られる。うん蓄そのものはにわか仕込みのところも感じられやや鼻につくが、多くの登場人物が魅力的に語られ飽きない。特に家族や友人たちとの会話はイキイキしていて愛情深い。宮本の病歴などを知っているから彼が困難な人生を経てきたことはわかるが、宮本が慈愛あふれた両親に育てられ、雑多で豊かな友情に囲まれて育ってきたことに疑いはない。<自伝小説「流転の海」(82年~)>
宮本の小説にハマることがいくつかあり、そのひとつが登場人物に語らせるセリフの奥行きの深さだ。「にぎやかな天地」では「勇気」について教えられた。”どんなに弱い人間のなかからでも勇気はでてくる。 その人のなかに眠っていたいたおもいもよらない凄い知恵と思いやる心が自然についてくる。困難に立ち向かうための勇気を出すには、自らを叱咤し、ひるむ心と闘って、自分の意志で、えいや!と満身に力を込める以外に、いかなる方法もない”(上巻p256)。普段から根性なしの暮らしをしていて、困難にあたるといつもメゲてしまい死んだふりをするか、いつも尻尾を巻いて逃げ出してしまう自分に、宮本の言葉を言い聞かせてはいるのだが。
2023年8月30日水曜日
ロバの耳通信「アンキャニー不気味の谷」「メッセージマン」
まだまだ知らないことが多いことに気付く。長く生きてきたのに、まったく知らない言葉に出会った。この映画の題名だ。劇中でも紹介されるが、日本のロボット工学者の森政弘が70年に提唱した説「不気味の谷現象」からきている。ロボットを進化させ、人間に近くしてゆくとあるところで進化したロボットに突然、不気味さや嫌悪を感じ、その後の進化でより人間に近くなるとそれが好意にかわるということらしい。あちこちで、人間に似せたロボットを見るようになってワタシが感じている一種の気味悪さは、ロボットがさらに進化する前兆なのかと、一層気味悪くなる。
映画は、国の研究機関で働くロボット工学の研究者と彼のロボットのもとにインタビューに来た女性雑誌記者との三角関係のもつれを描いたものだが、映画の後半はとっておきの種明かしを次々に見せられ次はどうなるんだとさらなる「不気味」期待のドキドキが収まらず。とんでもないラストのあとにタイトルバックが流れ、一息ついたところでダメ出しのシーンでもう一度「不気味」を感じることになった。
「メッセージマン」(18年 インドネシア・オーストラリア)
アクションまたはオバケのイメージのインドネシア映画ということでちょっと舐めていたのに、半端ないスピード感にすっかり参ってしまった。「ジョン・ウイック」+「ミッション・インポッシブル」の造りなのだが、脚本もしっかりしていて手抜き感ゼロ。耐えに耐えていたスーパー・ヒーローが悪の本拠地に乗り込み、負傷しながらも敵を一掃のスジは珍しくもないが、インドネシアの貧しい島を舞台にした少年と隠遁生活をするヒーローの交流やそれを踏みにじる海賊の登場など、人情モノの設定が良かった。製作スタッフも配役も全く知らない映画だったが、映画は娯楽ーのキホンをきっちり守った予想外の面白さに脱帽。続編を心待ちにしたい。
2023年8月20日日曜日
ロバの耳通信「ザ・レポート」
「ザ・レポート」(19年 米)原題:The Report
9.11テロの捜査でCIAがテロリスト容疑者を尋問。その記録の一部がなくなっていたことに気付いた民主党上院議員がスタッフに調査を命じた<このとりかかりのところがやや曖昧>。新任スタッフ(アダム・ドライヴァーが好演)が約5年にわたりCIAの活動内容を精査し、CIAによる酷い拷問に何の成果もないどころか、それを続けていたことを調べ上げ報告する。上院議員はこれを公表しようとするが、共和党など相対する政権に妨害を受け、墨塗りだらけの報告書でしか公表できなくなり、同時に調査スタッフはCIAの陰謀で刑務所行きを宣告されそうになる。結局、民主党上院議員やほかの議員たちの頑張りにより、CIAの悪行が暴かれる。
CIAの悪行に知らんふりをした当時の政局メンバーたちも実名で語られ、最後は暴露されて報告書は公開され、ムショ送りされそうになった調査スタッフも無事だったという結末が出来過ぎの感はある。もっとも、事実が明らかにされず、調査スタッフも刑務所に送られるか暗殺されてすべて闇の中、の結末のほうがより強い問題提起にはなるだろうが、暗いばかりの作品だと世間に受け入れられないし興行収入も期待できないだろうからこういう終わり方にするしかなかったのか。
映画の中で繰り返しメッセージとして伝えられるのが、テロリストがどんな酷いことをアメリカ国民にしたとしても、CIAがその捜査中に拷問など非人道的行為があったという暗黒歴史を明らかににし、こういうことを繰り返さないことを肝に銘じておかないとアメリカの国際的な信用、政府に対する国民の信頼を失ってしまうーということ。きれいごと好きのアメリカのメッセージ映画らしく、格好良すぎの感もある。それにしても、明かさない真実が多すぎると思う、アメリカに限らずどこの国でも。権力者の悪行など証拠なんてないけれど、プンプン悪臭は感じてしまう毎日。鼻がマヒするまでの間ではあるが。
実話をもとに作られたという映画。アメリカ公開のあとは日本も含め公開されていないため話題にはなっていないようだが、必見の映画だと強く思う。
2023年8月10日木曜日
ロバの耳通信「死霊館のシスター」「メタルヘッド」
なんて安っぽい題だなーと舐めていたら、とんでもなく面白い映画だった。スジはルーマニアの修道院で起きた変死事件を調査するために神父と修道女が派遣され、悪魔祓いを行う、とそれだけの話なのだが安っぽいB級怪談映画とかとは大きく違い、筋立てがキチンとされているためワケ不明で突然オバケがでてきたりはしない。どこかの修道院か古い教会を借り切ってのロケも手抜きがなく、CGもよくできていて感心。映画で学ぶことは多い。映画のなかで”しゅうせいせいがん”ー吹替なのでこう聞こえる言葉が何度か出てきて戸惑っていたら、修道女が悪魔と本格的に戦うために「終生誓願」の儀式を神父に依頼するところで、ああそういうことなのかと理解。
修道女役のタイッサ・ファーミガがあまりにもピッタシだったのこれも調べたら両親はウクライナからの移民だと。普通に可愛いとかキレイ以上の魅力があった。
あまりに面白かったのでwikiでチェックしたら、「死霊館シリーズ」(13年~)のひとつらしい。題名だけを見てバカにして悪かったと反省して、このシリーズ見てみよう。
「メタルヘッド」(11年 米)原題 Hesher
古い映画。見終わって、長い間映画館やネットやDVDと付き合ってきた筈なのに、こんないい映画、なんで今まで知らなかったんだと口惜しかった。雨の日のヒマツブシにたまたま覗いたGyaoで発見。最高に良かった。
自動車事故で母を失った少年と放浪人Hesher(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の出会いと別れ。少年の父は妻を失くした喪失感から抜け出せずテレビと精神安定剤に頼る暮らし。優しい祖母は痴呆気味でベッド生活。たまたま知り合ったHesherは少年と父、祖母の暮らす家に勝手に居候。少年を虐めから救ってくれたスーパーのレジのおばさん(ナタリー・ポートマン)に思いを寄せる少年だが、尋ねたおばさんの家でおばさんとHesherのベッドシーンを目撃。この映画のキャッチコピー”最悪の人生にファック・ユー!”そのもの。祖母の葬儀でも大暴れのHesherがハチャメチャだが、こんなに哀しくて、愛情に満ち溢れた映画はない。ラストシーンは泣くよ。
ジョセフ・ゴードン=レヴィット(「LOOPER/ルーパー」(12年 米)、「スノーデン」(16年 米)もナタリー・ポートマン(「レオン」(94年 仏米)、「ブラックスワン」(10年 米)ほか)ふたりとも大ファンだから、余計にこの映画への思い入れも強くなってしまったかも。少年を演じたデヴィン・ブロシューが良かった。
2023年7月30日日曜日
ロバの耳通信「出版禁止」「アトミック・ボックス」
出版社に勤める男が心中事件を調べていくうちに、心中の片割れの女と関係を結んでしまい、ついにはその女と心中することになる。実際に起きた事件を追いかけるというドキュメンタリーという形式をとっているから、ノンフィクションのように思えたので、それらしい心中事件をググってみたが見つからない。書評やら読書ブログから、この心中事件の元のハナシを探したのだが、結局わからなかった。著者は映像作家というから、あちこちで起きた心中事件からハナシを組み合わせたものかもしれない。L'ASSASSIN DE CAMUSという副題がついている、カミユの刺客。表紙も凝っているし、登場人物の名前はアナグラムになっているなど、著者の遊び満載。著者の遊びは読者が同調できたら、一緒に遊べるのだが。
「アトミック・ボックス」(17年 池澤夏樹 角川文庫)
500ページ弱、一瞬の息抜きなしで、ジェットコースターで駆け降りる感。エンターテインメント小説は、こうでなければ。
父が開発に携わっていた国産原爆”あさぼらけ”の秘密を、死にゆく父から受け継いだ娘が、警察に追われる。逃げ惑うのでなく、巨大権力を持つ追っ手のウラを欠いて泳ぎ、走り回る。トム・クルーズの「ミッション・インポッシブル」の世界だ。
”あさぼらけ”を必死で隠蔽しようとした国家権力は、ソレが北に流れ北朝鮮の核開発の成功のカギとなったことを認識していた、とまあ、社会性の高い話題をストーリーにしていて、追う、逃げるの説得力が増している。
こういう面白い本に出合うと、まだまだ読み足りないなと。
2023年7月20日木曜日
ロバの耳通信「復活祭」
小説はエンターテインメントでいいと思う。金、酒、暴力、ドラッグ。馳らしい小道具を揃えたのに、舞台とした「株式公開」にディテールもリアリティも全くなく、その上で繰り広げられる男と女の騙し合いがなんとも空々しいものとなってしまった。
本作の前編である「生誕祭」(03年)では舞台が「地上げ」で、欲だけに焦点を当てても連日の新聞報道で、身の回りで起きている実際の地上げがほぼ力づくだけで起きていたことを多くの読者は知っていたから、その舞台に納得しそこで繰り広げられる男と女の騙し合いに思い切り感情移入できたものだ。「株式公開」を舞台にするには馳の勉強が足りなかったのではないか。中身のない会社で法外な価値を付けて公開はできないし、幹事証券会社を簡単に抱き込むことなどなどできはしない。そして、舞台は違えど夜の女たちの復習劇も2番煎じは飽きる。数多くの馳作品を読んできて「いままで、すべて」面白かったのに。うーん、「生誕祭」でやめておけばよかったのに。
2023年7月10日月曜日
ロバの耳通信「ザ・キング」「サスペクト 哀しき容疑者」
「ザ・キング」(17年 韓)原題:The King
地方都市の不良アンチャンが親父を虐める検事の権力を見せつけられ、猛勉強して地方検事になった。財閥の息子の女子高生レイプ事件をもみ消す代わりに人脈を得、ソウル中央地検のエリート部長に見込まれ出世したが、上に行けば行くほど、政治家と結託して私腹を肥やしていることを知る。エリート部長に利用され使い捨てにされたことから、彼に仕返しすべく国会議員を目指す。大統領の交代のたびにスキャンダル情報を武器に有利な地位につこうとする検事、政治家、財閥はいかにも韓国らしいとも思うが、まあ、どこの国も同じか。権力に憧れ出世の道を目指す主人公の青年検事テス役がチョ・インソンアンなのだが、エリート部長で検事総長まで上り詰めたガンシク役のチョン・ウソンのほうが断然格好良かった。高級ホテルのペントハウスでインド映画風にディスコダンスを踊ったり、高級レストランで上品にステーキを食べるシーンなんか、エリート臭さいっぱいで、最高で気に入った。チョン・ウソンの作品を調べてみたら「神の一手」(15年)、「アシュラ」(17年)、「藁にもすがる獣たち」(21年)などなど見てない作品がいっぱい。楽しみだなー。
「サスペクト 哀しき容疑者」(13年 韓)原題:용의자
北朝鮮特殊部隊の元工作員チ・ドンチョル(コン・ユ)が妻子を殺し韓国に逃げ込んだ犯人を追うという単純なスジだが、彼を支援する脱北者の重鎮やら、対北情報局室長、韓国防諜部大佐が絡んできて三つ巴のアクションに仕上げている。コン・ユのファンだから、また見てしまった。とにかく何回目かの視聴だが、なぜか飽きていない。ガマンして耐えに耐えた不遇の主人公が最後に爆発して悪に報いるというストーリーは日本のヤクザ映画のソレと同じで、日韓の血が同じ源流にあることを感じさせる作品。ワタシは健さんや文太アニイの昔のヤクザ映画が好きなのだ。






