2024年1月10日水曜日
ロバの耳通信「空気人形」「許されざる者」
ちゃんと原作もあるらしい(「ゴーダ哲学堂 空気人形」(業田良家 小学館))のだが、映画としてはいいところとあまりわからないところと。ラブドール人形役の韓国女優ペ・ドゥナが微妙にかわいい、板尾創路ほか多彩な配役がそれぞれに個性的、撮影監督(台湾のリー・ピンビン)のおかげで映像がキレイ、なにより原作からもってきたらしい、映画のキャッチフレーズにもなっている“心をもつことは、切ないことでした”とか、人形のしゃべる多くのセリフが象徴的で、賢くわかったフリをしたいのだが、本当のところは難しくてゼンゼンわからない。若い頃、サルトルやカミユをわかったフリをしていつもカバンに入れていた、そんな気分に近い。ゼンゼンわかっちゃいなかったのだ。
監督・脚本・編集の是枝裕和については作品により好みのわかれるところだが、難しい作品をこれだけまとめた力は買ってもいいか。ただ、また見たいと思う映画じゃなかった。
「許されざる者」(13年 邦画)
オープニングの映像や音楽でまずドギモを抜かれた。これ、本当に日本映画かよと。配給はワーナー・ブラザーズだが、監督(李相日)や脚本など製作スタッフこそ日本人は少ないものの、ハンス・ジマーばりの音楽(岩代太郎)や撮影も素晴らしく、ハリウッドの大作にも引けをとるものではなかった。配役も渡辺謙、柄本明、柳楽優弥、佐藤浩市ほか今こういう作品を作るにしてもこれだけのキャスティングはできないだろう。
特に記憶に残ったのは遊女役の小池栄子。ボロ衣装に浅黒い顔から射込んでくる双眸の鋭さ、最近はバラエティなんかにも出て柔和な表情を見せることも多い小池栄子も昔は確かにこういう女優だったと。
「許されざる者」はアメリカのアカデミー作品賞を受けた同名の映画(92年 米 クリント・イーストウッド監督、主演)のリメイクだという。
個人的な意見だが、オリジナルよりこの日本映画のほうが、断然良かった。両方とも見てはいないカミさんに言わせると、そりゃそうでしょうと。観客の自分と映画の距離感が違うと、うーん、確かに。
2023年12月30日土曜日
ロバの耳通信「ハッキング・アイ」「ディストピア パンドラの少女」
「ハッキング・アイ」(12年 仏)原題: Aux yeux de tous
イスラム過激派によると推定されたパリ駅での爆破テロ。映像記録が残っていないという当局の発表に疑問を抱いたパソコンオタクの青年<アノニマス26>が、ハッキングにより監視カメラの映像を片っ端から調べ、真犯人とその背景を探し出す。ヨーロッパの監視カメラの普及を見れば、ハッキングの困難さは別にしても、こういう捜査も当たり前にあるんじゃないかとも思うが、約10年前だよ。画面のほとんどが監視カメラの画像だから、ドキュメンタリーフィルムを見ているような臨場感がハンパなかった。爆破テロなんかが起きると、イスラム過激派よるテロとして片付けられているようだが、この映画のように政治家たちの謀略とかが裏に隠されたままになっているんじゃないかな。
「ディストピア パンドラの少女」(16年 英)原題:The Girl with All the Gifts
はやりのゾンビ映画かと軽く暇つぶしのつもりで見てたら、食事時間が惜しいくらいクギ付けに。原作(「パンドラの少女」(16年 マイケル・ケアリー 東京創元社)もいいのだろうが、ゾンビのソレらしさや荒廃した都市の風景などが良くできていてひさしぶりにいい映画に逢ったとちょっと感激。製作陣やキャスティングからはB級といってもいいくらいなんだけど、とにかく面白かった。未知の細菌で感染者は人肉嗜好のゾンビに。妊娠中に感染した母親から生まれた子供たちが高い知能や身体能力を持つことに注目した政府は、子供たちを軍事施設に押し込め教育しようとし、医者は子供たちの脳や脊髄からワクチンを抽出しようとする。そんな子供のひとりの少女と女教師、医者、軍人たちが力を合わせ食糧などを探しながらゾンビたちの群れを横切って、安全地帯に逃れようとする。
無人スーパーでの宝さがしとか無音で避けながら移動とか、まあ、今やゾンビ映画のよくある展開なのだが、ロールプレーンゲーム感覚で映画をたっぷり楽しんだ。
2023年12月20日水曜日
ロバの耳通信「エネミーライン ドイツ軍大包囲網からの脱出」「クライム・ボーダー 贖罪の街」
第二次大戦末期、英空軍の撃墜王ベイカー(クリス・ウォルターズ)は独機との戦いで墜落。パラシュートで降下したところが独軍がウジャウジャの森。偶然出会った米兵に助けられ独軍と戦いながら脱出する。ベイカーは撃墜王にもかかわらず、地上での戦闘経験のない根性ナシ。米兵は冷酷無上の殺し屋風。
ふたりの兵士を対比させたストーリーは興味深かったが、米兵に撃たれ、バタバタと倒れてゆく人形の兵隊のような独兵の描き方が不思議。まあ、反戦がテーマなのだろうがソコも伝わってこない。敵地の森の中の設定とはいえ小声の英国訛りの英語は聞き取り辛く、字幕がなければどうしようもなかったろう。
プロローグとラストの墓参りのシーンはトム・ハンクス主演「プライベート・ライアン」(98年 米)のソレとそっくり同じ。パクリもここまでくると、なんだかね。
同名の「エネミー・ライン」Behind Enemy Lines(01年 米)も撃墜された航空士(オーウェン・ウィルソン)の脱出劇を描いたもので、監督がジョン・ムーア、共演にジーン・ハックマンとかもいてメッチャ面白かったのに。
「クライム・ボーダー 贖罪の街」(14年 フランス・ベルギー・アルジェリア)原題:Two Men In Town
こんなに哀しい映画はあまりないんじゃないか。
保安官助手を殺した罪で18年の服役を終え仮釈放となった男(フォレスト・ウィテカー)が、メキシコ国境に近い砂漠の街で懸命に更生の道を歩もうとする。もちろん世間は簡単に許してくれない。差別され、虐げられて最後は行き場のない怒りに爆発。
男に部下を殺されたトラウマに今も苦しみ、憎しみで対峙する保安官(ハーヴェイ・カイテル)、主人公と保安官が原題のふたりの男。
保護観察官に英女優ブレンダ・ブレシン、昔のワル仲間にプエルトリコのルイス・ガスマン、男が思いを寄せるメキシコ女役にドロレス・エレディア、母親役にエレン・バースティンなどマイナー作品とは思えない錚々たる配役。登場人物の全員が過去を引きずって哀しみに生きている。もちろん、幸せな結末なんてありえない。
フランス映画「暗黒街のふたり」(73年 アラン・ドロンとジャン・ギャバンの刑事)のリメイクだそうだが、スジは似てるものの映画の印象は全く違う。どっちも哀しい映画なのだが、うまく説明できん。
2023年12月10日日曜日
ロバの耳通信「ホース・ソルジャー」「ヘル・トラップ」
「ホース・ソルジャー」(18年 米)原題: 12 Strong
アメリカ同時多発テロ事件直後。タリバン軍と戦った米陸軍特殊部隊の活躍を描いた同名のドキュメンタリー作品(ダグ・スタントン 18年 ハヤカワ文庫)の映画化。
同時多発テロ後の初の反撃成功の軍事作戦を描いているから製作がジェリー・ブラッカイマー、キャスティングにクリス・ヘムズワース、マイケル・シャノン、ほか錚々たる役者を揃え、アメリカの気合が感じられる作品。言ってみれば、賊軍タリバンを官軍米特殊部隊が叩く映画という、主人公が死なないチャンバラ映画と同じ構図なのだが、官軍鼓舞の娯楽作品としてみれば、文句なしに楽しめた。
「ヘル・トラップ」(11年 フランス)原題:L'ils
第二次大戦中、ナチスから逃れた3人の男の乗った飛行機が墜落。たどり着いた南海の孤島で巨大な穴と冷凍カプセルに眠る美女を発見。イメージ的には江戸川乱歩の冒険物語と迷路を進みながらいろいろなものを手に入れて進んでゆくロールプレイングゲームを混ぜ混ぜにしたストーリー展開。あまりのバカバカしさに惰性で見ていたが、最後はどうなるかと結局最後まで見続けてしまった。穴や隠し扉、巨大な蜘蛛や隠された実験室やらに結構ドキドキし、その夜は夢まで見る始末。ロビンソンクルーソーの冒険物語や地底探検、ドクターモローの島などなど、胸躍らせて少年雑誌の挿絵に夢中になっていた子供時代を思い出した。とにかく、面白かった。
2023年11月30日木曜日
ロバの耳通信「透明人間」「エウロパ」
「透明人間」(20年 米・豪)原題:The Invisible Man
原作が同名の小説(1897年 H・G・ウエルズ)、「透明人間」(33年 米)のリブートだという。原作の方は幼い頃の挿絵入の児童小説などで読んでいたが、こういう「どんでん返し」のラストだったかなと。33年の映画も見ていないからなんともいえないが、見終わったらよくできた作品だとあらためて感心。透明人間が主役の筈なのだが、映画の大半は天才科学者の妻役であるエリザベス・モスを中心になっていて、それがワタシの大嫌いなタイプだからか、ラストの謎解きまでただただ退屈。ホラー映画なんてメッチャいい女や儚げな少女が不可思議に追い詰められてゆくから同情もし、おもしろいのであって、オバンが逃げまどってもなーと、ソレだけが残念。
「エウロパ」(12年 米)原題:Europa
エウロパは木星の第2衛星の名前。エウロパに水があることが発見され、生物の存在を調査すべく各国から集められた6人の宇宙飛行士がエウロパへの旅に出た。ドキュメンタリー風に構成されているから、ドンパチもラブストーリーもない。宇宙船の内外は、実物を見たことがないからエラそうには言えないが、細かなところまでキチンと作り込まれ全く違和感はない。エウロパは絶対零度という超低温で氷に閉ざされた星。氷を掘ってサンプルを集め、さらにその下の水中にタコ様の生物を発見するも、探査船が故障し宇宙飛行士たちは帰れなくなってしまう。重なる宇宙船の故障や修理中の事故などもPOVでドキュメンタリーのようにまとめられているから、いわゆるエンターテインメント映画と違い、見る方も落ち着いて見ることができた。
なかなか見応えのあるドキュメンタリー風映画。wikiによればフェイク・ドキュメンタリーという分類にはいるらしい。
2023年11月20日月曜日
ロバの耳通信「コードネーム:ストラットン」「ICHI」
「コードネーム:ストラットン」(17年 英)原題:Stratton
イギリス海兵隊の特殊部隊(SBS)の活躍を描いたドンパチもの。国策なのだろうか、MI6といい、SBSといい、この手のヒーロー大活躍の英国物は飽きた。だいたいは、友人をテロリストに殺され復讐に立ち上がったヒーローが、上司(女性)の理解を得て大活躍、ハッピーエンドで終わるーというステレオタイプばかり。「ICHI」(08年 邦画)
勝新太郎の「座頭市」(62年~89年)の主人公”市”を綾瀬はるか演じたリメイク作品。綾瀬はるかは大好きだし、暗い表情はほかの誰より不幸な過去を背負った瞽女(ごぜ)に似合っている筈なのだがなぜか感じる場違い感。脚本(浅野妙子)が良くないのか、監督(曽利文彦)に問題があったのか、とにかく主役が生きていない。邦画にはない感性の音楽が気に入ってwikiでチェックして外国人(リサ・ジェラルド、マイケル・エドワーズ)の手によるものだと知り、この映画の”冒険”を感じていたのに、だ。大道具も小道具も手抜きすぎ、特に衣装なんか学芸会風の噴飯もの。何より口惜しかったのが配役。大沢たかお、窪塚洋介、中村獅童ほか錚々たる俳優をまさに”並ばせ”、友情出演やらお友達まで集まってもらっての顔見世興行の大げさな”芝居”が、この映画の失敗の根源。そうすると、やっぱり監督と脚本の”冒険”の責任が大きいのではないか。
綾瀬はるかは悪くない。
2023年11月10日金曜日
ロバの耳通信「ボックス21」「ハウス・ジャック・ビルト」気味悪かった本と映画
「ボックス21」(09年 アンデシュ・ルースルンド、ベリエ・ヘルストレム ランダムハウス講談社文庫)
管理売春の犠牲者が入院している病院の霊安室に人質をとって閉じこもった。スウェーデンのクライムノベルでアンデシュ・ルースルンド、ベリエ・ヘルストレムだからもちろん明るい話ではない。このところ、北欧のシリーズものの暗いテレビドラマにはまってしまい、動画サイトで見ることのできるものもネタ切れ。ついにクライムノベルの禁断症状を起こし図書館に。外国文学の文庫の棚にまっしぐらで英米、ドイツ、・・を飛ばし「その他の欧州」の棚でコレを見つけた。著者名に憶えがあったから、何冊か読んでいるはずなのだがと、とりあえず借り出し読んだ。映画だったら間違いなくR指定だと思われる500ページ強の長編で救いのない暗さと生臭さだったが、ラストの3行で思い切り頬をひっぱたかれた。おいおい、そりゃないだろう、と。久しぶりの揺さぶられるようなショックと絶望感。うーん、このシリーズ、もう一度おさらいせねば。
「ハウス・ジャック・ビルト」(18年 デンマーク・仏ほか)原題:The House That Jack Built
マット・ディロンが70年代に実在した連続殺人犯ジャックを演じていて、気味が悪いくらい役に合っていた。建築家を目指すジャックが口うるさい女をジャッキで殺すシーンは、うん、こういう目にあったらワタシも切れるだろうと思われるくらい同情したが、その後の殺人はやっぱり強迫性精神病というかサイコキラーだなと。クライムやホラー作品は好きだが約200分の殺人シーンの連続は気味悪く途中でメゲ、見終わってホッとした。死体を積み上げて家を作るところや、地獄のの炎に落ちてゆくところはデンマークの鬼才ラース・フォン・トリアー監督の味。













