2023年12月30日土曜日

ロバの耳通信「ハッキング・アイ」「ディストピア パンドラの少女」

 「ハッキング・アイ」(12年 仏)原題: Aux yeux de tous

イスラム過激派によると推定されたパリ駅での爆破テロ。映像記録が残っていないという当局の発表に疑問を抱いたパソコンオタクの青年<アノニマス26>が、ハッキングにより監視カメラの映像を片っ端から調べ、真犯人とその背景を探し出す。ヨーロッパの監視カメラの普及を見れば、ハッキングの困難さは別にしても、こういう捜査も当たり前にあるんじゃないかとも思うが、約10年前だよ。画面のほとんどが監視カメラの画像だから、ドキュメンタリーフィルムを見ているような臨場感がハンパなかった。

爆破テロなんかが起きると、イスラム過激派よるテロとして片付けられているようだが、この映画のように政治家たちの謀略とかが裏に隠されたままになっているんじゃないかな。


「ディストピア パンドラの少女」(16年 英)原題:The Girl with All the Gifts

はやりのゾンビ映画かと軽く暇つぶしのつもりで見てたら、食事時間が惜しいくらいクギ付けに。原作(「パンドラの少女」(16年 マイケル・ケアリー 東京創元社)もいいのだろうが、ゾンビのソレらしさや荒廃した都市の風景などが良くできていてひさしぶりにいい映画に逢ったとちょっと感激。製作陣やキャスティングからはB級といってもいいくらいなんだけど、とにかく面白かった。

未知の細菌で感染者は人肉嗜好のゾンビに。妊娠中に感染した母親から生まれた子供たちが高い知能や身体能力を持つことに注目した政府は、子供たちを軍事施設に押し込め教育しようとし、医者は子供たちの脳や脊髄からワクチンを抽出しようとする。そんな子供のひとりの少女と女教師、医者、軍人たちが力を合わせ食糧などを探しながらゾンビたちの群れを横切って、安全地帯に逃れようとする。

無人スーパーでの宝さがしとか無音で避けながら移動とか、まあ、今やゾンビ映画のよくある展開なのだが、ロールプレーンゲーム感覚で映画をたっぷり楽しんだ。


2023年12月20日水曜日

ロバの耳通信「エネミーライン ドイツ軍大包囲網からの脱出」「クライム・ボーダー 贖罪の街」

「エネミーライン ドイツ軍大包囲網からの脱出」(19年 カナダ)原題:Beyond The Line

第二次大戦末期、英空軍の撃墜王ベイカー(クリス・ウォルターズ)は独機との戦いで墜落。パラシュートで降下したところが独軍がウジャウジャの森。偶然出会った米兵に助けられ独軍と戦いながら脱出する。ベイカーは撃墜王にもかかわらず、地上での戦闘経験のない根性ナシ。米兵は冷酷無上の殺し屋風。

ふたりの兵士を対比させたストーリーは興味深かったが、米兵に撃たれ、バタバタと倒れてゆく人形の兵隊のような独兵の描き方が不思議。まあ、反戦がテーマなのだろうがソコも伝わってこない。敵地の森の中の設定とはいえ小声の英国訛りの英語は聞き取り辛く、字幕がなければどうしようもなかったろう。

プロローグとラストの墓参りのシーンはトム・ハンクス主演「プライベート・ライアン」(98年 米)のソレとそっくり同じ。パクリもここまでくると、なんだかね。

同名の「エネミー・ライン」Behind Enemy Lines(01年 米)も撃墜された航空士(オーウェン・ウィルソン)の脱出劇を描いたもので、監督がジョン・ムーア、共演にジーン・ハックマンとかもいてメッチャ面白かったのに。

「クライム・ボーダー 贖罪の街」(14年 フランス・ベルギー・アルジェリア)原題:Two Men In Town

こんなに哀しい映画はあまりないんじゃないか。
保安官助手を殺した罪で18年の服役を終え仮釈放となった男(フォレスト・ウィテカー)が、メキシコ国境に近い砂漠の街で懸命に更生の道を歩もうとする。もちろん世間は簡単に許してくれない。差別され、虐げられて最後は行き場のない怒りに爆発。

男に部下を殺されたトラウマに今も苦しみ、憎しみで対峙する保安官(ハーヴェイ・カイテル)、主人公と保安官が原題のふたりの男。

保護観察官に英女優ブレンダ・ブレシン、昔のワル仲間にプエルトリコのルイス・ガスマン、男が思いを寄せるメキシコ女役にドロレス・エレディア、母親役にエレン・バースティンなどマイナー作品とは思えない錚々たる配役。登場人物の全員が過去を引きずって哀しみに生きている。もちろん、幸せな結末なんてありえない。

フランス映画「暗黒街のふたり」(73年 アラン・ドロンとジャン・ギャバンの刑事)のリメイクだそうだが、スジは似てるものの映画の印象は全く違う。どっちも哀しい映画なのだが、うまく説明できん。


2023年12月10日日曜日

ロバの耳通信「ホース・ソルジャー」「ヘル・トラップ」

 「ホース・ソルジャー」(18年 米)原題: 12 Strong


アメリカ同時多発テロ事件直後。タリバン軍と戦った米陸軍特殊部隊の活躍を描いた同名のドキュメンタリー作品(ダグ・スタントン 18年 ハヤカワ文庫)の映画化。

同時多発テロ後の初の反撃成功の軍事作戦を描いているから製作がジェリー・ブラッカイマー、キャスティングにクリス・ヘムズワース、マイケル・シャノン、ほか錚々たる役者を揃え、アメリカの気合が感じられる作品。言ってみれば、賊軍タリバンを官軍米特殊部隊が叩く映画という、主人公が死なないチャンバラ映画と同じ構図なのだが、官軍鼓舞の娯楽作品としてみれば、文句なしに楽しめた。

「ヘル・トラップ」(11年 フランス)原題:L'ils

第二次大戦中、ナチスから逃れた3人の男の乗った飛行機が墜落。たどり着いた南海の孤島で巨大な穴と冷凍カプセルに眠る美女を発見。イメージ的には江戸川乱歩の冒険物語と迷路を進みながらいろいろなものを手に入れて進んでゆくロールプレイングゲームを混ぜ混ぜにしたストーリー展開。あまりのバカバカしさに惰性で見ていたが、最後はどうなるかと結局最後まで見続けてしまった。

穴や隠し扉、巨大な蜘蛛や隠された実験室やらに結構ドキドキし、その夜は夢まで見る始末。ロビンソンクルーソーの冒険物語や地底探検、ドクターモローの島などなど、胸躍らせて少年雑誌の挿絵に夢中になっていた子供時代を思い出した。とにかく、面白かった。

2023年11月30日木曜日

ロバの耳通信「透明人間」「エウロパ」

 「透明人間」(20年 米・豪)原題:The Invisible Man

原作が同名の小説(1897年 H・G・ウエルズ)、「透明人間」(33年 米)のリブートだという。原作の方は幼い頃の挿絵入の児童小説などで読んでいたが、こういう「どんでん返し」のラストだったかなと。33年の映画も見ていないからなんともいえないが、見終わったらよくできた作品だとあらためて感心。

透明人間が主役の筈なのだが、映画の大半は天才科学者の妻役であるエリザベス・モスを中心になっていて、それがワタシの大嫌いなタイプだからか、ラストの謎解きまでただただ退屈。ホラー映画なんてメッチャいい女や儚げな少女が不可思議に追い詰められてゆくから同情もし、おもしろいのであって、オバンが逃げまどってもなーと、ソレだけが残念。

「エウロパ」(12年 米)原題:Europa

エウロパは木星の第2衛星の名前。エウロパに水があることが発見され、生物の存在を調査すべく各国から集められた6人の宇宙飛行士がエウロパへの旅に出た。ドキュメンタリー風に構成されているから、ドンパチもラブストーリーもない。宇宙船の内外は、実物を見たことがないからエラそうには言えないが、細かなところまでキチンと作り込まれ全く違和感はない。エウロパは絶対零度という超低温で氷に閉ざされた星。氷を掘ってサンプルを集め、さらにその下の水中にタコ様の生物を発見するも、探査船が故障し宇宙飛行士たちは帰れなくなってしまう。

重なる宇宙船の故障や修理中の事故などもPOVでドキュメンタリーのようにまとめられているから、いわゆるエンターテインメント映画と違い、見る方も落ち着いて見ることができた。

なかなか見応えのあるドキュメンタリー風映画。wikiによればフェイク・ドキュメンタリーという分類にはいるらしい。

2023年11月20日月曜日

ロバの耳通信「コードネーム:ストラットン」「ICHI」

 「コードネーム:ストラットン」(17年 英)原題:Stratton

イギリス海兵隊の特殊部隊(SBS)の活躍を描いたドンパチもの。国策なのだろうか、MI6といい、SBSといい、この手のヒーロー大活躍の英国物は飽きた。だいたいは、友人をテロリストに殺され復讐に立ち上がったヒーローが、上司(女性)の理解を得て大活躍、ハッピーエンドで終わるーというステレオタイプばかり。
主人公はゼッタイ死なないから安心して見てられるのだが、このマンネリ感なんとかならないものか。



「ICHI」(08年 邦画)

勝新太郎の「座頭市」(62年~89年)の主人公”市”を綾瀬はるか演じたリメイク作品。綾瀬はるかは大好きだし、暗い表情はほかの誰より不幸な過去を背負った瞽女(ごぜ)に似合っている筈なのだがなぜか感じる場違い感。脚本(浅野妙子)が良くないのか、監督(曽利文彦)に問題があったのか、とにかく主役が生きていない。邦画にはない感性の音楽が気に入ってwikiでチェックして外国人(リサ・ジェラルド、マイケル・エドワーズ)の手によるものだと知り、この映画の”冒険”を感じていたのに、だ。

大道具も小道具も手抜きすぎ、特に衣装なんか学芸会風の噴飯もの。何より口惜しかったのが配役。大沢たかお、窪塚洋介、中村獅童ほか錚々たる俳優をまさに”並ばせ”、友情出演やらお友達まで集まってもらっての顔見世興行の大げさな”芝居”が、この映画の失敗の根源。そうすると、やっぱり監督と脚本の”冒険”の責任が大きいのではないか。

綾瀬はるかは悪くない。

2023年11月10日金曜日

ロバの耳通信「ボックス21」「ハウス・ジャック・ビルト」気味悪かった本と映画

 「ボックス21」(09年 アンデシュ・ルースルンド、ベリエ・ヘルストレム ランダムハウス講談社文庫)

管理売春の犠牲者が入院している病院の霊安室に人質をとって閉じこもった。スウェーデンのクライムノベルでアンデシュ・ルースルンド、ベリエ・ヘルストレムだからもちろん明るい話ではない。このところ、北欧のシリーズものの暗いテレビドラマにはまってしまい、動画サイトで見ることのできるものもネタ切れ。ついにクライムノベルの禁断症状を起こし図書館に。外国文学の文庫の棚にまっしぐらで英米、ドイツ、・・を飛ばし「その他の欧州」の棚でコレを見つけた。著者名に憶えがあったから、何冊か読んでいるはずなのだがと、とりあえず借り出し読んだ。

映画だったら間違いなくR指定だと思われる500ページ強の長編で救いのない暗さと生臭さだったが、ラストの3行で思い切り頬をひっぱたかれた。おいおい、そりゃないだろう、と。久しぶりの揺さぶられるようなショックと絶望感。うーん、このシリーズ、もう一度おさらいせねば。

「ハウス・ジャック・ビルト」(18年 デンマーク・仏ほか)原題:The House That Jack Built

マット・ディロンが70年代に実在した連続殺人犯ジャックを演じていて、気味が悪いくらい役に合っていた。建築家を目指すジャックが口うるさい女をジャッキで殺すシーンは、うん、こういう目にあったらワタシも切れるだろうと思われるくらい同情したが、その後の殺人はやっぱり強迫性精神病というかサイコキラーだなと。クライムやホラー作品は好きだが約200分の殺人シーンの連続は気味悪く途中でメゲ、見終わってホッとした。

死体を積み上げて家を作るところや、地獄のの炎に落ちてゆくところはデンマークの鬼才ラース・フォン・トリアー監督の味。

2023年10月30日月曜日

ロバの耳通信「ノア 約束の舟」「修道士は沈黙する」

 「ノア 約束の舟」(14年 米)原題: Noah

封切りの際、ポスターだけをチラ見して、ラッセル・クロウがやるノアなら、「例の」叙事詩風大作かなと期待も薄く見ることもなかったのだが、AmazonPrimeで画質のキレイなのをサブスクで見れるということで。ワキにジェニファー・コネリー、レイ・ウィンストン、エマ・ワトソン、アンソニー・ホプキンスと豪華メンバーを揃えれば、映画会社もモトを取るためにチカラを入れざるを得ないのだろうが、まあ良かったほうかな。

ノアの次男(ハム)を演じたローガン・ラーマンが凄かった。演技なのか天性なのかはよくわからないが、無邪気と邪気、笑顔と嘲笑。天使と悪魔の表情が、そうあの中国雑技団の百面相のようにクルリと変わる。ちょっとした拍子に、ゾッとするような狡猾さが見えるなんて、もっともニガテなタイプだけど、役者としては凄いヒトなんだろうな。

まあ、この作品、のプラス面で言えばCGの出来がよく楽しめたこと。従前の方舟にみんなをのせて万歳という能天気宗教モノじゃなく、人間の悪と善をしっかり考えさせるストーリー展開は単なる宗教映画のワクを超えていたこと。マイナスは”見張りの天使”というロボット風のものがあまりにも酷いキャラだったこと。2時間半の長編だが、迫力ある映像の連続は中々。2度見したいのは、怖いもの見たさのローガン・ラーマンか。


「修道士は沈黙する」(16年 伊・仏)原題:Le confessioni

G8財務相会議の前夜、会議の中心人物である国際通貨基金の専務理事ロシェの死体が発見される。ロシェは自分の誕生会に招待していたイタリア人修道士(トニ・セルビッロ)に告解していたらしい。財務相会議では弱小国を切り捨て、主要国だけ生き残るというような弱小国に非道な経済改革案が事前から周知・検討されていたから、会議メンバーは告解の中身を知りたがるも修道士は殺人の疑いをかけられても沈黙を通したため、会議メンバーは互いに疑心暗鬼となり、結局その改革案はお流れになるーといった短いストーリーにもかかわらず、韻を踏むように宗教的な暗示があちこちで用いられ、推理小説のような面白さを堪能した。

映画の半分は、会議メンバーによる世界経済の裏操作の議論、半分は修道士によるバイブルを引用した警句の連続で、経済にもバイブルについての知識がないワタシにはやや難解さも感じられたが、闇の中を手探りで進むような、一種のお化け屋敷ツアーのように、人間のエゴが次から次へ曝け出され、消えてゆくサマは、やっぱり楽しかった。2度見でさらに楽しめそうな予感。

どうでも良いことでもあるのだが、オレがオレがのイタリア蔵相(実質イタリア映画だからしょうがない)、二刀流の発展家のカナダ女性蔵相、口の立つフランス蔵相やらの中で最も存在感のなかったのが日本の蔵相。矮小で言葉はボソボソ。ま、こんなものだろう。



2023年10月20日金曜日

ロバの耳通信「不祥事」「父からの手紙」

「不祥事」(16年 池井戸潤 実業之日本社文庫)

テレビドラマの「半沢直樹」(13年 日曜劇場 堺雅人主演)がとても面白くて、タイトルバックに原作が池井戸潤の「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」とあったから、いつか読もうと狙っていて、たまたま図書館で見つけたのが、この「不祥事」。表紙が今風でいい。

元銀行員の池井戸自身が、銀行を舞台に”読者に漫画のように面白がってもらえる”目的で書いたと言っているエンターテインメント小説。ただ、コミカルがあまり好きじゃないワタシがそのことを知らずに読み始め、銀行員の主人公花咲舞の、ステレオタイプが過ぎる人物象が鼻につきはしたが、勧善懲悪の痛快感は100%。”漫画”だと割り切ればそれもアリかと、満足。「花咲舞が黙ってない」で漫画連載化(14年~)、テレビドラマ化(14年)もされたと。

文章は切れが良く読みやすかったから、吉川英治文学新人賞受賞作「鉄の骨」(10年)、阿部寛主演のテレビドラマ化で話題にもなった直木賞受賞作「下町ロケット」(11年)を読んで見ることに。

「父からの手紙」(06年 小杉健治 光文社文庫)

約10年前に妻子を置いて出奔した父から、子供たち毎年届く手紙。婚約者が死体で発見され、弟が殺人罪で逮捕された娘が、”隠された父の驚くべき真実”を求め父捜しに。面白いスジなんだけどなぁ。

先に読んだカミさんの”良かったよ”からはじまって、オビ広告の”涙が止まらない”とか、解説の”魂の叫び”やら、書評の”感涙”やら、”胸が締め付けられ”とか、やたら情緒をかきたてる言葉が並んでいたが、ワタシの読後感は「作り過ぎ」。出だしでワタシを引き付けたが、400ページのストーリー展開にはメリハリが感じられず、せっかくの題材をくどくど書きすぎてダメにした感。

ワタシだけの勝手な想像だが、この小説は先にあらすじがキチンと整理され、全体量をあらかじめ決め、サブストーリーや登場人物のの感情を織り込んだのではないか。つまりは、書き手が自らの感情に囚われることもなく、「予定通りに」書きあげたのではないか。だから、暴走も論理の破綻も感じられない。勢いとかホトバシリが伝わってこない残念さを感じてしまうのだ。前半は純文学にも感じられる文章の丁寧さに比べ、後半は謎解きミステリーを意識した文章にも戸惑ってしまった。ほかの作品を読む意欲はないかな。

2023年10月10日火曜日

ロバの耳通信 「ビギニング」「リヴォルト」「死の谷間」

 「ビギニング」(14年 オーストラリア)原題:Terminus

宇宙生物が人間の病気を治すというスジはどこかにもあったような気がする。胡散臭い科学省の役人とか、宇宙生物とかがあまりにもチャッチイので、ただでさえ現実感のないSFが、よけいにつまらないものに。B級にも入らないこの映画のラストの数秒、コンクリートミキサーのような容器に入って核戦争から脱した若い二人が外に出た時、緑多き新しい世界だった、というところ「だけ」が気に入った。ずっと暗い話ばかりだったから、新しい世界をもう少し見せてくれたら、もっとよかったのにと残念。

原題と邦題が逆の意味を持つもの珍しいが、終わりはなにかの始まり、ということにしておこう。

「リヴォルト」(17年 英・南ア)原題;Revolt

ポスターの釣りには堂々と”「第9地区」X「インディペンデイス・デイ」”と、面白い作品をパクってミックスしたものだと、断りがあった。米兵士とフランス軍女医がアフリカのコンゴで地球外ロボットと戦うって、ハナシ盛り過ぎだろう。CGの出来も良く、ドンパチもの好きだから映画そのものは結構面白かったし、個人的な趣味では女医役のベレニス・マーローが気に入ったからまあ、いいかと。

「死の谷間」(15年 アイスランドほか)原題:Z for Zachariah

核汚染の地球で周囲の山のせいで汚染から守られている谷。そこにひとりで暮らす若い女。被爆し、女に助けられ一緒に暮らし始めた男は働き者の黒人。もうひとりその谷に行き着いたふたり目の男はイケメンの白人。ひとり暮らしは平穏、ふたりは出会いと喜び。3人になると嫉妬と戦い。アダムふたりとイブの物語の結末。なんだかね、結局はイブだけになってしまうのか。苦味の残った映画だった。

原題の Zachariahは預言者の意味もあるが、Aはアダム、Bはベンジャミン…、最後Zはザカリアだと。意味不明だが聖書からきているらしく、原作には解説が書いてあるらしい<Google>。

2023年9月30日土曜日

ロバの耳通信「絶望ノート」

「絶望ノート」(12年 歌野晶午 幻冬舎文庫)

中2の少年がいじめられる絶望の毎日を綴ったのがこの「絶望ノート」。いじめられる毎日の救いを「石」に求め、いじめっ子の死をその石に願い、その呪いが叶うというスティーブン・キング張りのミステリー。にいくら願いや呪いをかけても、それはないだろうとも思う。死んだ猫が生き返ったり(「ペット・セメタリー」(キング))とかのありえないハナシも、キングだったら許せるのだが、さすがに普通の作家が石に願いをかけて呪い殺した・・なんてのは、やっぱりルール違反で、特にこういう犯人捜しのミステリーではありえない。
で、いじめっ子が怪我をしたり死んだり、あげくのはてが担任や父親まで死んでしまうと、おいおい犯人は誰だと、結構楽しめた。これから読む人もいるから、コレも書いてはいけないんだろうな。あ、あとがきの解説を先に読むと、レトリックもバラしてあるからひどい目にあうよ。

文庫版637ページはさすがに疲れる。最後の数十ページに謎解きがされるが、それまでと違い性急で辻褄合わせのようなところもあるから、コレも疲れる。
ほとんどが、いじめられた少年の日記だから、まじめに読むと結構辛いものがある。覚悟!

2023年9月20日水曜日

ロバの耳通信「THE 4TH KIND フォース・カインド」

 「THE 4TH KIND フォース・カインド」(09年 米)原題: The Fourth Kind

原題は”第四種接近遭遇”つまり宇宙人による誘拐の意味。アラスカ州ノームで起きたこと、なんとか大学のなんとか博士とか場所や人物が具体的に示され、実録フィルムを挿入したドキュメンタリー風のまとめ方はよくできていたし、主演のミラ・ジョボビッチの熱演で、かなり信じてしまった。ミラは「バイオハザード」シリーズ(02年~ 米)のイメージが強く、本当はこんなに演技がうまかったのかと脱帽。

見終わって、wikiでチェックしたら、この作品、米配給会社(ユニバーサル・ピクチャーズ)による作りモノだったらしい。なーんだ、そうだったのか”やっぱり”と。宇宙人とかね、いるわけないもんね。


いま話題になっていて、途中で挫折した「三体」(08年 中国のSF作家劉慈欣の長編SF小説。邦訳19年 早川書房)の映画化にあたり、ミラ・ジョボビッチがノミネートされているらしい。

「三体」はハナシが突飛すぎて頭がついてゆけず、登場人物の名前も覚えられなくてゼンゼンついて行けなかったけど、ハリウッド流にわかりやすく映画化してくれて、ミラの主演なら見たいかな。

 

2023年9月10日日曜日

ロバの耳通信「にぎやかな天地」

「にぎやかな天地」(12年 宮本輝 講談社文庫)

装丁の仕事をしている青年が日本の伝統的な発酵食品の豪華本を手掛けることになり、各地の職人を訪ねるうちに微生物にハマるという物語。宮本の得意とする「うん蓄」がここでも語られる。うん蓄そのものはにわか仕込みのところも感じられやや鼻につくが、多くの登場人物が魅力的に語られ飽きない。特に家族や友人たちとの会話はイキイキしていて愛情深い。宮本の病歴などを知っているから彼が困難な人生を経てきたことはわかるが、宮本が慈愛あふれた両親に育てられ、雑多で豊かな友情に囲まれて育ってきたことに疑いはない。<自伝小説「流転の海」(82年~)>

宮本の小説にハマることがいくつかあり、そのひとつが登場人物に語らせるセリフの奥行きの深さだ。「にぎやかな天地」では「勇気」について教えられた。”どんなに弱い人間のなかからでも勇気はでてくる。 その人のなかに眠っていたいたおもいもよらない凄い知恵と思いやる心が自然についてくる。困難に立ち向かうための勇気を出すには、自らを叱咤し、ひるむ心と闘って、自分の意志で、えいや!と満身に力を込める以外に、いかなる方法もない”(上巻p256)。普段から根性なしの暮らしをしていて、困難にあたるといつもメゲてしまい死んだふりをするか、いつも尻尾を巻いて逃げ出してしまう自分に、宮本の言葉を言い聞かせてはいるのだが。

2023年8月30日水曜日

ロバの耳通信「アンキャニー不気味の谷」「メッセージマン」

「アンキャニー不気味の谷」(15年 米)原題 Ancanny

まだまだ知らないことが多いことに気付く。長く生きてきたのに、まったく知らない言葉に出会った。この映画の題名だ。劇中でも紹介されるが、日本のロボット工学者の森政弘が70年に提唱した説「不気味の谷現象」からきている。ロボットを進化させ、人間に近くしてゆくとあるところで進化したロボットに突然、不気味さや嫌悪を感じ、その後の進化でより人間に近くなるとそれが好意にかわるということらしい。
あちこちで、人間に似せたロボットを見るようになってワタシが感じている一種の気味悪さは、ロボットがさらに進化する前兆なのかと、一層気味悪くなる。

映画は、国の研究機関で働くロボット工学の研究者と彼のロボットのもとにインタビューに来た女性雑誌記者との三角関係のもつれを描いたものだが、映画の後半はとっておきの種明かしを次々に見せられ次はどうなるんだとさらなる「不気味」期待のドキドキが収まらず。とんでもないラストのあとにタイトルバックが流れ、一息ついたところでダメ出しのシーンでもう一度「不気味」を感じることになった。


「メッセージマン」(18年 インドネシア・オーストラリア)

アクションまたはオバケのイメージのインドネシア映画ということでちょっと舐めていたのに、半端ないスピード感にすっかり参ってしまった。「ジョン・ウイック」+「ミッション・インポッシブル」の造りなのだが、脚本もしっかりしていて手抜き感ゼロ。耐えに耐えていたスーパー・ヒーローが悪の本拠地に乗り込み、負傷しながらも敵を一掃のスジは珍しくもないが、インドネシアの貧しい島を舞台にした少年と隠遁生活をするヒーローの交流やそれを踏みにじる海賊の登場など、人情モノの設定が良かった。製作スタッフも配役も全く知らない映画だったが、映画は娯楽ーのキホンをきっちり守った予想外の面白さに脱帽。続編を心待ちにしたい。

2023年8月20日日曜日

ロバの耳通信「ザ・レポート」

 「ザ・レポート」(19年 米)原題:The Report

9.11テロの捜査でCIAがテロリスト容疑者を尋問。その記録の一部がなくなっていたことに気付いた民主党上院議員がスタッフに調査を命じた<このとりかかりのところがやや曖昧>。新任スタッフ(アダム・ドライヴァーが好演)が約5年にわたりCIAの活動内容を精査し、CIAによる酷い拷問に何の成果もないどころか、それを続けていたことを調べ上げ報告する。上院議員はこれを公表しようとするが、共和党など相対する政権に妨害を受け、墨塗りだらけの報告書でしか公表できなくなり、同時に調査スタッフはCIAの陰謀で刑務所行きを宣告されそうになる。結局、民主党上院議員やほかの議員たちの頑張りにより、CIAの悪行が暴かれる。


CIAの悪行に知らんふりをした当時の政局メンバーたちも実名で語られ、最後は暴露されて報告書は公開され、ムショ送りされそうになった調査スタッフも無事だったという結末が出来過ぎの感はある。もっとも、事実が明らかにされず、調査スタッフも刑務所に送られるか暗殺されてすべて闇の中、の結末のほうがより強い問題提起にはなるだろうが、暗いばかりの作品だと世間に受け入れられないし興行収入も期待できないだろうからこういう終わり方にするしかなかったのか。

映画の中で繰り返しメッセージとして伝えられるのが、テロリストがどんな酷いことをアメリカ国民にしたとしても、CIAがその捜査中に拷問など非人道的行為があったという暗黒歴史を明らかににし、こういうことを繰り返さないことを肝に銘じておかないとアメリカの国際的な信用、政府に対する国民の信頼を失ってしまうーということ。きれいごと好きのアメリカのメッセージ映画らしく、格好良すぎの感もある。それにしても、明かさない真実が多すぎると思う、アメリカに限らずどこの国でも。権力者の悪行など証拠なんてないけれど、プンプン悪臭は感じてしまう毎日。鼻がマヒするまでの間ではあるが。

実話をもとに作られたという映画。アメリカ公開のあとは日本も含め公開されていないため話題にはなっていないようだが、必見の映画だと強く思う。

2023年8月10日木曜日

ロバの耳通信「死霊館のシスター」「メタルヘッド」

「死霊館のシスター」(18年 米)原題The Nun

なんて安っぽい題だなーと舐めていたら、とんでもなく面白い映画だった。スジはルーマニアの修道院で起きた変死事件を調査するために神父と修道女が派遣され、悪魔祓いを行う、とそれだけの話なのだが安っぽいB級怪談映画とかとは大きく違い、筋立てがキチンとされているためワケ不明で突然オバケがでてきたりはしない。どこかの修道院か古い教会を借り切ってのロケも手抜きがなく、CGもよくできていて感心。
映画で学ぶことは多い。映画のなかで”しゅうせいせいがん”ー吹替なのでこう聞こえる言葉が何度か出てきて戸惑っていたら、修道女が悪魔と本格的に戦うために「終生誓願」の儀式を神父に依頼するところで、ああそういうことなのかと理解。
修道女役のタイッサ・ファーミガがあまりにもピッタシだったのこれも調べたら両親はウクライナからの移民だと。普通に可愛いとかキレイ以上の魅力があった。
あまりに面白かったのでwikiでチェックしたら、「死霊館シリーズ」(13年~)のひとつらしい。題名だけを見てバカにして悪かったと反省して、このシリーズ見てみよう。

「メタルヘッド」(11年 米)原題 Hesher

古い映画。見終わって、長い間映画館やネットやDVDと付き合ってきた筈なのに、こんないい映画、なんで今まで知らなかったんだと口惜しかった。雨の日のヒマツブシにたまたま覗いたGyaoで発見。最高に良かった。

自動車事故で母を失った少年と放浪人Hesher(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の出会いと別れ。少年の父は妻を失くした喪失感から抜け出せずテレビと精神安定剤に頼る暮らし。優しい祖母は痴呆気味でベッド生活。たまたま知り合ったHesherは少年と父、祖母の暮らす家に勝手に居候。少年を虐めから救ってくれたスーパーのレジのおばさん(ナタリー・ポートマン)に思いを寄せる少年だが、尋ねたおばさんの家でおばさんとHesherのベッドシーンを目撃。この映画のキャッチコピー”最悪の人生にファック・ユー!”そのもの。祖母の葬儀でも大暴れのHesherがハチャメチャだが、こんなに哀しくて、愛情に満ち溢れた映画はない。ラストシーンは泣くよ。

ジョセフ・ゴードン=レヴィット(「LOOPER/ルーパー」(12年 米)、「スノーデン」(16年 米)もナタリー・ポートマン(「レオン」(94年 仏米)、「ブラックスワン」(10年 米)ほか)ふたりとも大ファンだから、余計にこの映画への思い入れも強くなってしまったかも。少年を演じたデヴィン・ブロシューが良かった。

2023年7月30日日曜日

ロバの耳通信「出版禁止」「アトミック・ボックス」

「出版禁止」(17年 長江俊和 新潮文庫)

出版社に勤める男が心中事件を調べていくうちに、心中の片割れの女と関係を結んでしまい、ついにはその女と心中することになる。実際に起きた事件を追いかけるというドキュメンタリーという形式をとっているから、ノンフィクションのように思えたので、それらしい心中事件をググってみたが見つからない。書評やら読書ブログから、この心中事件の元のハナシを探したのだが、結局わからなかった。著者は映像作家というから、あちこちで起きた心中事件からハナシを組み合わせたものかもしれない。
L'ASSASSIN DE CAMUSという副題がついている、カミユの刺客。表紙も凝っているし、登場人物の名前はアナグラムになっているなど、著者の遊び満載。著者の遊びは読者が同調できたら、一緒に遊べるのだが。

「アトミック・ボックス」(17年 池澤夏樹 角川文庫)

500ページ弱、一瞬の息抜きなしで、ジェットコースターで駆け降りる感。エンターテインメント小説は、こうでなければ。
父が開発に携わっていた国産原爆”あさぼらけ”の秘密を、死にゆく父から受け継いだ娘が、警察に追われる。逃げ惑うのでなく、巨大権力を持つ追っ手のウラを欠いて泳ぎ、走り回る。トム・クルーズの「ミッション・インポッシブル」の世界だ。

”あさぼらけ”を必死で隠蔽しようとした国家権力は、ソレが北に流れ北朝鮮の核開発の成功のカギとなったことを認識していた、とまあ、社会性の高い話題をストーリーにしていて、追う、逃げるの説得力が増している。

こういう面白い本に出合うと、まだまだ読み足りないなと。

2023年7月20日木曜日

ロバの耳通信「復活祭」

「復活祭」(14年 馳星周 文芸春秋社)

小説はエンターテインメントでいいと思う。金、酒、暴力、ドラッグ。馳らしい小道具を揃えたのに、舞台とした「株式公開」にディテールもリアリティも全くなく、その上で繰り広げられる男と女の騙し合いがなんとも空々しいものとなってしまった。

本作の前編である「生誕祭」(03年)では舞台が「地上げ」で、欲だけに焦点を当てても連日の新聞報道で、身の回りで起きている実際の地上げがほぼ力づくだけで起きていたことを多くの読者は知っていたから、その舞台に納得しそこで繰り広げられる男と女の騙し合いに思い切り感情移入できたものだ。

「株式公開」を舞台にするには馳の勉強が足りなかったのではないか。中身のない会社で法外な価値を付けて公開はできないし、幹事証券会社を簡単に抱き込むことなどなどできはしない。そして、舞台は違えど夜の女たちの復習劇も2番煎じは飽きる。数多くの馳作品を読んできて「いままで、すべて」面白かったのに。うーん、「生誕祭」でやめておけばよかったのに。

2023年7月10日月曜日

ロバの耳通信「ザ・キング」「サスペクト 哀しき容疑者」

 「ザ・キング」(17年 韓)原題:The King

地方都市の不良アンチャンが親父を虐める検事の権力を見せつけられ、猛勉強して地方検事になった。財閥の息子の女子高生レイプ事件をもみ消す代わりに人脈を得、ソウル中央地検のエリート部長に見込まれ出世したが、上に行けば行くほど、政治家と結託して私腹を肥やしていることを知る。エリート部長に利用され使い捨てにされたことから、彼に仕返しすべく国会議員を目指す。大統領の交代のたびにスキャンダル情報を武器に有利な地位につこうとする検事、政治家、財閥はいかにも韓国らしいとも思うが、まあ、どこの国も同じか。

権力に憧れ出世の道を目指す主人公の青年検事テス役がチョ・インソンアンなのだが、エリート部長で検事総長まで上り詰めたガンシク役のチョン・ウソンのほうが断然格好良かった。高級ホテルのペントハウスでインド映画風にディスコダンスを踊ったり、高級レストランで上品にステーキを食べるシーンなんか、エリート臭さいっぱいで、最高で気に入った。チョン・ウソンの作品を調べてみたら「神の一手」(15年)、「アシュラ」(17年)、「藁にもすがる獣たち」(21年)などなど見てない作品がいっぱい。楽しみだなー。

「サスペクト 哀しき容疑者」(13年 韓)原題:용의자

北朝鮮特殊部隊の元工作員チ・ドンチョル(コン・ユ)が妻子を殺し韓国に逃げ込んだ犯人を追うという単純なスジだが、彼を支援する脱北者の重鎮やら、対北情報局室長、韓国防諜部大佐が絡んできて三つ巴のアクションに仕上げている。コン・ユのファンだから、また見てしまった。とにかく何回目かの視聴だが、なぜか飽きていない。

ガマンして耐えに耐えた不遇の主人公が最後に爆発して悪に報いるというストーリーは日本のヤクザ映画のソレと同じで、日韓の血が同じ源流にあることを感じさせる作品。ワタシは健さんや文太アニイの昔のヤクザ映画が好きなのだ。

2023年6月30日金曜日

ロバの耳通信 「異境」「サイレント・ブラッド」「ペトロバ 禁断の石油生成菌」

 「異境」(14年 堂場瞬一 小学館文庫)

横浜を舞台にした新聞記者と女刑事のミステリーサスペンス。2人の孤独な主人公、上司とやりあって本社から横浜支局に左遷された一匹狼の甲斐と潔癖さのために県警内で孤立している翔子。このシチュエーションは堂場作品では当たり前なのだが、衒わないから安心して読める。勧善懲悪、やっぱり娯楽小説はこうでなきゃ。

「サイレント・ブラッド」(11年 北林一光 角川文庫)

失踪した父親の車が長野山中で見つかった。父親の痕跡を探しに向かった息子が地元で知り合った娘と出会う。登場人物は娘の血縁のイタコの老婆やら、ダム開発で大儲けを企む地元の建設会社の社長など、横溝正史ばりのなにかなつかしさを感じる筋ダテの山岳+推理小説。

著者北林一光とはこの作品で初めて出会ったが、相性は良さそうだ。45歳で亡くなったというし、作品数も少ないらしいけれど、ほかの作品も読んでみたい。

「ペトロバ 禁断の石油生成菌」(07年 高嶋哲夫 文春文庫)

石油を生み出す細菌がこの作品のテーマだと知って、なんとありふれた素材かとバカにしていた。そんな細菌など有りはしないのだが、小説や映画の世界で何度も登場していたからだ。だから、OPECを始め、世界の石油関連の機関が、この細菌を入手するため、あるいは現行権益を守るために消滅させようとするなんてのは当たり前のシナリオだとタカを食っていた。

ところが高嶋の味付けはソレで終わらず、その細菌が有機体、つまり人体を餌とし石油を生み出す、猛毒の感染症の細菌だったと。うーん、そういう手があったか、と。後半の展開はいつもの高嶋ジェットコースター。あっという間に読み切った。高嶋哲夫に”ハズレ”はなかったようだ。

2023年6月20日火曜日

ロバの耳通信「面白くなかった映画備忘録」

 天気のせいで家に缶詰になってしまった。Amazon Primeを探索して、いくつか見たが、全敗。時間のムダだった。うっかり、また見てしまわないように、「面白くなかった映画備忘録」のつもり。


「デンジャー・クロース 極限着弾」(19年 オーストラリア)原題:Danger Close: The Battle of Long Tan

ベトナム戦争時に圧倒的多数のベトコンと対峙しオーストラリア軍の戦い「ロングタンの戦い」。そもそも、ベトナム戦争にオーストラリアやニュージーランドが参戦したとは知らなかった。あー、そういうことね、歴史を思い出せってか。


「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」(17年 フィンランド)原題:Unknown Soldier/Tuntematon Sotilas

強大なロシア軍に対し、圧倒的少数のフィンランド軍がよく戦ったねと誇りにし、また次々に死んで行った兵士たちへのの追悼は感じるが、映画の目的が分からない。歴史を知らない若者たちに見せるための祖国愛高揚映画か。


「ノルマンディー 将軍アイゼンハワーの決断」(04年 米)原題:Ike: Countdown to D-Day

アイゼンハワー役をがトム・セレック。うーん、こういう伝記モノの出来不出来は役者によるかな、やっぱり。もちろん、脚本・監督にも責任はあるのだろうが、同じような題名の「チャーチル ノルマンディーの決断」(17年 英)と比べると雲泥の差。


「エージェント・トリガー」(21年 カナダ)原題:Trigger Point

バリー・ペッパー(「プライベート・ライアン」(98年 米)狙撃兵ダニエル・ジャクソン二等兵役))が、クスリで記憶をなくしたスパイ役。敵、味方がよくわからないアクション映画。主人公も脇役も、みんなマジに難しい顔をして映画は進行するのだが、なにより、全体のスジがわからず戸惑うだけ。こんな使い方をされた俳優たちが気の毒な気がした。ウリがバリー・ペッパーとヒット作「24-TWENTY FOUR」(01年~ 米テレビドラマ)監督ブラッド・ターナーということなんだけど、もったいない感いっぱい。


「拷問男」(12年 オーストラリア)原作:Daddy's Little Girl

娘を実弟に殺された兄の復讐劇。つまらなくて早送り。後半は縛り付けられた弟を拷問、スプラッタシーンの連続。誰が見るんだこんな気持ち悪い映画。変態監督がスプラッタを楽しんでいるだけ。こんな映画、犯罪だよ。

2023年6月10日土曜日

ロバの耳通信「赤い指」「蒲公英草紙 常野物語」

「赤い指」(09年 東野圭吾 講談社文庫)

ネタをばらしてしまえば、平凡なサラリーマンが引きこもりの息子が起こした幼女殺しを隠すため、認知症の母を犯人にしたてようとするものの辣腕刑事加賀恭一郎に見破られるという物語だし、とんでもないオチもあったが、さすがにソコまでは書けない。このあと発表された「新参者」(13年)「麒麟の翼」(14年 ともに講談社文庫)と並びストーリーテラーとしての東野圭吾の力量が感じられる名作だと思う。

映画やテレビドラマで東野圭吾の作品でよく登場する加賀恭一郎役を(多分)すべて(ワタシの好きな)阿部寛が演じているためか、この「赤い指」の加賀恭一郎が最後の謎解きをするときも、阿部寛の顔が浮かびより情感を増した。

「蒲公英草紙 常野物語」(08年 恩田陸 集英社文庫)

東北の農村の旧家のお嬢様(聡子)のお相手をする村の医者の娘(峰子)の一人称で語られる長い物語。たかだか250ページの中編なのに、たくさんのことが語られ、それが自分にも染み入るのがわかる不思議な物語。恩田陸が女性の書き手であり、豊かな感性の中に身を浸す快感。
旧家とその周りの人々とそこを訪れた不思議な力を持つひとびととのことが、はじめはぼんやりと、それからだんだんと不思議な力によって起こされたことにより「物語」が明らかにされる。ただ、読み進めるうちにそれがどんな「物語」だったのかを意識することもなく、ただただソコに身をおいて、想像でしかないがなぜか懐かしく感じる農村の思い出に浸ることができる。

続編があるらしい。読みたい。

2023年6月7日水曜日

ロバの耳通信「クライシス」「ロックダウン」新作は1勝1敗やっぱりコメディは好みじゃない。

 「クライシス」(21年 米)原題:Crisis

アメリカがいちばん進んでいるらしいが、もはや世界の社会問題となっている合成鎮痛剤という新しい麻薬。この映画で初めて名前と問題の大きさを知った「オピオイド」。

オトリ捜査で密輸の流れを追う刑事ジェイク(アーミー・ハマー)の妹は重度の依存症。知らないうちに運び屋にされたことから証拠隠滅のためマフィアに殺された息子の死の真相を追う女性建築家クレア(エヴァンジェリン・リリー)、大手製薬会社から委託され非依存性の評価をしていて最終段階で新製品の鎮痛剤に強い依存性があることを発見し、販売中止を主張する大学教授ブラウアー(ゲイリー・オールドマン)。3つのストーリーがそれぞれに進み、立場の違う3人がそれぞれ真相に迫ってゆく様はミステリー小説を読んでいる感。マフィアの親玉は死に、大学教授は別の大学に移籍など、ラストの切れの悪さは気になったが、問題提起の映画としてはこれくらいが限度か。

「ロックダウン」(21年 英・米)原題:Locked Down

新型コロナウイルスの感染対策のためロックダウンされたロンドンが舞台。アパレル企業のCEO役のアン・ハサウェイとトラック運転手役のキウェテル・イジョフォー。なんとも不似合いななカップルだが、コメディだからしょうがないか。

ロックダウンのせいで破局寸前だったカップルがロンドンの高級デパート

ハロッズの商品の疎開のドサクサに紛れ、ダイヤモンドを盗み出す計画を実行する。

前半は、意思の疎通がうまくゆかずギスギスした2人のやり取りと、それぞれがスカイプやズームで友人たちとリモート会話するシーンばかりで、昨今のイライラ日常生活の延長戦。映画紹介にはクライム・サスペンス・コメディとあったが、ほぼコメディ。アン・ハサウェイは相変わらずキレイだし、ソコに文句は言えないが、こういう映画誰が楽しむんだろう。

アン・ハサウェイがポンポンと品物を買い物カゴに放り込んだ、ハロッズのデパ地下超高級食品売り場、なんだか懐かしかった。コロナが終わっても、もう行くこともないだろうな。


2023年5月30日火曜日

ロバの耳通信「友罪」「仇討」「自虐の詩」

「友罪」(18年 邦画)

神戸連続児童殺傷事件<酒鬼薔薇聖斗事件>の犯人少年Aのその後を取り上げた同名の原作(14年 薬丸岳 集英社)の映画化だという。97年当時新聞等で大変な話題になったし、その後「絶歌」(15年 元少年A 太田出版)というキワモノ本も読んでいたから自分なりの感想も持っていたのだけれども、この「友罪」に何か物足りなさを感じた。
映画はエンターテインメントとしてだけでなく作り手の想いが入るのは当然だと思うし、原作も読んでいないのでこういう言い方は卑怯なのかもしれないが、この映画で作り手は何を伝えたかったのだろうか。元少年Aと元出版社職員の友情(?)がメイン、事故で子供を殺してしまった青年の父親の遺族への贖罪の物語と元AV嬢が懸命に生きようとする姿、少年Aの更生施設の教師の家庭崩壊、元出版社職員の子供の頃のイジメ事件など多くのサブストーリーがこの映画の焦点をボケさせている。配役は元少年Aの瑛太や元AV嬢夏帆、贖罪に苦しむ父に佐藤浩市、教師に富田靖子など錚々たるメンバーを揃えながらも、監督・脚本の瀬々敬久(ぜぜ たかひさ)のせいなのか、彼らの演技うまさが映画全体をただ暗く引きずってしまった。
この映画、私はキライだ。元少年Aへの嫌悪でもなく、怖さでもない。つまらなかったのだ。2時間以上もかけて私に何も残してくれなかったから。

「仇討」(64年 邦画)

今井正監督、中村錦之助主演。モノクロ画面だというだけで、古さを全く感じさせない。配役のかなりの方が鬼籍にいるにもかかわらず、映画の中ではイキイキしている。
脚本(橋本忍)も撮影(中尾駿一郎)も音楽(黛敏郎)も最高の出来で、邦画の黄金時代の作品だと感じる。スジは些細なことで紛糾した武士たちの諍いの結末として、仇討という公開処刑場に引き出された主人公(中村)は結局惨殺される。家や身分などの理不尽さも伝わってくるが、何より持って行き場のない下級武士の怒りが画面いっぱいに映し出され、見終わった時の疲労や無常観は半端ない。たまたま動画サイトで見つけた映画だったが、こんな映画を見て育った昔のヒトは恵まれていたなと、うんワタシもそうなのだ。

「自虐の詩」(07年 邦画)

4コマ漫画(85年~業田良家 週刊宝石、ほか)の方は良く知っていて、映画化の記事が
映画雑誌に出た時は、ムリじゃないかと。なんだか、世界が違う感。4コマ漫画にストーリーはない。週刊誌のオマケから単行本までなったが、積み重ねただけでストーリーはない。映画でいえば超短編のオムニバス。一瞬の面白さは4コマに敵うものはない。
映画「自虐の詩」は、薄幸の主人公幸江を中谷美紀、”ちゃぶ台返し”でしか気持ちの表現ができない内縁の夫を阿部寛、そのほか雑多な配役に遠藤憲一、カルーセル麻紀、西田敏行ほかオールキャスト、俳優組合救済映画の感。誰も役に合ってない。漫画が原作だからしょうがないか。漫画の方がずっと面白かった。同じ不幸な女の役を演じた中谷美紀の「嫌われ松子の一生」(06年)なんて、すごく良かったのに。阿部寛もゼンゼン役に合ってない。主役のふたりが役に合ってない映画が面白いワケないよね、やっぱり。

2023年5月20日土曜日

ロバの耳通信「ウェストワールド」「アポカリプト」

「ウェストワールド」(16年~ 米テレビドラマ HBO)

原作はマイケル・クライトン初監督の映画「ウェストワールド」(73年 米)のリメイク。ロボットの反乱というストーリーの衝撃やユル・ブリナーの不気味さは半世紀近く経った今も忘れていない。
HBOテレビ版「ウェストワールド」シリーズ1を動画サイトで。アメリカってすごいと思う。一流の制作陣、俳優たち、良くできたセット、オープニングの映像、一見でお金がかかっているとわかる。テレビドラマでこんなことできるのか。ドラマの中でアンソニー・ホーキンスが語る人生観に同意したり反発したり、結構深いところもある。R15の制約がついているにしても、たかがテレビドラマとの先入観で見始めたが、精神的な質の高さに驚く。農場主の娘役(アンドロイド)を演じているエヴァン・レイチェル・ウッドの美しさは惚れてしまいそうだ。エヴァンの映画はいくつか見たが化粧や衣装で全く変わってしまっていて、改めて女はバケモノの感を強くしつつも、こういう美しいアンドロイドがいたら人間なんてイチコロだろうな。シリーズ1の10話を追われるように一気に見て、シリーズ2(18年~)の次の展開に、見る前からドキドキしている。中毒だな、これは。

「アポカリプト」(06年 米)

メル・ギブソン監督が思い入れ一杯で作った映画だが、売れなかったというwiki情報があり、とはいえあの「ハクソー・リッジ」(16年 米)で監督やったメル・ギブソンの映画ということで見てみた。スペイン人に追われたマヤ人の物語という事前の情報しかなかく、メル・ギブソンらしくスペイン人の横暴とかが描かれているのかと思ったらほとんどそういう思想的な匂いもなくて、これがただただとんでもない面白さ。
マヤに住むインディオが森に住む少数派のインディオをひたすら追いかけまわすというジェットコースター追跡劇。舞台はジャングルに滝に底なし沼。メル・ギブソンは映画に何かの思いを込めたのかもしれないが、そんなことはどうでもいいと思うくらいのスピード感が楽しかった。現代人から見たら、残酷なシーンもあってR指定だけれど、その時代だと当たり前だったのかも。著名な俳優も気の利いたセリフもないが、映画はこうじゃなくっちゃ。