2020年12月27日日曜日

ロバの耳通信「椿姫」浅田次郎漬けの日々・・

まとまった時間がとれたらやりたいと思ってたことが浅田次郎三昧。寒いし、コロナは怖いし、ネット動画もちょい飽き気味ということで、文庫本、電子ブック、朗読サイトなど総動員で浅田次郎漬けに浸ってみた。

「ラブレター」「鉄道員 ぽっぽや」集英社文庫)何度読んでも泣ける。”五郎さん”と手紙のなかで呼びかける中国人妻”白蘭”の声を夜中に寝床で聞きながら寝落ちしてしまい、朝、マブタが張り付いているのはいつものこと。中井貴一主演の映画も堪らない。同名の映画の韓国リメーク版も見たが、字幕版だしダイコン女優のせいでゼンゼンつまらなかった。

「獬(シエ)」「椿姫」文春文庫)飼い猫を失った独身女が立ち寄ったペットショップでヒトの哀しみを食べる”獬(シエ)”をもらう。文庫本で読んだときはそう感動もしなかったが、動画サイトで中井貴恵の朗読を聞いてマイってしまい鼻水が出た。いまさらながらだが、朗読の声は大事だ。


「マダムの咽仏」「椿姫」文春文庫)おかまバーのママが亡くなった話だけなのだが、若い頃、取引先のえらい人に連れられて何度か行った新宿2丁目のバーのママのことを思い出した。

「琥珀」「夕映え天使」新潮文庫)定年前の刑事が気まぐれに寄ったコーヒー店で、店主が時効直前の妻殺しの犯人だと気づく。ネルドリップのコーヒーの旨さと温かさにお替りを頼むシーンがあり、ペーパーでコーヒーを煎れてみたが、そう旨くなかった。ネルドリップの道具が欲しくなった、いつものカブレ癖。

「すいばれ」「霞町物語」講談社文庫)海の家で恋に落ちた大学生の物語。若い頃に見た石原裕次郎の「狂った果実」(56年 邦画)を思い出した。自分の生年から考えて封切り時ではなかったと思う。北原三枝の水着姿を見たような気がするが、「太陽の季節」(同年)の南田洋子の水着姿だったかも。焼けつくような夏の持って行き場のない焦燥感が懐かしい。

「うたかた」「見知らぬ妻へ」光文社文庫)、「遠別離」(「あやしうらめしかなし」双葉文庫)、「ひなまつり」「薔薇盗人」新潮文庫)、「月のしずく」「月のしずく」文春文庫)・・いい時間だった。

2020年12月23日水曜日

ロバの耳通信「ありがとうございます」

 「ありがとうございます」(07年 テレビドラマ 韓)


韓国ドラマは何度も挑戦しているが、通し(全話)で見たことがなく、その道の達人であるカミさんと会話。カミさん曰く、名作は何度見ても感動シーンで引き込まれ泣いてしまうと。いま、カミさんが飽きもせず何度も見ているのが「いとしのソヨン」(12年)で50話もある大作でおススメだと。韓国で最大の視聴率を獲ったと。ということでワタシも見始めたが、2話で挫折。で、何が気に入らなかったかを自分なりに検証してみたら、シリアス人生ドラマなのに場違いのコケティッシュな登場人物が出ることかと。

ヒロインのソヨンが映画のロケを蹴っ飛ばして、母親の危篤の報を受け盗んだオートバイで走るシーンや家庭教師として雇われた金持ちのバカ息子とのやり取りとか、お笑いじゃないだろとキレてやめた。カミさんに言わせれば、ソヨンが幾多の困難を乗り越え成長してゆくところが泣けると。わかるけど、途中でお笑いとか入れられたりすると萎えてしまうのだよ。ワタシは映画に没頭し、不条理や恵まれぬ運命に対する怒りや哀しみに浸るのが好みなのだから。

「冬ソナ」(02年)でも、叙情的な主題歌とCMの雪のシーンとかがが気に入り、さて本格的に見ようと始めた初話で大好きチェ・ジウがオチャメなJC役。なんじゃこれ、悲恋モノじゃなかったのかい、と続かず。

「ありがとうございます」では気の強いヒロイン(コン・ヒョジン)がHIVの幼娘(ソ・シネ)と認知症の祖父の面倒を見ながらミカンの通販屋をしながら、貧しいながらも歯を食いしばって生きてゆく物語。それを見守る外科医(チャン・ヒョク、この男優、気に入ったのでカミさんに聞いたら超有名な俳優だと)ほか芸達者を揃えスタートしたのに、脚本が悪いのか、ストーリーに統一性がなくシーンがアッチへ行ったりコッチへ行ったりで、アタマが混乱するばかり。ゾロゾロ出てくるほかの登場人物のキャラをいい加減にしたせいか、人物相関図を見てもドラマでの役割が良く分からないからドラマに入り込めない。2話目で、ワタシのお気に入りの外科医の恋人(チェ・ガンヒ)を膵臓ガンで殺してしまったから、先を見る楽しみも消えた。なんとかガマンして第4話の途中まで見て「やっぱり」放棄。途中を全部省略し、結末だけチェックしようと最終16話を見て、また萎えた。なんじゃ、この訳の分からん結末は、と。

韓国映画は好き。ただし、ノワールもの。悲恋はたまに見るが、コメディは見ない。映画は時間が限られているせいか、濃厚な気がする。韓ドラは50分もので16話が標準。当たらない切られ、当たると何話も続くのがテレビドラマの運命。とにかく、長いから間延びしてもしょうがないのだろうが、怖いのは怖いハナシばっかり、哀しいのは哀しいばっかりにしてほしい(勝手な言い草)。

2020年12月20日日曜日

★ロバの耳通信「少女外道」「凍土の密約」「鎮火報」

「少女外道」(13年 皆川博子 文春文庫)

裏表紙の”自分が苦しみや傷に惹かれる「外道」であることを知った”という私には初めての作家の短編集。どの作品も「少女」「外道」の軸のまま、古風だけれども、洗練された文章で書かれている。現在90歳の著者の70歳ころの作品らしい。医者でもあり心霊学者でもあった父親(塩谷信夫)の影響を受けたであろうと察せられるこの作品はミステリアスで官能的だが、いずれも太平洋戦争前後を舞台とし言葉も道具立ても古めかしいから若い人にはピンと来ないかもしれない。いずれにせよ昨今の小説とは一線を画するものとは異なるのは確か。

”「僕は溺死しかかっているんだから、近づかない方がいいよ。溺れそうになっている者は、手近にある何にでもしがみつくだろう。僕にしがみつかれたら、君も溺れる」「溺れてもいいです」千江は言った。”
というくだりがある、妙に共感を覚えた。心中の感覚を文章にするとこうなるのか。


解説を黒田夏子(小説家「abさんご」(13年 文藝春秋))が書いている。10ページ足らずの解説が的確でひとつの「作品」の重みを持っていることにも感動した。作品を読んだあとで、この解説を読んでほしい。私は解説のせいで、また本編をもう一度深読みせざるを得なくなったが、おかげでより共感を得ることができた。

「凍土の密約」(12年 今野敏 文春文庫)

今野の作品は刑事モノが多く、この作品も刑事モノの「凍土の密約」では公安刑事の主人公がロシアがらみの連続殺人事件を解決に導く。この主人公がロシア通で官費使い放題でロシア通商代表部の担当官とメシを食ったり、縄張り争いから警視庁の一般の刑事たちと反目したりするところは全く知らない公安警察の組織の話で興味深かった。一方、主人公が上の顔色を見ながら失点を恐れながらも公安部のエリート集団”ゼロ”を目指すところなど、会社員が企業の上位組織入りを狙うのに似て、どこも同じだなーという感想も。
一種と言えるのかもしれない。この表題は太平洋戦争後にロシアとアメリカで占領地日本の扱いで、現在の国境とは違う合意文書を作っていたらしいといういかにもありそうな話で、右翼の大物フィクサーが出てきたり、出版社に勤め情報を集める公安刑事やら、ロシアの女スパイやらもいて登場人物の多様さがストーリーに幅を持たせている。

昔、ロシアがらみの仕事をやった経験がありロシア通商代表部でジャム入り紅茶を御馳走になったり、結構親しくなった担当官もいたのでなんだか懐かしい気持ちになった。元駐ロシア外交官の佐藤優の本はほとんど読んだし、ロシアには何となく愛着を感じているし、ロシア料理大好き。

この公安刑事シリーズは何作かあるようだから、探して読みたい。

「鎮火報」(10年 日明恩 双葉文庫) 副題 Fire's Out

「埋(うず)み火」(10年 日明恩<たちもりめぐみ> 双葉文庫)で面白さに味をしめて読んだ消防士の物語。主人公ほかその母親、友人、同僚、はては行きつけの中華料理店のコックなど登場人物のキャラが際立っていて実に面白かった。続編、大いに期待。

2020年12月19日土曜日

ロバの耳通信「ウォー・ドッグス」「MI6 極秘指令」愛しの女優たち

「ウォー・ドッグス」(16年 米)

スキになった女優に会いたいから見る映画がある。wikiやinternet movie database のおかげで、女優名から映画の逆引きも容易になった。キューバ女優アナ・デ・アルマスがそう。それほど有名でもないが、私にとってはジェニファー・アニストン(「すべてはその朝始まった」(05年 米)ほか、ブラッド・ピットの最初の妻)や広末(涼子)並みの憧れの女優。
最初にココロを奪われたのは「ブレードランナー 2049」(17年 米)。「スクランブル」(17年 米仏)やキアヌ・リーヴス主演「ノック・ノック」(15年 米)も良かった。

「ウォー・ドッグス」は、イラク戦争の真っただ中、マイアミでマッサージ師をしながら高級シーツを老人ホームに売り込む仕事をしていたデビッド<アナ・デ・アルマスはデビッドの妻の役は、国防総省の入札システムに入り込んで海外の武器を売り込む仕事をしている中学の同級生エフレムを手伝うことに。一時大儲けしたが結局刑務所に。実話だと。騙し騙されでドキドキ、ハラハラで意外に面白かった。日本では未公開だというからDVDかネット動画で見るしかないけど。


「MI6 極秘指令」(08年 英・オーストラリア)

コレもスキになった女優に会いたくて見た映画。原題 False Witness/ The Diplomat テレビ映画らしく、日本では封切りされていないらしい。メに特徴があるクレア・フォーラニという女優が好きで、wikiから逆引きして見つけた。麻薬取引でスコットランド・ヤードに逮捕された外交官(ダグレイ・スコット)は、MI6のロシアンマフィア掃討作戦のオトリだったというなんだかどこにもありそうな、オカミの縄張り争いを題材にしたもの。クレア・フォーラニは、この外交官の元妻という設定で、当時36歳位。肌もキレイだし、オナカもぺったんのスタイルがいい。でもやっぱり、メがいい。

「ジョー・ブラックをよろしく」(98年 米)で死神ブラピに恋された役で有名になった女優でワタシもこの映画でまいってしいそれ以来のファン。

2020年12月13日日曜日

ロバの耳通信「三たびの海峡」

「三たびの海峡」(09年 帚木蓬生 新潮文庫)

精神科医でもある帚木の本では「臓器農場」(96年 新潮文庫)「閉鎖病棟」(97年 新潮文庫)が既読で、医者と患者の両方の視点で書かれた「深い」作品だったから、これもその類だと思い、タイトルと著者名だけで図書館から借りだしたのだが、「重い」小説だった。これほど日本人に迫害された韓国人のことを素のままに描いた作品をワタシは他には知らない。これでもか、これでもかと無言で日本人のワタシに反省を迫る。直球だ。梁石日をはじめとする在日作家たちが描いている日本人と韓国人の関係、恨みや蔑みばかりの変化球ーとはかなり違う。
帚木の描く韓国人には贖罪よりも韓国への憧憬もある気がする。帚木は、47年福岡県生まれ。当時ならダイアルを合わせれば普通に聞くことができた韓国ラジオ放送に、海峡を挟んだ隣国の歴史や精神文化を嗅ぎ取っていたのだろうか。当時は駅裏の朝鮮人部落に多く住んでいた虐げられた人々との交流もあったのかもしれない。それほど、本文中の韓国人が話す日本語のセリフは韓国人のソレである。
「三たびの海峡」は同名で映画化(95年 邦画)されているという。日本に徴用されて炭鉱で強制労働させられた朝鮮人河時根の役を三國連太郎が演じていると。適役だと思う。

2020年12月8日火曜日

ロバの耳通信「百瀬、こっちを向いて。」「あの人に逢えるまで」

 「百瀬、こっちを向いて。」(14年 邦画)

たまたまどこかで見た早見あかりの横顔が気に入って調べたら、この映画のカット。

映画評を見たら、高校生を主人公にした恋愛映画だと。ハヤリの少女マンガの映画化かと思っていたら、ちゃんと原作(同名 08年 中田永一 祥伝社)があった。



まいったな、久しぶりに泣きそうになった。よくできた脚本、早見あかりのために作られたんじゃないかと思える映画だが、ほかの配役も最高だった。ピアノ曲も。高校生主人公の恋愛映画なんて、舐めてたけど。

こんなに可愛いいコなんていなかったけど、自分にもこういう時代があった。懐かしくて、息苦しくて、胸がいっぱいになった。



「あの人に逢えるまで」(14年 韓国)原題:민우씨 오는날/英語題:Awaiting

30分弱の短編だから詳しい説明はされない。いつものように会社に出かけた夫が帰ってこない。妻は夫の好きな料理を作って、帰りを待つ。年老いてもずっと待ち続けるーとそれだけの映画。韓国の観客は最初のバスシーンでわかるのだろうが、ワタシには夫が帰らない理由が南北問題だったことに途中で気付き、ああそういう映画だったのかと。「シュリ」「ブラザーフッド」で南北問題を題材にした名作を手がけたカン・ジェギュ監督の作品。

映画のツリでは”究極のラブストーリー”とあったが、なんだか違うだろうと。再婚もし、アメリカに住む娘もいる。出かけていって帰ってこなかった(最初の)夫のことを、ボケが始まった老女が思い出しているそんな映画なんだよね。

夫が帰らない理由はどうでもよくて。いや、この南北分断による家族の別離にどうでもよくてという言い方は拙いだろうが、拉致、カミカクシ、事故などの生き別れ、いや死別もあるだろうから、ワタシがこの映画で感じ入ったのが”ずっと待つ”という寂しさ。

いちばん記憶に残っているシーンが、家の前で待つ若い妻の姿。玄関前の石畳の線に沿って足を置く、どこかで何度も自分がしたような記憶。悲嘆にくれ泣き叫ぶのではなく、自分ではどうしようもない辛さが通り過ぎてゆくのを待つ時の仕草。思い出し、泣けるのはこの映画の妻の姿ではなく重ね合わせた自分の過去。

2020年12月2日水曜日

ロバの耳通信「凶犯」「獣の夢」

「凶犯」(04年 張 平 新風舎文庫)

赴任してきた森林監視員と村人との間に起きた実際の事件を小説にしたものだとある。中国語の初版が01年だから新しい本ではない。とはいえ、中国の社会構造までも批判した小説が中国国内でベストセラーになり、日本語訳が文庫本として読めることにある種の感慨を覚えた。

事件の調査をした物分かりのいい上級役人を称える褒め殺しの本に終わるかと予想していたら、ことなかれ主義で事件を葬り去った結末に、得心してしまった。著者の張 平は著名なドキュメンタリー作家だという。官憲の息を感じる環境でも、こういう作品が生まれているようだ。開かれたようにさえ見える中国文学にもっと触れたい。


「獣の夢」(06年 中井拓志 角川ホラー文庫)

難解、予測不能のトリッキーな文章で、読者が怖がることを期待したのかと思わせるホラーミステリー作品だが、怖かったのは文章より内容そのもの。前半は小学生たちによる猟奇バラバラ殺人、後半は2チャンネルもどきのネット心中。この本が書かれた時代は、SNSはほとんどない頃。ネットで集まってのオレオレ詐欺やこの作品のようなネット心中が昨今流行っていて、中井の先見に驚く。

新型コロナ肺炎のせいで本屋や図書館に行くこともほとんどなくなって、電子図書に頼ることが増えた。旧式の7インチのタブレットは長く持つには重すぎ、布団の中で読むこともなくなり、いつでもどこでも読める文庫本が恋しい。
電子図書の良いところは、本の厚み(ページ数)をあらかじめ頭に入れていないと、紙の本のように残りのページ数を感じながら読むことができないから、終わり方の予想ができない。「獣の夢」も、夢中で読んでいたら、命綱を突然切られたような唐突な終わり方だった。うん、こういう楽しみ方もあるのかと。ミステリー小説はいつ終わるかわからない電子図書だからこその楽しみもある、まあ、紙の本が読めなくなったことの負け惜しみでもあるが。

2020年11月25日水曜日

ロバの耳通信「ラストデイズ・オブ・アメリカン・クライム」「ポゼッション」

「ラストデイズ・オブ・アメリカン・クライム」(20年 米)原題:The Last Days of American Crime

いままでほとんどハズレのなかったNETFLIXオリジナルでは珍しい「ハズレ」。原作はアメリカのオトナ向け漫画単行本であるグラフィックノベルだと。

近未来、犯罪の増加に手を焼いたアメリカは脳をコントロールできるシグナルを出することで犯罪防止しようとしていた。つまりは、悪いことをしようとすると頭が痛くなって、身動きがとれなくなるシグナルらしい。なんともとんでもない設定だが、そのシグナルの施行前に紙幣の印刷工場から大金を盗み、シグナルの届かないカナダに逃げようとするギャングたちを主人公にしたクライムアクション映画。

NETFLIXオリジナルらしく、出演料の高いメジャーな俳優は出てこない。ただ、原作の版権までケチるとこうなるーの見本のような失敗作。ハデなドンパチやカーアクションだけでは、レベルアップした聴視者は見なくなるよ。もっとストーリー、演出や脚本も大事にしようよ。オリジナルにこだわりすぎて聴視者にソッポを向かれた、HBOと同じ運命をたどるよ。

「ポゼッション」(12年 米)原題:The Possession

原題は悪魔の憑依みたいな意味らしい。娘がガレージセールで買った木箱には悪魔が取りついていたというホラー。製作がカルト映画の帝王「あの」サム・ライミ、主演がジェフリー・ディーン・モーガン(「ウォーキング・デッド」シリーズ(17年~米テレビドラマ)で極悪ニーガンを好演)ということで期待。ホラー映画らしく、突然の大きな効果音とか、たくさんの蛾やら散々脅かしてくれたが邦画のように、なぜこうなったかの背景がないから、ただのお化け屋敷と同じ。まあ、楽しめたけどね。新しい印象ホラー映画の楽しみは終盤に出てくる悪魔だが、そう汚くも怖くもなかったかな。悪魔再臨の「続編」期待のラストシーンだったけど、まだ出てないところを見ると、たいして評判良くなかったのかな。

wikiによると同名のホラー映画(81年 仏・西独)があって、今年HDリマスター版が今年上映されたらしい。40年経ったものがまた上映されたんだから、それなりの映画かな。こっちも見たい。

2020年11月20日金曜日

ロバの耳通信「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」「上と外」

「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」(19年 文芸春秋社 大島真寿美)

副題を「いのせやまおんなていきん たまむすび」ーと読めば、歌舞伎か浄瑠璃ものかと想像もつく。浄瑠璃作家の近松半二の生涯を描いた作品で、浄瑠璃について全く知見がなかったにもかかわらず、この作品に触発され、YouTubeで浄瑠璃代表作の曽根崎心中を見た。人形の表情が良くて、なんだかこの世界にハマってしまいそうな予感。

全編、大阪弁というのだろうか浪速の言葉での江戸時代の物語だから、タイムスリップし異界に身を置いた感。「半二」が著者大島自らが創作した浄瑠璃の物語の登場人物「三輪」と心を通わせるところに感動した。大島が「半二」を恋しいと思い、「半二」が自分が書いた浄瑠璃本の中の「三輪」を恋しがっている。うん、よくわかる。

ああ、ワタシも小説の中の架空の女の子「青豆」を本気で好きになったことがあったなと思い出した(「1Q84」(09年 村上春樹 新潮社))。誰かを好きになるなんて、結局は自分勝手な妄想の果てのようなものだから、キレイだろうとナマイキだろうと、架空のヒトでもいいのかも。とはいえ、こう書いていて「青豆」に会いたくなってきたから、また「1Q84」を読んでみよう。人恋しくて、誰かに会いたい。

「上と外」(03年 恩田陸 幻冬舎)

崩壊寸前の家族で行った南米でヘリコプターから落ちた兄妹がジャングルでサバイバル。マヤのピラミッドをめぐる青春アドベンチャー。インディー・ジョーンズの世界、恩田陸得意の異次元空間を楽しんだ。

ハードカバー500ページもなんのそので面白かったけど、ラストはもうちょっとなんかあっても良かったんじゃないと思うあっけなさ。まあ、難しいことナシで楽しく読もう。キャスティングが難しいところだけど、映画化されたらいいね。

2020年11月15日日曜日

ロバの耳通信「ジェミニマン」「ハウ・トゥ・エスケイプ?」

「ジェミニマン」(19年 米)原題 Gemini Man

国防省お抱えの伝説のスナイパーが引退を告げたとき、自分のクローンに狙われるハメに。アクション映画は大好き。主演のウィル・スミスは好きだし、共演のメアリー・エリザベス・ウィンステッドはメッチャ好みだし、配役も豪華。ブダペストのロケも素晴らしいし、製作費の約2億ドルも近年なかなかないお金のかけ方なのに・・面白くなかった。原作が面白くないのか、脚本が悪いのか、この手の作品でよく感じる、「また、見たい感」がゼロ

wikiによれば、本国での公開後まだ2カ月強しかたっていないものの、スゴイ赤字だと。確かに、予告編も冴えない。スゴイ広告宣伝費をかけたとあったけれども、要は見たヒトが少ないってことでしょ。
コロナやインフルが流行っている寒い時期に映画館に行くには、結構強い理由が要るよね。例えば、ネットや映画雑誌などでの前評判がすごくいいとか、よく知っているヒトのお勧めとか、好きな監督やお気に入りの俳優が出てるとか、いいシーンの繰り返しテレビCMとか。でなければ、寒い中、入場料や交通費かけて行こうって気にはならないよね。ワタシの個人的な好みは別にしても「ジェミニマン」って、なんで売れていないのだろうね。

「ハウ・トゥ・エスケイプ?」(12年 米)原題:Detour

土砂崩れで埋まってしまった車に閉じ込められた男がどうやって脱出するか。うーん、工夫を凝らし結局脱出に成功するのだが、いつまでもバッテリー切れにならない懐中電灯を持っていたり、道具もいろいろ持ってたり、なんだか出来過ぎていてつまらない。
なんでこの手の映画、ハッピーエンドで終わるんだヨ。ひとつぐらい、どうあがいても、出られずに飢えや渇きのため絶望に泣かせてフェードアウトとか、そういう映画にしてくれないかな。

この映画をパクったような韓国映画(「トンネル 闇に鎖(とざ)された男」(16年))もあった。有名スターのハン・ジョンウのおかげか韓国では大ヒットとのことだったけれど、ワタシにはこっちもつまらなかった。

2020年11月9日月曜日

ロバの耳通信「トゥモロー・ワールド」「エージェント・マロリー」

「トゥモロー・ワールド」(06年 英・米)原題: Children of Men

人類が生殖能力を失くした近未来の英国。最後の妊婦を守るために命を懸けた男の戦い。
キャッチコピーは”子供が産まれなくなった未来”

原作<「人類の子供たち」(99年 P・D・ジェイムズ ハヤカワ・ミステリ文庫)>に比べ、映画がずっといい。監督・脚本(アルフォンソ・キュアロン)、配役(クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーア、マイケル・ケインほか)、撮影(監督と同じメキシコ出身のエマニュエル・ルベツキによる超長回し)、音楽(インド出身の作曲家ジョン・タヴナー)などこれ以上ない組み合わせ。挿入楽曲「広島の犠牲者に捧げる哀歌」(クシシュトフ・ペンデレツキ)ほか「交響曲第10番」(ショスタコーヴィチ)ほかの名曲が違和感なしに使われていて、エンドロールの暗い画面と子供たちの声がより印象を強くした。

暴力に満ちた暗い映画だが、わかっているのは最高の映画だということ。つまらない映画のために費やしてきた時間を思い、何度目かのこの映画を折角の雨の日に。
人間にとって最も必要な”希望”をこれくらい温かく描いた作品をほかに知らない。

「エージェント・マロリー」(12年 米)原題:Haywire

原題の意味はよくわからない。ワラを束ねる針金。俗語もあるらしいが、とにかく意味不明。
大好きなスパイ・アクション映画ということと監督(スティーブン・ソダーバーグ)と配役(ユアン・マクレガー、マイケル・ファスベンダーほかメジャー俳優ゾロゾロ)が気に入って見た作品だったが、主役の総合格闘家ジーナ・カラーノの見せ場ばかり。ムエタイ出身だというマッチョボディなのだが、顔も仕草もゼンゼン好みじゃない。
たくさんのメジャー俳優の見せ場を作るために書かれたと思われる脚本にゲンナリ。アクション映画もストーリーがいい加減だと楽しめない。原作なんてないんじゃないかな。うーん、予告を見てからにすべきだった。

2020年11月5日木曜日

ロバの耳通信「武蔵」「五郎治殿御始末」

「武蔵」(11年 花村萬月 徳間書店)

宮本武蔵の本、映画どれも面白く夢中になったがこの花村萬月版も然りだ。花村萬月の色は女性への憧憬ではないだろうか。マザコンと言い換えてもいい。母親なら自身の身を犠牲にしてでもどんなことでも受け入れてくれる、そんな甘えをすべての女性に求めるのが花村萬月ワールド。求めても手に入れることができず、苦しみ身もだえする。

若き武蔵は性欲を持て余し、出会う女性すべてに発情する。いままで読んだ武蔵は強さを極めるためにありえないくらいのストイックさを持っていたように感じたが、花村が描いた武蔵は凡人の青春のように奔放で、切実だった。

新しい武蔵像の痛快さが楽しい。


「五郎治殿御始末」(09年 浅田次郎 新潮文庫)

浅田次郎の小説に接して不思議に思うことはこの話が実話を基にしたか、浅田の創作なのか。長い歴史のなかでこんなことがあっても不思議ではないと思うが、とにかくまいった。

幕末から維新への流れのなかで、あとに続くものたちに自らの死に様を見せた老武士の物語ーひとことで言えばそれだけの話しの小編だが、噛みしめながら何度も読みたい、読まなければならない気持ちにさせられるのはこういう生き方に憧れながらも、敵うことのない哀しみを感じるからなのか。


本や映画についてのブログをただ自分のためだけに書いている。あともどりもやり直しも効かず、もはや書き記すくらいしかできない。 

2020年11月2日月曜日

ロバの耳通信「新・第一容疑者」「刑事ヴァランダー」・・ドラマにはまる日々

 コロナ禍のせい・・とばかりも言えないが、外出の機会が減り動画サイトに貼り付くようになりAmazon PrimeやGyaoをお友達にしてしまった。天気でもよければカミさんに連れられて気晴らしの散歩に行くのだが、雨でも降ろうものならどうしようもない。

テレビも動画サイトの世界びっくりニュースみたいなものばっかり。第何波の感染拡大とかでヨーロッパの感染も広がっているようだし、オリンピックはゼッタイやりますと言っている誰かの言葉もむなしい。Go-Toなんとかもゼンゼン食指が出ない。うーん、ストレス溜まるなー・・

「新・第一容疑者」(11年~ 米テレビドラマ)原題:Prime Suspect

超ロングラン大ヒットの同名の英テレビシリーズ(91年~06年)のリメイクアメリカ版だというからオリジナル版<ヘレン・ミレン主演のイギリス刑事ドラマ>はさぞ面白いに違いないと探しているがまだ出会えずにいる。

うん、主演のマリア・ベロ(「ハムナプトラ3」(08年 米))が頑張っているリメイク版も充分面白いけれど、不倫、小児虐待、非行など社会問題を扱っている割には、作りがちょっと粗い気がする。



「刑事ヴァランダー」(08年~ スウェーデン・英テレビドラマ)原題:Wallander


スウェーデンの警察小説が原作。英名優ケネス・ブラナー(「ハムレット」(96年 英)ほか)が、妻に逃げられ自らも慢性疲労、糖尿病に悩む部長刑事役を演じていて、ヨレヨレになりながらも人種問題など行き場のない社会問題を背景にした犯罪者たちに対峙してゆく姿が共感を呼ぶ。舞台がスウェーデンの田舎町ということで寒さや暗さまで伝わってくる。
このドラマは気が滅入る。犯罪者たちも、被害者たちも、刑事たちもみんな幸せな顔をしていない。シリーズ2までで、見ている方の心が折れ続けられなくなった。悲しすぎると泣けないことにも気が付いた。

人がクライムノベル作品に惹かれるはなぜだろうか。


「いとしのソヨン」(12年~ 韓テレビドラマ)原題:내 딸 서영이 

カミさんがハマって50話もあるのに2度見とかしてるし、ゼッタイおもしろいと言うから見始めたが3話目で挫折。あこがれのチェ・ジウ主演の大ヒット「冬のソナタ」(02年~)も結局挫折。韓国映画、結構好きなのにと考えてみたら、好きなのはクライムノベル系ばかり。「ソヨン」も「冬ソナ」もクライムじゃないよな。ソッチ系で探してみよう。

「スモーク 救命消防署」(14年~ 英テレビドラマ)原題:The Smoke

消火作業で大やけどを負った消防隊分隊長がトラウマと戦う。毎回火災シーンの迫力がすごいのと、消防隊のメンバーとの駆け引きの会話が楽しく、つい見てしまっている。なにもしないよりいいかと英語の字幕版で英語の勉強をしている気分、すこし自己満足。



2020年10月23日金曜日

ロバの耳通信「氷平線」

「氷平線」(12年 桜木紫乃 文春文庫)

桜木のデビュー作だという「氷平線」に出てくるのは、子種のために酪農家に買われてきたフィリピン女性(「雪虫」)、人生を和裁を極めることに捧げた中年女性(「霧繭」)、世継ぎを生めないことで姑にいじめられる娘を連れて家を出る酪農家の嫁(「夏の稜線」)、幼なじみとの幸せな暮らしを夢見た娼婦(「氷平線」)など不幸な女性たちばかりだ。いや皆、辛い思いをしてもそれぞれにもう一歩を踏み出そうとするから、救いのようなものもあるのかもしれない。女は強いと思うし、男はその強さを畏れ、また憧れるのだ。桜木から逃れることができない気がする。

桜木を初めて知ったのが「無垢の領域」(13年 新潮社)。次がホテルローヤル 」(15年 集英社文庫)あまりの暗さに辟易としながらも、それでも共感してしまった。若い頃からネクラのガリベン野郎だったワタシは明るいキャピキャピの女のコより、どちらかというと静かな、というかネクラの女のコのほうにずっと惹かれた。暗いモノが好きなのだろう、間違いなく。

NHKの朝の特番で「ホテルローヤル」が映画化されたと。どうかな。本に敵う映画って、難しいだろうな。見たい気持ちと、見ない方がいいんじゃないかという躊躇と。
テレビの画面の向こうからの印象だけども、桜木紫乃って、こんなに面白いヒトだったのかと。

2020年10月21日水曜日

ロバの耳通信「鬼滅の刃」「東京喰種トーキョーグール」

「鬼滅の刃」(きめつのやいば 16年~ 吾峠呼世晴(ごとうげ こよはる)週刊少年ジャンプ 集英社・19年4月 テレビアニメ 20年10月 邦画)

流行りものに弱い。この漫画が話題になるたびに気になっていたのだが、”稚拙な絵”のため近寄るだけにしていた。結局、あまりの評判の高さに負け、既刊の約半分を読んだ。大正時代に家族を「鬼」に殺され、さらに妹まで鬼にさせられた炭焼きの少年が、妹を人間に戻すために修行を積み「鬼」と戦う。鬼に襲われた人間が人食い鬼になるゾンビ物語と剣の修行で強くなってゆく少年など、ストーリーの面白さはあるものの、なにせ漫画がヘタ。少年漫画に高度の質は求めていないが、表情の作り込みや、人物の描き方の稚拙さに途中で挫折。

テレビアニメを動画サイトで見たら、動きのある動画にしたことで多少漫画より見やすくなったが、目ばかりが大きな少女漫画に。声優のおかげてアニメらしくはなったが。
先週公開になった劇場版アニメ(無限列車編)が空前のヒットだと。まあ、コロナで禁足を食らっていた若者たちが反動で見に行っているのか。出口インタビューで、メッチャ感動したと興奮冷めやらぬ様子で語っている少女たちをテレビCMで見たが、劇場版って、そんなに良くできているのか。予告編見た限りじゃ・・うーん、やっぱり少女漫画だよ。無限列車編ということは続編ゾロゾロもヒット期待なのだろう。
何匹めのドジョウ狙いで実写版も出るのか。原作のストーリーを生かした映画にしてくれるなら見たいと思うが、昨今の流行りのアイドルを主演にした若者ヨイショの実写版なんて見たくないなー。本当は怖いストーリーなんだから、思いっきり怖く、残酷な、原作の家族への愛情あふれる映画。誰か「ちゃんとした」映画を作ってくれないかな。

「東京喰種トーキョーグール」(11年~ 石田スイ 週刊ヤングジャンプ 集英社、14年~ テレビアニメ、17年 実写版 映画)

人肉を食う人間の形をしたバケモノ「喰種」(グール)を主人公にした作品。ストーリー展開がシュールでクール。続編が次々に出て、シーズン4の48話まで続いた。作画がメッチャうまく、気味の悪さも秀逸。テレビアニメでは原作の持つ暗さが消え、実写化ではCGの遊びになって幻滅。

結局、初期の漫画が一番面白く、電子ブック化されたおかげで、今でも気味悪さを楽しんでいる。

2020年10月19日月曜日

ロバの耳通信「主任警部アラン・バンクス」「ハンナ」「半沢直樹」

 「主任警部アラン・バンクス」シリーズ(10年~ 英ITV)原題:DCI Banks

このシリーズを見ていると、みんながが酒飲みで、離婚と結婚を繰り返し、その子供たちはグレているーそんな英国人の印象なのだが、自らの娘の非行や部下との交際など難しい人間関係を抱えながら、凶悪犯罪と対峙してゆく主人公の主任警部が人間臭くて魅力的。難しい顔して捜査の指示を出しながら、部下を自宅での夕食に誘う。主任警部はバツいちの独身暮らしだから、下心アリアリ。部下もそんな誘惑にホイホイひっかかる。地方都市の警察とはいえ、そんなのありかよと、そういう経験も度胸もなかったサラリーマンでも中間管理職どまりのワタシは羨ましさにヨダレを垂らすしかない。

いわゆる普通の刑事モノだと、やたらと強かったり、メッチャ頭が切れたりで勧善懲悪で爽快感をというのがキホンなのだろうが、上にも下にも酒にも女にも弱いリーダーが地味に事件を解決してゆくところがいい。

「ハンナ」シリーズ(19年~ 米TV)原題: Hanna

同名の映画(11年 米)ではアクションを表に出しすぎたために、ストーリーを消化しないうちになんだか中途半端に終わってしまい感動の薄い作品になってしまっていた。続編狙いだったのだろうか、いまだに続編が出ていないから立ち消えになったのか、原作がそうだったのかはわからない。特にハンナ役の女優ほか配役も良かったのに残念。
このテレビ版は主人公だけでなく多くの登場人物にスポットを当ててストーリーに厚みを増していたのが良かった。自分自身のメモリー容量が充分でないことをしっかり認識しているから、こういうシリーズものは徹夜してでも一気見たい。Amazonプライムビデオの良いところは、ダウンロードさえしてしまえばネット環境やらタブレットの性能に関係なくいつでもどこでも楽しめること。まあ、間違いなく寝不足にはなるけどね。

「半沢直樹」シリーズ(20年 TBS)

池井戸潤の小説「半沢直樹シリーズ」を原作としたテレビドラマ。「日曜劇場」で放映の「半沢直樹」(13年の全10話)時代はコンサルで資産評価などを生業とし銀行マンの真似事をやったこともあり、ビデオ録画したものを興味深く見ては、堺雅人の”倍返しだ~”の決め台詞に留飲を下げていた。

今年になって続編が7月に始まり話題となっていることは知っていたが、同じようなスジをまた見るのもどうかなという気持ちだったし、テレビもビデオもほぼカミさんに占領されている状況だったから知らんふりをしていたのだが、最終回(9月27日)が近づくについて、ネットでも騒ぎ出したからまあ最終回だけでも見るかと検索したら、Gyao(Yahoo動画)で見ることができると。で、最終回をみたらこれが7年前の興奮を再燃させる面白さで、結局20年版の全10話もネットで見てしまった。勧善懲悪(今回のボスキャラは与党の幹事長)、ジェットコースターのようなストーリー展開は今回も面白かった。続編のハナシもあるらしい。秋の夜長に原作を読もうと決意。

2020年10月12日月曜日

ロバの耳通信「狂武蔵」「偽りの忠誠 ナチスが愛した女」

 「狂武蔵」(20年 邦画)くるいむさしーと読むらしい。

ネットで話題になり、映画サイトのランキングも高かった作品だが。だが、である。全編宮本武蔵役の坂口拓と吉岡門弟など400人との斬り合いシーン。歴史上の人物とはいえデフォルメされた武蔵だがさすがに後半になると手も上がらずヘロヘロ。これで斬り合いなんて噴飯モノだが、映画という虚構の世界だから何をやってもいいのだろう。

クラウドファンディングで資金を募ったーということがオモテに出ていて話題を呼んだが、映画そのものは殺し合いのシーンの連続なのに退屈。なにかが起きるかと期待していたが楽しくも、興奮も、メッセージも感じられない映画。期待させるだけのクラウドファンディングという金集め、客集めが流行っていると聞く。余裕かました人々が有り余ったお金をドブに捨てるのは勝手だが、先の見えない将来を懼れながらも食費をケチって小銭を貯めるくらいしかない下層国民の気持ちなんか彼らにはわからないだろうな。

この映画からしばらく経って、前に見た映画に似てたなと調べたら、「RE:BORN」(17年 邦画)と同じ筋立てだった。「狂武蔵」ほどではないものの、ただ殺戮の繰り返し。主演(TAK坂口拓)も監督(下村勇二)も同じ。二匹目のドジョウ狙いだったのか、一匹目も暗いだけのどうしようもない映画だったのに。

「偽りの忠誠 ナチスが愛した女」(16年 英米合作)原題:The Exception

邦題も原題も意味不明、見終わって感じたのは原作(03年 アラン・ジャッド)の「The Kaiser's Last Kiss」のママの方が良かったかなと。

第二次世界大戦中のドイツ軍将校(ジェイ・コートニー)とユダヤ人の女スパイ(リリー・ジェームズ)との恋物語。クリストファー・プライマーが演じるオランダに亡命中の元ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世とその妻(ジャネット・マクティア)の物語がこの映画のもうひとつの主題になっている。

リリー・ジェームスは英テレビドラマで「戦争と平和」でナターシャを演じているが、同名映画(56年米 オードリー・ヘップバーン、67年旧ソ連 リュドミラ・サベーリエワ)のヒロインたちの匂い経つような神々しさにもヒケをとらない美しさ。この映画でもノッケから美しい裸体を披露してくれた。

こういうスパイ映画の楽しみは、推理小説と同じくどういうラストになるかを予想しながら見ることなのだが、おお、そうきたかと予想外のラストを楽しんだ。

2020年10月5日月曜日

ロバの耳通信「海は見えるか」「リバース」「生きものたちの部屋」

「海は見えるか」(16年 真山仁 幻冬舎)

新聞記者出身の真山は企業買収を題材にした「ハゲタカ」(04年)でデビューして依頼、ノンフィクションのような硬質な作風が気に入りよく読んでいるが、東日本大震災を題材にした「海は見えるか」にいつもの鋭さがないのはなぜだろうと考えている。巻末に主要参考文献として東日本大震災の本が並んでいる。

「リバース」(15年 相場英雄 双葉社)

いつもの相場らしくない散漫さだ。これも、巻末の主要参考文献に同様の文献が並ぶ。たくさんの作家が、こうして本を書いているのだろうか。

「生きものたちの部屋」(98年 宮本輝 新潮文庫)

このエッセイは面白かった。作家としての私生活を知り、あれだけ優れた作品を苦しみながらも、次から次へと生んでいる宮本がなんだか近くなった気がする。より、好きになった気がする。巻末に著者が阪神大震災の遭った日記が紹介されている。自宅壊滅と物的被害で済んだらしいが、実体験だから生々しい。
この本の中で紹介された「名馬風の王」(87年 M・ヘンリー 講談社)の生まれつき口のきけない少年馬丁アグバと彼が世話をしたアラビア馬の交流。互いに物言えぬ者同士だからこそ、互いの心を理解したという話が出てくる。トツゼン、オスカーを4つも獲ったと話題になった映画「シェイプ・オブ・ウォーター」(18年 米)のおばさんと半魚人のラブストーリーを思い出した。そーなんだ、そこがこの映画の「言いたいとこ」だったのかと、やっとわかった気がする。

2020年10月3日土曜日

ロバの耳通信「半島」「エリザベス∞エクスペリメント」

「半島」(20年 韓)原題:반도 Peninsula


韓国ゾンビ映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」(16年)の4年後という設定の続編ーということになっていたが、ゾンビがゾロゾロ以外に脈絡はない。相変わらずの思いっきり汚いゾンビが走って追いかけてきてキモさ倍増。
「新感染 ファイナル・エクスプレス」では、ゾンビだらけのソウルから逃げ出したが、今回は釜山からフェリーで東京に向かう。なぜか途中から香港へ進路変更(ワケは明かされないが、政治的な含みありや・・)でストーリーの始まりは香港。4年前に韓国国内に残された多量の米ドルを回収に香港から再びゾンビだらけの韓国に戻る。見せ場はカースタント。ストーリーはとにかく、CGの出来が最高。

主演のイケメンのカン・ドンウォンがやたら格好良くてまいった。若くない(今年40歳)共演のイ・ジョンヒョンの存在感がスゴイ。何となく似ている気がする大好き綾瀬はるかとダブってしまった。それにしても韓国映画の子役はうまい。ただのゾンビ映画なのに最後に子供をダシにして泣かせようとするなんてズルいぞ。韓国では新型コロナウイルスの最中にも大ヒットだったらしい。

「エリザベス∞エクスペリメント」(18年 米)原題:Elizabeth Harvest

大金持ちのヒヒジジイ、ヘンリー(キーラン・ハインズ)が若くして死んだ妻のクローンのエリザベスを作るというSF。クローンゆえに先天性の疾患があり、作っても作っても死んでしまうエリザベスだが、ヘンリーは意のままに育て、愛で、殺すことに快感を感じるようになってしまう。エリザベスにねこなで声を使う怪優キーラ・ハインズの気味悪さがハンパない。

映画評ではエリザベス役のオーストラリアのモデルのアビー・リーを”完璧な美貌と肉体”と褒める声が多い。アビー・リーはファッション・モデルとしても、女優としても「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15年 豪)など多くの作品で活躍しているが、個人的にはゼンゼンダメなタイプ。「マッドマックス」「キング・オブ・エジプト」(16年 米)でも感じた<ココには書けない>いくつかの気に入らない印象があって好きになれていない。

映画そのものはSF作品の常で、脈絡のない終わり方。ラストが気になり最後まで見たがやめときゃよかった。

2020年9月29日火曜日

ロバの耳通信「セブン・シスターズ」「群盗」

「セブン・シスターズ」(17年 英・米・仏・ベルギー)原題: What Happened to Monday

近未来のヨーロッパ。人口過剰で資源を支えられなくなった国家はひとりっ子政策を実行。余剰の子供たちは捕らえられ資源問題が解決する未来まで冷凍保存。そんな時に緒まれた7つ子の姉妹は父親(ウイリアム・デフォー)にサンデイ、マンデイなど曜日のついた名前を与えられ、ひとりっ子として育てられる。一週間に一日だけの人生を暮らす彼ら。ある月曜日、マンディが帰らなかった。マンデイに何が起きたのかという原題はここから。
主人公(たち)を1人7役で演じたのがスウェーデン女優ノオミ・ラパス(「ミレニアム」シリーズでリスベット・サランデル役、ほか以降大ブレイク)。不思議な魅力を持つ女優が、冷たい30女たちを演じるSFミステリー。見ごたえのある作品だった。唯一残念だったのが、1人で7役やったため、多少のメーキャップや衣装変えとかで誰が誰かの区別もつかず、途中で死んだのが誰で、脅されて当局に力を貸したのが誰とか、めっちゃ混乱してしまったことか。まあ、そんなことがどうでもいいくらい、全編ひとりで頑張った個性派ノオミ・ラパスが格好良くて面白かった。

「群盗」(14年 韓国)原題:군도: 민란의 시대

原題は「混乱の時代」の意。朝鮮王朝末期の腐敗した役人に対抗する義賊たちを主人公に「黄金の7人」風に描いている。
印象深かったのは、イケメンの武芸の達人(カン・ドンウォン)の哀しい美しさと強さ。ワタシにそのケはないが、うなるほどのイケメン。人生の不平等を感じるほど。素顔はそうでもないようだが、この映画のメーキャップはすごい。<ポスター左から3人目>
領主の庶子(妓生の間にできた非嫡出子)として生まれたため、嫡出子との差別を受け続け哀しみのなかで武道にいきるしかなかったという設定。だから、冷たく、美しく、強い。
民衆を助ける義賊役のハ・ジョンウやマ・ドンソクほかのメジャー俳優を完全に食って、その仇役がこの映画の主人公になっている。勧善懲悪のスジだから、武術の力の差もなんのその、悪徳領主の庶子は義賊に殺されてしまう。納得できた終わり方ではなかったかな。

2020年9月20日日曜日

ロバの耳通信「クラウド アトラス」「スノーピアサー」

「クラウド アトラス」(12年 米、独ほか)

3人の著名監督が6つの物語をグランドホテル方式と呼ぶらしい舞台のような群集劇を展開。トム・ハンクスやヒューゴ・ウィーヴィングほか名だたる配役をマルチキャストで、なにより中国の周迅(ジョウ・シュン)(「小さな中国のお針子」(01年 中、仏))、韓国のペ・ドゥナ「頑張れ! グムスン」(04年 韓)<ポスター中央のコ)が出ているということで期待していたが、19世紀から未来までの支離滅裂なストーリー展開、しかも6つの時代を往き来するコマギレのシーンにアタマが付いていけず。

それでも最後までなんとか見れたのは、後半のスピード感と「R」指定シーンの連続、「文明崩壊」という結末を見たいという怖いもの見たさか。同名の原作(日本びいきのデイヴィッド・ミッチェル、そのせいかこの映画のセリフには箴言や哲学的な言い回しにあふれていた)を読んでから、また映画に戻りたいが、こういう凝った映画は、何度も見ると感動がぐっと薄れるのではと。いずれにせよ、原作ネタも俳優も良いのだから、総監督を決めて、時間通りに並べた6つのオムニバスにしてほしかった。欲にはキリがないか、良い映画だった。

こっちもSF。「スノーピアサー」(13年 韓米)

原作はフランスの漫画作家のグラフィック・ノベルだという。クリス・エバンス、ソン・ガンホ、ジョン・ハート他錚々たる名優が個性豊かに、凍ってしまった地球を永久機関によって動き続ける列車「スノーピアサー」のなかで、自己主張するさまは、セリフを発声するごとにスポットライトで照らされる舞台劇のよう。列車内の階級闘争やらエゴのぶつかり合いやら、それが、まさに次から次に起きるから目を離すことも、詰めた息を吐くこともできない。この列車は何処に行くのだろうか、この物語はどうなるだろうかという気持ちの盛り上がりは名監督ポン・ジュノ(「グエムルー漢江の怪物」(06年 韓))の力だろう。韓国映画、韓国監督おそるべし。

2020年9月17日木曜日

ロバの耳通信「サリュート7」「エベレスト 3D」

「サリュート7」(18年 ロシア)原題:Салют-7

実話の映画化だと。85年に消息を絶ったロシアの宇宙ステーションーサリュート7がこのままでは地球に落下してしまうか、アメリカに乗っ取られて技術を盗まれてしまうのではないかとロシアの偉い人たちが心配。で、このサリュート7に別の宇宙船をドッキングして修理するーというストーリー。

次々起きるトラブルに立ち向かうふたりの宇宙飛行士のストーリーはトム・ハンクスとケビン・ベーコン主演の「アポロ13」(95年 米)にゼンゼン負けてない。こういう映画によくある作り物のチャチさはなく、宇宙船内部、船外の作り込みがすごい。無重力の宇宙船内に浮かぶ水の描き方がリアル、というかホンモノがどうなのかも知らないのだがよくできていて感心。宇宙船から見る地球の映像の美しさも圧巻。
宇宙船の乗組員やほかのスタッフと問題解決に向け右往左往している地上管制センターの責任者のところに突然現れた軍人のような偉い人が、失敗したらキミの責任だと脅すシーンにこれがロシアかと。あまり見る機会のないロシア映画だが、結構やるじゃないか。

「エベレスト 3D」(15年 米・英合作)原題: Everest

96年にエベレストで実際に起きたニュージーランドの登山ガイド会社主催のエベレスト登山ツアー隊に起きた大量遭難事故の顛末。法外な参加料金で客を集め、プロ・アマの登山家でエベレスト登頂を目指すも経験未熟な参加者の事情に振り回され結局遭難、12名が死亡。

ストーリーの深刻さもあるが、ジェイソン・クラーク(「ナチス第三の男」(17年))、ジョシュ・ブローリン(「ボーダーライン」シリーズ(15年~))、エミリー・ワトソン、 ジェイク・ジレンホールなど多くの著名な配役で重みのある映画になっている。悲劇の結末はわかっていても、特に後半はハラハラドキドキで、冒険映画としての出来もいい。

映画の初めの方のシーンで、ツアーにアウトドアジャーナリストであるジョン・クラカワーが参加することになっていて、嫌われ者ジャーナリストの扱い。ジョンのファンとしては引っかかったまま。ジョンはこのツアー遭難事故の体験をもとに「空へ ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか」(00年 文春文庫)を書き、ワタシの中では「荒野へ」(07年 集英社文庫)とともに最も好きなジョン・クラカワー代表作となっている。 

2020年9月13日日曜日

ロバの耳通信「流転の海 第9部 野の春」「サーカスナイト」「バナタイム」

「流転の海 第9部 野の春」(18年 宮本輝 新潮社)

「流転の海 第1部 流転の海」を読み始めたのが1年くらい前か。図書館で予約を申し込み、一冊づつ読んで行くなんて悠長なことは若い頃なら及びもつかなかったこと。宮本輝が自分の父親の宮本熊市(本の中では松坂熊吾)の生涯を描いた「流転の海」を第9部で終わらせると言いながらなかなか出版されなかったこともあったから、出版を心待ちにしながらもこれで終わるということがいかにも惜しく感じていた。何十人かの予約待ちのあとに、図書館から準備ができたとの通知が来た時、ついに来たかと。
父親の最後を描いているせいだろうが、9部のなかでは最も、父親への慈愛にあふれ、同時にひとり息子伸仁(宮本輝)、妻房江への想い、特に伸仁への愛情にあふれた作品だった。宮本輝がこの第9部をライフワークのシメとしていたことがよくわかる。

ワタシのあとにカミさんも読むことになっているから、2週間の図書館の期限まで残された時間は少ないが、静かな雨の夜にもう一度この第9部を読むことにしよう。ここまで染み入る本にはもう会えないかも知れないから。

「サーカスナイト」(17年 よしもとばなな 幻冬舎文庫)

ばななの描く「死」に共感を憶えるのはなぜだろう。うらやましいと悲しいを交互に感じた。ばななの小説には性悪とか意地悪とかは出てこない。安心と悲しみがある。よしもとが叶えられなかった夢、結婚すること、未亡人になること、女の子の母親になることへのあこがれもあった。家族について悩んだとき、他人との距離の取り方について考えたいときにキキメのある本だと思う。手許において、何度も読みたい。


「バナタイム」(06年 よしもとばなな 幻冬舎文庫)

商業雑誌の連載エッセイの文庫化だと。ばななもつまらない文を書いたものだ、幻冬舎もつまらない本を出したものだ。幻滅。唯一、気に入ったのが原マスミの表紙、挿絵。なぜかと聞かれても答えようがないが、ばなな(気に入ってるほうのよしもとばなな)に似合っている。