2022年12月30日金曜日

ロバの耳通信「散歩する侵略者」「大コメ騒動」

 「散歩する侵略者」(17年 邦画)  

やたらと動作やセリフが大きくて舞台劇が原作かなとあたりをつけていたら、劇団イキウメの舞台(前川知大 05年~)だと。昔、どこかに見に行った素人集団によるアングラ舞台を思い出した。

とはいえこの映画、長澤まさみ、松田龍平ほかキャスティング(だけ)は豪華だったから、これだけの役者を揃えるんだったら、もっとなんとかならなかったかなと。原作ができていないのか、脚本が甘いのか、ストーリーに一貫性も起承転結もなく、ロケーションもいかにもお金がかかっていないところばかりで、リアリティーもクソもない。まあ、地球人が宇宙人に侵略されかかるという滑稽なハナシだからスジもリアリティーもあったもんじゃないが。

ただ、邦画界も仲良し有名俳優を集めてなんか作れば売れると思ってると、ダメになるよ。個人的に長澤まさみ、松田龍平の大ファンだから、メが厳しくなっているのかもしれないけれど。

思ったのは、こういう演劇はオシマイだ、もう映画にしようとか考えないでほしいと。

「大コメ騒動」(19年 邦画)

富山の中の黒歴史といわれている大正7年に起きた米騒動を題材にした映画。ボスキャラ役の室井滋、夏木マリほか豪華キャスト汚いおかか(女房)たちも頑張ってる感も強かったけど、最初から最後まで、ギラギラ眼の井上真央が圧巻の演技だった。美人じゃないけど、圧倒的な存在感にまいった。

前述の「散歩する侵略者」のつまらなさとこの映画の面白さの違いはなんだろう。

2022年12月20日火曜日

ロバの耳通信 「西部戦線異状なし」「アウトサイダー」「ディープ・スペース」

 「西部戦線異状なし」(22年 独)原題:Im Westen nichts Neues

リメイクながらNetflixの新作ということで公開を楽しみにしていたのは、それぞれ何回も見た30年のアカデミー賞作品、79年のゴールデングローブ賞作品(いずれも 米)の印象が強く残っていたから。

前2作品に比べ、ずっと直接的で残酷。オープニングと、エンドロール前の山の風景だけが脈絡のない暗い映像で、映画が始まると息をつくひまもなく、映画に縛り付けられた。引きずるような音楽が怖さを盛り上げる。

見終わったらすっかり疲れてしまって、2度見をする気力が残っていなかった。とはいえ、いつかまた見ることになるのだろう。喩えとしては良くないが、恐怖は一種の快楽なのだ。

ロシアとウクライナの意地の張り合いが世界戦争になろうとしていて、否応なく底なし沼に引き込まれている気がする。


「アウトサイダー」(18年 米)原題:Outsider

元米軍のニック(ジャレッド・レト)は、刑務所でヤクザの清(浅野忠信)を助けたことで次第に日本の裏社会に足を踏み入れていく。Netflixが描くと、日本のヤクザはこう写っているのか。米軍将校が日本の刑務所にはいっていて、ヤクザの世界で台頭してゆくなんて噴飯モノのストーリー展開。ヤクザの親分(田中泯)やヤクザの兄弟(キョウデー椎名桔平)もあまりにもステレオタイプ。日本ヤクザの指詰め儀式もただただスプラッタえいがのよう。配役が、主役を除いてほぼ日本人だから対象視聴者はアメリカ市民ではないだろう。きっと古い日本人は一昔前の東映の任侠映画などの感覚で古き良き時代を反芻するのだろうが、若い人もこういうの見ないだろうな。うん、Netflixにしては面白くない作品。

同名のフランシス・コッポラ監督の名作(83年 米)のことを思い出した。あっちは良かった・・・。

「ディープ・スペース」(18年 カナダ)原題:Deep Space

ストーリー展開も、配役も、音楽も文句なし。CGの美しさが特筆すべきの「宇宙生物との接遇モノ」なのだが、この作品も他と同じで”宇宙人はいたのか”と疑わせる中途半端な幕切れ。消化不良は体に悪い。

うーん、ラスト近くまで、宇宙船が故障したり、食料が足りなくなったりでハラハラドキドキを楽しめたのになー。


2022年12月10日土曜日

ロバの耳通信「トゥモロー・ウォー」「グッド・ネイバー」

 「トゥモロー・ウォー」(21年 米)原題:The Tomorrow War

うーん、タイムトラベルにエイリアンとの戦い。安易な邦題に似つかわしく、つまらない映画。新型コロナの蔓延のためパラマウントからAmazonに配給権を売られて、Prime Videoで配信とwikiに説明があったけど、映画館で楽しめる映画じゃない。

グラフィックはキレイだし、エイリアンの出来もソコソコだけど、ストーリーが雑だから入り込めないのよね。制作・総指揮、主演クリス・プラットだというから、すこし売れてきた俳優が自分でまるごと作ってみるかと作った映画なんだろう。

きっと、次作は監督も脚本も自分で、とチャレンジするんじゃないかな。テレビなんかでもよく売れているらしいクリス・プラットは覚えやすい甘いマスクだけど、どんな作品でも同じ印象。個性みたいなものがないからもういいかなクリス・プラット。



「グッド・ネイバー」
(16年 米)原題:The Good Neighbor

アメリカの高校生ふたりが近所の気難しい老人にポルターガイストを仕掛けるという予告から、ああ、お決まりのアメリカ青春グラフィティーかと見はじめたら、コレが結構ドキドキのミステリー・サスペンス。盗撮カメラの映像の中の老人の動きを追うシーンがほとんど謎解き。よくある、若い女のプライベートを覗き見するイヤラシい動画と違い、ジェームズ・カーン演じる老人に、将来の自分の姿を重ね合わせて寒々しい思いをした。

この作品は、とんでもないオチで観客を驚かせるウリだからこれ以上書かないが、おヒマならどうぞ、かな。ポスターの釣り文句は当たってない。


2022年11月10日木曜日

ロバの耳通信「ライン・オブ・デューティ」「モンスターズ・オブ・マン」

 「ライン・オブ・デューティ」(12年 英TVドラマ)

汚職警官を内部告発する特捜班の刑事たちを描いたBBCテレビドラマがシリーズを重ねるごとに大好評という。しんねりむっつりの英国人たちが、新型コロナでパブ通いを制限されテレビにかじりついて、こういう重いドラマにかじりついている想像をしてみたりする。この時期のロンドンはどんより曇り空に強い風か雨ばかりの日が続く。少し北に行くだけで雨にみぞれが混じり、閉塞感はハンパない。

で、無料Gyaoでコレをやるというので楽しみにしていた。ところが、初回の衝撃。おい、おいキライに”大”がつくレニー・ジェームズが主役で出てるじゃないか。一時メッチャはまって見ていた「ウォーキング・デッド」(10年~ 米TVテレビシリーズ)のモーガンじゃないか。シリーズ最終話であっけなく死んでしまったけれど、レニー・ジェームズの中途半端なワル役は変わらない。ほかのテレビシリーズものも同じような役が多かった気がするが、どちらかと言えばなるべくこの俳優にメが行かないように見ていたからね。ワタシだけなんだろうけれど、これくらい嫌われる役者って、本当はスゴイ名優なのだろう。

特捜班の3人の刑事たちのキャラが際立って面白く、英国らしい引き摺るようなストーリー展開は、AmazonPrime →Gyaoと繋いでシリーズ4まで見続けてきた「主任警部アラン・バンクス」(10年~ 英TVドラマ)と同じ味わい。「ライン・オブ・デューティ」はシリーズごとでいわゆるゲストスターが変わるというから、次のシリーズの始まりを待つとしよう。


「モンスターズ・オブ・マン」(20年 オーストラリア)原題:Monsters of Man

米国防省がネットでの遠隔操作シュミレーションのため戦闘ロボットを東南アジア某国ジャングルにパラシュート投下。遺跡だらけのジャングルだからカンボジアなのかな。とにかくそこに海兵隊特殊部隊出身の男が村人と暮らしていて、そこに迷い込んだ医学生集団。ストーリーに脈絡はないが、作戦行動を秘密にしておきたい米国防省は戦闘ロボットを使い見かけた人々を片っ端から殺してしまえと。オーストラリア映画のせいか、米国防省を思いっきりワルモノにして、つまりはロボットと元特殊部隊の戦い。

ドンパチに脈絡はいらず、どうでもいいやと思ってしまった結末。アクション映画としてはなんとか、2時間強我慢できたC級映画。さすがにこんな映画をコロナ騒ぎの映画館で放映してはいなと確認したら、日本未公開のVOD動画だと。


2022年10月28日金曜日

ロバの耳通信「KIMINI/サイバー・トラップ」「信さん 炭坑町のセレナーデ」

「KIMI/サイバー・トラップ」(22年 米)原題:KIMI

ネットの中の殺人事件に遭遇し、それを届けようとしたばかりに殺し屋に追われることになったひきこもりのネットオタク(ゾーイ・クラヴィッツ)を主人公にしたアクション映画。前半はネットの音声から殺人事件に気づく謎解き、後半ブチ切れたオタクがネイルガンを持ち出して大暴れ(あまりに楽しくてココは二度見)。久しぶりの興奮の新作、見終わってチェックしたら監督がスティーブン・ソダーバーグだって。まあ、面白くないワケがない。
原題のMIKIは映画の中の音声ソフトの名前。siriやアレクサみたいなもの。

「信(しん)さん 炭坑町のセレナーデ」
(10年 邦画)

文部省選定”、実際は”文部科学省特別選定”という長ったらしいタイトル付きだったが、小学校の講堂とかでこの手の映画を見た世代だし、だいたいは涙、涙の映画が多かったから、このタイトルだけでも昔見た映画を思い出し、涙が出そうになった。

九州の炭鉱島、福岡県の設定で言葉の訛りも博多のソレだが、長崎県の池島炭鉱と福岡県の志免(しめ)炭鉱がモデルだという。この炭鉱町に出戻りで洋品店を営むことになった母子(小雪と池松壮亮/少年期ー中村大地)と炭鉱町の人々との交流を描いている。信さん(石田卓也/少年期ー小林廉、この子役が秀逸)は、炭鉱町に住む、まあガキ大将なのだが、飲んだくれの父を持つ優しい少年。子供たちが汚れた格好で三角野球で遊ぶシーンは、懐かしくてキュンときた。

時代設定は昭和38年。その頃は、どこにも原っぱがあり、真っ黒になって夕方まで三角野球をやっている子供たちがいたのだ。長屋あり、朝鮮人差別あり、駄菓子屋あり、ボタ山あり、炭鉱事故ありの映画だったが、いちばん感動したところは、小雪に抱きしめられた信さんが、貧しすぎて誰にも優しくされなかった自分のことを思ってか、泣き出すシーン。息子を炭鉱事故で失った大竹しのぶが、途方に暮れながらも持って行きどころのない怒りを込めて米を研ぐところも。友人のキレイなお母さん役の小雪がメッチャ良かった。

夕方、幼い男の子の泣く声と「だから言ったじゃない、何してんのよ」と子供を叱る若い母親らしい声が聞こえた。叱られた子供は「お母さん、痛いよー」と泣きじゃくっている。ベランダの上から覗いたら、駆け出した子供が転んだらしい。ケガした様子もないが、膝かどこかを打ったらしく母親に甘えるように大きな声でずっと泣いていた。

自分の幼い頃を思い出した。ワタシの幼い頃は、複雑な家庭の事情があり、母親に甘えて泣くなんてことは思いもつかなかった。泣き続ける子供をうらやましくさえ思った。

この映画は動画サイトめぐりをしていて偶然に出会ったのだが、いい映画。うん、ポスターはひどいけどね。

2022年10月20日木曜日

ロバの耳通信「LOU ルー」「フォール/Fall」

 10月も半ばを過ぎた。結構寒くて、天気予報だと曇ときどき雨。こんな日に出かけるのも億劫で、結局、ひとり自宅映画会。カミさんは食事の下ごしらえに余念がない。台所で何かを刻む音が続いている。

2作ともメジャー作品じゃなくネット評価もイマイチの新作だが、ワタシ的には大満足、手に汗握る面白さだった。ふーっ(満足)。

「LOU ルー」(22年 米)原題:Lou

田舎でひっそり暮らす偏屈おばさんが実はCIAのお尋ねもの。店子のシングルマザーの幼い娘が誘拐され、一緒に誘拐犯を追う。スジは簡単に説明できないくらい込み入っているのだが、偏屈おばさんがメッチャ強くて、サバイバルとアクションが楽しめた。ガムのアルミ箔と電池で火を起こしたり、包帯代用のガムテープなどガールスカウト仕込みだというサバイバル技術、いつか使ってみたい。ま、そんな機会はないだろうけれど。

「フォール/Fall」(22年 米・英)

クライマーの二人の若い女。砂漠の真ん中にある600m超の電波塔に登ることで自分探しをしようとする親友同志。問題はその電波塔が老朽化して近日中に取り壊しの予定で、もうボロボロ。

ヒイヒイいいながらやっとてっぺんまで登れたものの、こんどはハゲワシに襲われるは、ハシゴが外れて、降りれなくなってしまうはのトラブル続き。食べ物もなく、これもサバイバルか。なによりゾッとする高さ。カメラワークがうまく、本当に怖い。ずっと、手に汗。 


2022年10月10日月曜日

ロバの耳通信「むらさきのスカートの女」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」

「むらさきのスカートの女」(19年 今村夏子 朝日新聞出版)

雑誌の書評か何かで、面白いと。直木賞受賞作とも。コロナ騒ぎの中、長い図書館の予約待ちのあと、ガラガラの図書館に何カ月ぶりに出かけ手に入れた。なのに、だ。この腹立たしさを誰にぶつけよう
か。
こういうのが今のハヤリなのか。作品の好き好きは個人の趣味だから、単に自分の趣味の悪さや感性の低さを呪うしかないのだが、これはあまりに酷かった。直木賞だって、これが。


「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」(12年 辻村深月 講談社文庫)

辻村深月。初めて読んだ本、たぶん。母親を刺して行方不明となったおさな友達の跡を追う雑誌記者の物語。地方都市の人々の交流の濃さ、適齢期の女友達たちの微妙な距離や出産時期の不安定な心身についてなど、女性の視点でなければ到底書きえないところが、新鮮かつ気味悪く感じた。島本理生が解説で書いた”女同士の友情は、とうてい友情とは呼べない”ことを納得。ミステリー小説の体裁をとりながらも、犯人も事情も分かっているから、読者は迷うことなく葛藤や不安に思い切り浸れる。

テレビドラマ化の話もあったようだが、裁判沙汰まで縺れこんでボツになっているから、映画化も無理だと思うし、配役も悩むところだがこれだけの作品、ぜひ映像化してほしい。

2022年9月30日金曜日

ロバの耳通信「ナイト・サバイバー」「007 スカイフォール」

 「ナイト・サバイバー」(20年 米)原題:Survive the Night

ガソリンスタンド売店の強盗の兄弟に家族を人質に取られた外科医(チャド・マイケル・マーレイ)とその父親の元保安官(ブルース・ウィルス)の反撃、という大筋。兄弟の兄は売店の親父に足を撃たれ、手術をさせるために病院からの勤務の帰りの外科医のあとをつけた、という前スジ。

オープニングの外科医夫妻の夫婦ゲンカや家族で不味そうなビーガン料理を食べるところぐらいから気付いたが、ムダなシーンが多い。配役もゼンゼン冴えない、特に主役のチャド・マーレイがダイコン。ブルース・ウィルスも見せ場なし。とにかく、すべてのシーンが別の場所で撮影したフィルムをムリムリつなぎ合わせて体裁を整えたのかと思うくらい、スピード感がない。脚本が悪いのか、無名の監督がシロートなのか、映画になってない。

ここまで書いてきて、ホントの主役は強盗の兄弟だったのか、と。面白くないことに変わりはないが、視点を変えればC級からB級に格上げできるかも。といっても、もう一度見る気はしない。

コロナ騒ぎで出てきた新作なのに、日本での劇場公開がなかった理由がわかった。DVDが出ているのが不思議なくらいつまらないのだ。


「007 スカイフォール」(12年 米・英)原題: Skyfall

新作「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の公開に先立って、ダニエル・クレイグの「スカーホール」「スペクター」のテレビ放映や動画サイトでのアピールにワタシが釣られて本作を再見。再々見か。

「スカイフォール」が好きなのはMI6とMオバサンを恨み、復讐を企てるが最後はボンドに殺されてしまう元諜報部員ラウル・シルヴァ役のハビエル・バルデムがメッチャ好きだから。この作品でも極悪非道の悪人役ながら、陰のある哀しい役を演じていて、存在感はヨレヨレのダニエル・クレイブを遥かに凌いでいた。たまらん。


2022年9月25日日曜日

ロバの耳通信「No.6」

 「NO.6」(~11年 あさのあつこ 講談社)

お試しで契約したKindle Unlimitedの棚で見かけた全7冊、約1500ページの長編。予備知識なしで読み始めた出だしの数ページで罠にかかった感。主人公が12歳の少年。ヤングアダルトかとバカにしていたのに、時間を忘れて読んだ。


テレビもYoutubeも消した就寝前の静かな時間、独り言を言いながら縫い物をしているカミさんの前でKindle Fire のページをめくる。物語は、近未来の理想都市(No.6)で何不自由なく育ってきた12歳のエリート少年が、嵐の夜、窓から飛び込んできたネズミという同世代の少年の傷の手当をしたことから始まる冒険物語。個性あふれる登場人物や次になにが起きるかのドキドキは、幼い頃の紙芝居や漫画雑誌の<次回に続く>の焦燥感にも似て、中々布団に入れない。そうやって焦がれるような読み方をしたのは「1Q84」(09年 村上春樹 新潮社)で青豆という少女を好きになって以来か。

作者によって個性豊かに描き分けられ、いきいきしている登場人物たちのセリフが気に入って、前ページに戻ったりマーキングした。また各章のはじめに引用された半ページほどのシェイクスピアやトルストイの警句なんかも深読みしたから予想よりずっと時間がかかってしまったが、それでも残りが100ページを切ってくると哀しい気分になった。

マンガもアニメもあるらしいからチェックしてみたい。あと、あさのあつこの代表作「バッテリー」も読んでみたい。


2022年9月20日火曜日

ロバの耳通信「スウィングガールズ」「半次郎」

「スウィングガールズ」(04年 邦画)

元気をもらえる映画を紹介しよう。田舎の落ちこぼれ女子高生が「ジャズやるべ!」とビッグバンドを組んでジャズをやる。ラストシーンが「シング・シング・シング」のスゴイ演奏でコンサートをしめくくるのだが、「ムーンライト・セレナーデ」では、バラバラが残る演奏が、このラスト曲「シング・シング・シング」で勢いづくところがワタシのお気に入りで、いつも涙ぐんでしまう。

ワタシも学生時代にブラスバンド部に属していた時期があった。男子校なのに体育会系のような雰囲気もなく、自由に楽器を楽しんでいた。出入り自由の部室の裏はイチョウの林で、全面イチョウ葉の黄色に染まった林のベンチでよく練習したものだ。物まねのウマい部長が海の事故でなくなってからは、部員もひとりふたりと辞めてゆき、そのころはやり出した軽音楽やフォークに押されてブラスバンド部は休部となった。音のしなくなった部室の裏の、やっぱり黄色に染まった林のベンチに座ってよく本を読んだものだ。

「スウィングガールズ」の音合わせのシーンが始まるとワタシはそのメンバーの間に入り込み、一緒に「シング・シング・シング」の波に乗るのだ。


「半次郎」(10年 邦画)

俳優の榎木孝明が企画し自らが主演した中村半次郎(桐野利秋)の生涯を描いた映画。NHK大河ドラマを思わせる音楽と遠景の桜島で期待が膨らむ出だし。監督から配役まで榎木のお友達で固め(想像)、脚本も榎木がかなり手を入れたに違いない。まあ、映画人としてこれだけのスタッフ、役者を集めて作れたのだから良かったね、としかいいようがない。
半次郎を突き詰めて描けばよかったのに、(お友達に出演を頼んだ)幕末維新の志士たちにもスポットを当てたためにピンぼけ。繰り返すが、これだけのスタッフと役者を揃えたのに惜しい。腹立たしいほど、惜しい(!)。

中村半次郎については、多くの小説の題材や映画、テレビドラマとなっているが、「人斬り半次郎」(幕末編、賊将編 99年 池波正太郎 新潮文庫)を推したい。


2022年9月15日木曜日

ロバの耳通信「イコライザー」「フォックスキャッチャー」

「イコライザー」(14年 米)

近く「イコライザー2」が封切りということで、予告編を見ていたら本編をもう一度見たくなって動画サイトのお世話になった。主演の元CIA捜査官役のデンゼル・ワシントンがずっと大ファンで、勧善懲悪の物語も好き。ということで「イコライザー」も何度目かになった。ロシアンマフィアの売春婦アリーナ(クロエ・グレース・モレッツ)の友人役でチョイ役、細い目をしたヘイリー・ベネットがワタシのお気に入り。「アメリカン・ソルジャー」(18年 米)でPTSDを負ったイラク戦争復員兵の妻役を演じていたが、これも哀しい女の役。「イコライザー」でも、アリーナをかばったばかりにマフィアに殺されてしまう売春婦役、ほかの映画でもあんまりいい役がない。めったに見せないけれど、笑顔はかわいいのに。
「イコライザー2」早く見たい。

「フォックスキャッチャー」(14年 米)

ロスオリンピックでレスリングの金メダルをとった兄弟の物語。実話だという。「フォックスキャッチャー」はレスリングファンの大富豪デュポンが作ったレスリング強化チームの名前。フォックスキャッチャーチーム代表の弟はその後のソウルオリンピックで敗退。オリンピックでマザコンで統合失調症で妄想にとらわれたデュポンに、弟の後継でチームの指導をしていた兄は射殺され、弟は格闘技の試合で日銭を稼ぐ暮らし。
見ていて救いどころのない映画。最後まで見なくても辛い結末が予想できてしまう。オリンピックで金メダルを獲ってもその後に幸せな暮らしが保証されていないのはどの国も同じ。マイナースポーツならなおさら。
日本でも元メダリストが何かの犯罪で捕まったという記憶もある。
 
オリンピックのメダリストだからとスポーツ界のトップに君臨していることが多いようだ。だから、どういうハナシでもないのだが。

2022年9月10日土曜日

ロバの耳通信 「少女は悪魔を待ちわびて」「バーニング・クロス」

 「少女は悪魔を待ちわびて」(16年 韓)原題:Missing You


父を殺し服役した男を釈放までの15年待ち続け、復讐を遂げる女を描いたクライムサスペンス。服役した男には仲間がいたとか、女は復讐のため警察署で雑用係として働き男の情報を得ていたとか、ラストは男を自分を殺した犯人に偽装するためブランコで首吊自殺とか、レトリックが込み入りすぎて最後まで見ないうちにスジを見失ってしまった。映画批評サイトでスジを整理し、また最初から通しで見るハメになったが、まあ良かったかな。原作本を読みたくて探したが見つからず。連続殺人鬼+復讐劇なんてのは落ち着いて活字の本で読みたいなあ。

主役のシム・ウンギョンはNHKの韓ドラシリーズ(「春のワルツ」「太王四神記」「ファン・ジニ」ほか)や日本のCM(サントリーウイスキー)に出たり、「新聞記者」(19年 邦画)で松坂桃李の相手役で日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を獲得するなど顔なじみの女優だが、こういうクライム映画で主役を張るには表情に暗さが足りないかな、まだ20代ー若すぎるし。

「バーニング・クロス」(12年 米)原題:Alex Cross

デトロイト市警のアレックス・クロス刑事の活躍を描いたクライム映画だが、アレックスが追うは猟奇殺人犯ピカソ(マシュー・フォックス「トマホーク ガンマンvs食人族」(15年 米)でも好演)が魅力的に描かれていて、この映画の実質的な主人公みたいなもの。猟奇的であったり異常であったりの犯人側にキモチが惹かれるのは、できの良いクライム映画の証。

原作はジェームズ・パターソン。「闇に薔薇」(05年 講談社文庫)を読んだ時の衝撃は忘れられない。「殺人カップル」 98年 新潮文庫)も良かった。この「バーニング・クロス」の原作も昔読んだ筈なのだが、旅先の1ドルショップ(古本屋)でよく買っていたペーパーバックの一冊だったかも、とにかくこのシリーズもののアレックス刑事の活躍は面白かった記憶がある。

2022年9月5日月曜日

ロバの耳通信 「デッドリー・ハンティング」

 「デッドリー・ハンティング」(21年 独)原題:Prey

Netflixのおかげで世界中の新しい映画が見られると期待していたが、時々ハズレを引いているのに気づいた。

カヤックや森を散策しながら独身クラブを楽しむ5人組の男たち。些細なもとから腹を立てたりで仲良しという感じじゃない。そんなにピリピリするなら一緒に来なくていいのにと不協和音も感じながらも、大自然いっぱいの晩秋のヨーロッパの森は美しい。

帰り際、車の近くでひとりが腕を撃たれ怪我。続く銃声に逃げ惑う彼ら。ははーん、これは5人組が過去に起こした悪事への復讐劇か。多分、狙撃犯は女で、この4人組、女にひどい悪さをしたのだろうと、勝手に妄想。シリーズ3作まで続編が作られた「アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ」(10年 米)みたいな復讐劇かと。

ひとり、ふたりと殺され。途中で立ち寄った山小屋の女子従業員まで撃たれてしまう。おいおい、女子従業員は関係ないだろうと不思議に思っていたら、森のなかで狩人に誤射されて死んだ幼い娘の復讐のため、森にはいってくる人々を片っ端から撃っていたキチガイ女。犯人探しのミステリーの犯人をキチガイにするのはタブーだと思うね。クライムでもミステリーでも、映画も小説もワケアリだからストーリーに感情移入できるんだよ。

2022年8月30日火曜日

ロバの耳通信 「サイド・エフェクト」「リミット・オブ・アサシン」

 「サイド・エフェクト」(13年 米)原題: Side Effects

監督がスティーブン・ソダーバーグ(!ビックリマークがつくほど好き)、脚本がスコット・Z・バーンズ、配役がジュード・ロウ、ルーニー・マーラ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、チャニング・テイタムとくれば面白くない訳がないのだが、100分強の映画の7割方はダラダラと続く。R15なのはあまり意味のないベッドシーンとか女同士のラブシーンのせいか。鬱患者(ルーニー・マーラ)が処方薬の副作用で苦しむシーンの連続は、映画を見てる方も不安が高まるが、平坦なストーリー展開にやや辟易。ルーニー・マーラはタダでさえ鬱陶しい表情だからゼンゼン好みじゃなく、いかにも鬱患者。

鬱患者とメンヘラは違うと思うが、ワタシに張り付いてくれるメンヘラのかわいいコならちょっと憧れる。このトシになるまで、女性にモテた経験がほとんどないから、メンヘラでも歓迎したい気がする。うん、繰り返すけれど、ルーニー・マーラは嫌い。

ラスト近くで謎解きされるのだが、鬱も副作用(Side Effects)も詐病で、精神科女医(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)とグルになって抗鬱薬を販売している薬品会社の株価操作を狙ったサギ(ルーニー・マーラ)がこの映画の主人公。結局、詐病患者が騙そうとしたかかりつけ精神科医(ジュード・ロウ)に仕返しされて精神病院で薬漬けにされるという一応の勧善懲悪にまとめてあるけれどもなんだか後味は良くなかった。映画の口コミはかなり良かったけれど、豪華配役のみんなに華を持たせようとしたのせいでストーリーにメリハリをつけることができなかった失敗作だと思うよ。女は怖い、医者は怖い、薬は怖い。


「リミット・オブ・アサシン」(17年 南ア・中・米)原題:24 Hours to Live

組織に雇われた殺し屋(イーサン・ホーク)が殺される。のっけから派手なドンパチで楽しめたが早々と主人公が死んじまうなんて、おいおい、映画始まったばかりだぜ。

組織は殺し屋が死ぬ直前に前に得た情報を聞き出すために組織に、一時的に一日だけの期限で生き返らされる。殺し屋は復讐のために必死であがくというのがこの映画のスジ。死んだ人間を生き返らせるとかの荒唐無稽の設定はあるが、時間を切られたストーリーはアップテンポで進み、飽きさせない。

インターポールのエージェント役で出演している中国女優の許晴(シュイ・チン)が撮影当時50歳近い年齢のハズだがワタシ好みの色っぽさ。スタイル抜群でアクションの動きもよく、一度見ただけで好きになった。wikiによれば、「LOOPER/ルーパー」(12年 米)にも出ていたらしいのだが思い出せない。また「LOOPER/ルーパー」を見てみよう。

「リミット・オブ・アサシン」を今回初めてみたが、実に面白かった。またまた新しい発見。動画サイトめぐりのさすらいの旅は続く。 

2022年8月25日木曜日

ロバの耳通信「INTERCEPTOR/インターセプター」「7月22日」「オスロ、8月31日」

「INTERCEPTOR/インターセプター」(22年 米・豪合作)原題:Interceptor

ミサイル迎撃基地に配属された女性大尉が、孤軍奮闘しテロリストによるミサイルを撃ち落とすという女性版ダイ・ハード映画。制作陣も主演もなじみのないキャストだが、”手に汗握る面白さ”。世間では評価点が3点がやっとというB級作品の扱いなのだが、ワタシには超面白くてトイレも我慢していたくらい。

映画の面白さなんて、結局は個人の好みなのだろうから、アレが良かった、コレが気に入ったといくら書いても伝えられないだろうけれど、ゼッタイ勧める。22年上半期のベスト・ワン!



 「7月22日」(18年 ノルウェイ)

Netflix<米ネット配信会社>のおかげで、世界中の映画やテレビドラマを見れるようになった。2011年にノルウェーで実際に起きたネオナチ狂信者による連続テロ事件をドキュメンタリー風に描いている。警官に化けて政府のビルを爆破するわ、サマースクールに参加中の若者を自動小銃で撃ち殺すわで50人近くを殺したひとりのネオナチ狂信者側からの視点が多く、打ちひしがれたノルウェー首相との面談の際に首相に遺族のひとりが言う「あなたが悪いんじゃない、頑張ってね」って、どういう意味かと考え込んでしまった。ネオナチの主張は、移民受け入れの反対(らしい)。マスコミは、テロを防げなかった政府への批判。普段見ることの少ないノルウェーの映画だったが、うーん、この映画の主題は何だ。映画は主張がないと共感も反発もできない。ノルウェー国民はこの映画をどうとらえたのだろうか。



ノルウェー映画といえば「オスロ、8月31日」(11年)が印象深い。題名のつけかたが似ている。主演は「7月22日」と同じアンデルシュ・ダニエルセン・リー。ドラッグ依存の治療中の青年が、オスロの旧友たちを訪ねる。そこに安息はなく孤独感が強まるだけという暗い物語。で?と聞かれても答えには困るが、青年が都会で感じる都市生活への憧れやそれよりずっと大きな不安や疎外感。わかるような気もするが、こういうのはごめんだ。

2022年8月20日土曜日

ロバの耳通信「ヤクザと家族 The Family」「ホムンクルス」

 「ヤクザと家族 The Family」(21年 邦画)

監督・脚本(藤井道人)が34歳、主演(綾野剛)が39歳。だからどうしたもないけれども、こういう時代になったのかと勝手に感慨。調べても原作についての情報が出てこないから、脚本だけしかないのかもしれない。ヤクザ役の綾野の演技は素晴らしかったが、長すぎてダレた。

ヤクザの組長役を舘ひろしにしたから、ヤクザをワルモノにもできないどころか、家族扱いにしてカッコ付けをしたから面白くも何にもない映画になってしまった。父親を亡くしたグレにーちゃんの綾野がチンピラの覚せい剤をかっぱらい、ヤクザに追い回され、ボコボコにされるところがこの映画のヤマで、あとはダラダラと下るばかり。クラブで働く尾野真千子とイイ仲になるが、尾野真千子の役が女子大生だと。尾野真千子の挑むような眼つきは好きだが、女子大生役はないだろう。主役以外の配役が全くイケナイ。


「ホムンクルス」(21年 邦画)では綾野は新宿の公園近くで車上生活をするホームレスを演じていたが、これはなかなか面白かった。こっちの映画は、マンガとはいえ原作(山本英夫「週刊ビッグコミックスピリッツ」(03年~ 連載)もしっかりしているし、監督(清水崇)も脚本(内藤瑛亮、松久育紀、清水崇)も充分推考されていると思われ、映画はこうでなきゃと思わせる作品。

なにより「ヤクザと家族 The Family」と違い、配役に名前ばかり有名な役者を並べる愚を犯していない。ホムンクルスとは”ラテン語:Homunculus:小人の意、ヨーロッパの錬金術師が作り出す人造人間、及び作り出す技術のことである”ーwiki とある。この映画、片目を隠して見ると違うものが見えるという不思議な世界を題材にしたにも拘わらず、ストーリー展開の面白さを殺すこともなく、綾野のキャラを生かした映画作りの成功例だと思う。 

2022年8月15日月曜日

ロバの耳通信「AK-47 最強の銃 誕生の秘密」「トマホーク ガンマンvs食人族」

 「AK-47 最強の銃 誕生の秘密」(20年 ロシア)原題:Kalashnikov/AK-47

旧ソビエト連邦の自動小銃AK-47の設計者カラシニコフの伝記映画。うーん、うまく言えないがロシア映画、特に戦争モノ、伝記モノは地味だが優れた作品が多い気がする。ヒトの描き方がウマいのだろう。勧善懲悪の日本のヤクザ映画にも通じるものがあって、理解のある親分(この映画では、エラい軍人たち)に助けられるというのもロシア映画の特長、ーというかエライ人を悪く言わないというロシアの伝統なのかなぁ。

ロシア映画じゃなかったけれど、ジュード・ロウ主演の「スターリングラード」(00年 米ほか)と同じテイスティングかな。これも超面白かったけど。


「トマホーク ガンマンvs食人族」(15年 米)原題:Bone Tomahawk

題名はC級映画のソレだし、グロシーンだけが話題になって、まあ、この映画を探して見たのもソレが理由だったのだが、とんでもなくマジメで奥行の深い映画だった。ガンマンとか食人族とかゼンゼン似合わない自然豊かな西部劇だったし、カート・ラッセルほか配役も製作陣も一流。

原住民に連れ去られた町の住人を取り戻すために旅立った保安官など4人の男たち。映画の大半は地味な追跡シーンと4人の会話で退屈するほどだが、後半の奇妙な咆哮音を出しながら襲ってくる原住民との戦いが怖い。敵は弓矢や骨で作ったとみられるトマホークで襲ってくるのだから銃で撃たれるより、痛そうで怖い。アタマの皮を剥ぐところはインデアンを象徴しているようだが、淡々と進められる殺戮シーンは断トツの怖さ。観客を充分に怖がらせたることに成功したのだからハッピーエンドにしなければよかったのにと思ったりして。

2022年8月10日水曜日

ロバの耳通信「第7鉱区」「アンダー・ザ・ウォーター」

「第7鉱区」(11年 韓国)原題:Sector7

東シナ海にある石油ボーリング基地が舞台。基地内で密かに飼われていた”エネルギー源となる”未知の深海生物が巨大生物に育ち、基地の人々を襲う。暗い通路に突然現れるのは「エイリアン」(79年 英米)のノリ。バケモノの顔は「バイオハザード」(96年 プレステゲーム)のラスボス風。触手が伸びる、並んだ歯が「ヴェノム」(18年 米)に似ている。前半は退屈、後半のバケモノと主役ハ・ジウォンの壮絶死闘はエイリアンとシガニー・ウィーバーのソレを彷彿させる迫真の出来だが、ハ・ジウォンではシガニー・ウィーバーの色っぽさには到底敵うべくもない。
海中シーンや巨大な石油基地が舞台だから、3Dで見たらもっと感動したかも。

 日韓大陸棚協定で日韓が共同開発に着手しながら頓挫しているとのテロップで終わるが、それがどうしたと蛇足のラスト。

「アンダー・ザ・ウォーター」(17年 デンマーク・フィンランド・スウェーデン合作)原題:QEDA

2095年、海面上昇で塩害被害のため動植物が絶滅。過去に海水を真水に変えるエビを研究していたが飛行機事故で亡くなった研究者の命を救うべく、量子網分離宮(QEDA)というタイムマシンのような仕組みを使い、過去に戻るというSF映画。QEADの仕組みなどが思い切り曖昧だし、過去を変えると歴史が変わるというパラダイムへの答えも法律違反ということで割り切っているし、まあ、SFだからしょうがないか。原作か脚本がシッカリしている事と、配役、カメラワークや効果音など丁寧な映画作りのためか、記憶に残る良い作品だった。
近年、こういう落ち着きのあるいい映画が少なくなったような気がする。皆、急ぎすぎているのだろうか。

2022年8月5日金曜日

ロバの耳通信「A.I.ライジング」

 「A.I.ライジング」原題: Ederlezi Rising (18年 セルビア)

セルビアという国の名前以外に思いつくことがなく、映画も初めてだと思う。長期の宇宙飛行のあいだの宇宙飛行士と女性型アンドロイドの関係の変化を描いている。男がなんでも意のままになるアンドロイドに不満を持ち、人間性を求めたためにお互いが破滅の道を歩むという、まあ、ありそうな話ではある。

アンドロイドを演じるスロベニア生まれのストーヤの演技がいい。アメリカのポルノ女優でもあるというストーヤが細身のファッションモデルのように美しい。

膨らむのは妄想ばかり。いろいろな意味で意のままになる異性というのはなんとも羨ましいと思うのだが。



「チ。-地球の運動について-」(20年~ 魚豊 小学館ビッグコミックスピリッツの連載漫画)

漫画で衝撃を受けた。ジジイながら漫画で衝撃を受け、電子版ながら寝るのも惜しんで、一気読みしてしまった。

15世紀のキリスト教と異端の地動説の戦い。鮮烈と残酷。異端を排除する宗教の恐ろしさに戦慄。とにかく、まいった。魚豊には「聖書」を書いて欲しい。是非。

2022年8月1日月曜日

ロバの耳通信「蒼穹の昴」「中原の虹」

 「蒼穹の昴」「中原の虹」

日清戦争~太平洋戦争の頃の上海・奉天・北京などの中国を舞台にした歴史小説。馴染みのある都市名や実在の人物名、史実が散りばめてあるのでノンフィクション小説の趣もあり、作り物だらけの娯楽作品とは異なり、じっくり腰を据えて楽しむ事ができた。2作品、合計8冊、全3000ページあまりの大作だが、まさに寝る時間も惜しむくらい夢中になってしまった。ずいぶん昔、全13巻を寝食忘れて読みふけった「三国志」(01年 北方謙三 ハルキ文庫)以来だろうか。


浅田次郎の作品は、いわば掌編の恋愛小説の塊(かたまり)だと思う。

たとえばこの「蒼穹の昴」では、大作の中ではほんの脇役でしかない小役人の「復生」が一緒に住み始めた恋人「玲玲」に言う。

”「私は家というものを知らないから、大好きなあなたにも何をしてあげていいんだか、どうすればいいんだかわからないです。」”

小さな頃に肉親・兄弟を流行り病で失った復生の言葉はたどたどしくも、ズシンとくる。

”「あなたのことを一生愛し続けていいですか。

死ぬまで、あなたのことを、今と同じように愛し続けていいですか”(p1056 原文のママ)

たどたどしいセリフである。浅田の作品では後先に、こんな情感に溢れた言葉がイッパイ出てきて、何度も読み返し。読み終えて、数日たって、感動を反芻したくて、ページを何度も戻ったりした。

このたどたどしいとした愛情表現は、「ラブ・レター」(97年 浅田次郎 集英社「鉄道員(ぽっぽや)」)で、在留資格を得るために「吾郎」と偽装結婚し、病死した中国人売春婦「白蘭」が吾郎にあてたの手紙のなかで「吾郎さん、吾郎さん・・」とたどたどしい日本語で呼びかけるところとソックリだ。つまりは、私には「泣かせる」小説なのだ。

泣くためだけにこの大作を何度も読むことになるだろう。

とあれ、浅田次郎はいい。

2022年7月25日月曜日

ロバの耳通信「笹の舟で海をわたる」「余命10年」「生きてさえいれば」「作らなかった少女」

 新型コロナ肺炎ウイルスに満たされているような映画館が怖くて、映画を動画サイトでしか見なくなった根性なしのワタシ。2年以上我慢したのだから、根拠もないがいろんなことを再開しても、当分大丈夫な気がする。

本は禁断症状が出てきた。手持ちの本は読み尽くし、本屋や図書館も怖くて行けない。幸い電子図書は多少蓄えがあるから、当分コレに頼るしかないが、やっぱり「紙の本」が恋しい。

「笹の舟で海をわたる」(14年 角田光代 Kindle版)

疎開先で一緒だったという風美子(ふみこ)に、街で声をかけられた主人公左織(さおり)。佐織は大学講師の夫と平凡な家庭を持ち、奔放な風美子は佐織の夫の弟と結婚。二人はやがて義姉妹に。こう書いてしまえば、ちょっと変わってはいるが、ありそうなハナシかとも思うが、なんでもできる風美子、なんにもできない左織の暮らしが入り混じり、思ってもみない方向に。

この作品、14年『本の雑誌』で読者が選ぶ第1位だったと(wiki)。納得のできる面白さ。哀しさといってもいいか。角田光代の本は朗読をYouTubeやオーディオブックで聞くことが多かったが、こうやって文字を追いかけ、気に入ったところを何度も読み直せるというのは、やっぱり「本」の強みか。今回も電子図書だったが、やっぱり「紙の本」が恋しい。

Kindle版とはいえ、久しぶりの「本」に感動が強かったようで、その夜とっくに亡くなった祖母を思い出し夢の中で大泣きし、朝、マブタが くっついていた。「笹の舟で海をわたる」も家族の話で、ウチとはあまり共通点もなかったけれど、哀しさはなんだか伝わった。

「余命10年」(17年)・「生きてさえいれば」(18年 小坂流加 文芸社文庫NEO)

35歳という若さで亡くなり、この2作だけを残した小坂流加。長年難病と戦い、結局亡くなった著者が夢に見たであろう青春の喜びや儚さに鼻が詰まった。映画化の話が進んでいるというが、こんなに可愛くて、儚い主人公たちを生半可なアイドルなんかに演じてほしくないな。誰もいないよ、そんな俳優。

小坂流加がまさに命をかけて、描いた主人公や家族、友人たちの夢のようなハナシ。めいっぱいの空想の世界で共感できた。ジジイが何をと笑われそうだけれども、ジジイにも青春はあったのだ。



「作らなかった少女」(20年 北山遠後 Kindle版)

少女が作らなかったのは「雪だるま」。溶けてしまうことが分かっている雪だるまが可愛そうだから。イマドキそんな純粋なコがいるわけないじゃないかと思う。夢物語と割り切ってしまえばいいのだろうけれど、北山が書いた追憶の世界に、浸れた。

2022年7月20日水曜日

ロバの耳通信 「ファースト・マン」「マネー・ショート 華麗なる大逆転」

 「ファースト・マン」(18年 米)原題: First Man

アポロ計画で初めて月面を踏んだアームストロング船長の伝記映画。たまたまAmazonPrimeで発見。まあ、視聴契約中だから見るかと軽い気持ちでみ始めたら、完全にハマった。こんな名作を見ていなかったことに驚きと後悔。

主役のニール・アームストロングを演じたのがライアン・ゴズリング。アカデミー賞受賞作品「ラ・ラ・ランド」(16年 米)で期待はずれに終わり、ソレ以来オモシロクナイという偏見で見ていた俳優だったが、その妻を演じたクレア・フォイとともに最高の演技だったと思う。

この作品、アカデミー賞で視覚効果賞を受賞を撮ったのだが、宇宙船の中から見る宇宙や月面は目を瞠る美しさ。いちばん感動したところは、アームストロングが脳腫瘍で亡くした幼い娘の埋葬場面。棺を墓穴に降ろすラチェットの音。この音で病に苦しんでいた娘が死んだことを観客は初めて知る。すごいとしか言いようのない演出。埋葬、友人や近所の人を集めてのお別れ会のときのゴズリングの表情。そんな、沈んだ場面があちこちにでてくる。

後で知ったがスティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めたと、なんとなく納得。

いい作品は何度でも見たい。Amazonの視聴契約期間が残っているからまた見よう。


「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(15年 米)原題:The Big Short

マイケル・ルイスのノンフィクション「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」が原作。

サブプライム問題(08年頃~)とか、リーマン・ブラザーズの倒産(09年)、世界大恐慌とかよく理解できていない事件の真相みたいなものが頭の中でつながった。”真相みたいなもの”と断ったのは、いまだにキチンと理解できていない事が多いからであるが、とにかく”風が吹けば桶屋が儲かる”くらいのリーマン・ショックのイキサツが多少なりとも理解できたのが収穫。脚本のデキが良いのだろうが、娯楽映画としても充分楽しめた。

主な配役のクリスチャン・ベール、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピットなどにはそれぞれモデルがいたのだろうが、多くの芸達者の俳優のおかげて生き生きとした人物像が(多分)デフォルメされて描かれていて実に面白かった。史実に忠実であろうとしてつまらなくなってしまったノンフィクション映画とは一線を画して、知っている結末なのに、結構手に汗握る展開はやっぱり映画の面白さだ。

2022年7月15日金曜日

ロバの耳通信「女王トミュリス 史上最強の戦士」「ピアノ・レッスン」

 「女王トミュリス 史上最強の戦士」(19年 カザフスタン)原題:Tomiris

紀元前550年頃の中央アジアの草原に住むマッサゲタイ族の長の父と家族を殺された少女トミュリスが復讐を果たすという復讐の物語。スジはいたって平凡なのだが、主演のカザフ女優アルミラ・ターシン(Almira Tursyn)の眼力鋭い表情に参った。見どころは迫力ある白兵戦。CGではこうは行かないだろうと思いつつも、もしかしたらと。とにかく、2時間強を飽かせず見せてくれたこの作品。メジャーじゃないから、なんだか得した気分。


「ピアノ・レッスン」(93年 仏・豪・ニュージーランド)原題:The Piano

普段ほとんど見ることのない恋愛モノと気付いたのは中盤以降。この美しさや残酷さはハリウッドじゃ作れないだろう。19世紀のニュージーランドが舞台。スコットランドから娘とピアノを携えてニュージーランドの夫に嫁いだ失語症の女性の物語。

主演のホリー・ハンターが美しい。当初はシガニー・ウィーバーがこの役を務める予定だったとwikiにあったが、気性はとにかく、あの美しさと情熱的な役はホリー・ハンターじゃなかったら成り立たなかったと思う。夫役のサム・ニールも、恋人役のハーヴェイ・カイテルも良かったが、当時11歳の娘役アンナ・パキンがめっちゃ可愛くて主役を食ってたかな。彼女はこの年のアカデミー助演女優賞を獲っている。作品そのものもカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞。

マイケル・ナイマンの音楽がいい。気に入って、このところずっとサウンド・トラックを聞いている。ピアノ曲ってこんなに快いものだったのかと、再認識。


2022年7月10日日曜日

ロバの耳通信「355」「ブラックライト」うーん、ハズレが多いなぁ。

 「355」(22年 米)原題:The 355

やみくもに新作漁りをしているととんでもないハズレを引いてしまうことがある。映画も結局、好き嫌いだからワタシがハズレとおもっているだけなのだが、動画サイトでハズレがわかって良かった。映画館でこういうのにあたると、ショックはもっと酷いものになっただろう。コロナ禍で映画館に行くなんて、それだけで命がけなのだから。


映画紹介では、スパイもの、アクション、美女勢ぞろいーとかの気を引く文句を並べてあったから、期待してみたのに(ブツブツ・・)。原作ナシ(脚本家が共同執筆だから、スジもオチもなし)、主演女優を5人(ジェシカ・チャステイン、ペネロペ・クルス、ファン・ビンビン、ダイアン・クルーガー、ルピタ・ニョンゴ)も並べたからメリもハリもなし。何人かは見た顔だけど、名前と顔が一致するのがベネロペ姉さんだけ。みんな、アクションなのにヨタヨタじゃないか。

原題は18世紀のアメリカ独立戦争時代に実在したパトリオット側の女性スパイエージェント355にちなむ(wiki)と。


「ブラックライト」(22年 米ほか)原題:Blacklight

これもハズレ。ヨレヨレのFBIの偉いやつ(リーアム・ニーソン、捜査官でもないらしい、なんとも正体不明・・)が、旧友のFBI長官の悪行(これもどんな悪行かほとんどわからない・・)を暴くという物語。wikiによれば脚本、監督も大物らしいのだが、こんな酷い映画ひさしぶり。だって、半分過ぎても何の映画かわからないなんて。カースタントやラスト近くのドンパチもあるから、アクション映画なんだろうけど。リーアム・ニーソン好きなんだけど、こういうC級映画で老体鞭打っているのを見ると、なんだか気の毒。